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エルクロが男に戻りたいと思う心があるからおち〇ち〇を生やそうと思うのだと結論に至り

 奥へ進むと天幕がそこら中に広がり人混みと露店商の呼び込みが重なって騒がしさが増していく。


 焼き栗の匂い。油の跳ねる音。香辛料の粉が陽に舞って鼻の奥が少し痺れて、胃を刺激していく。


「……食べながら移動しましょうか」


「それを言われて思い出したぞ。この街に来た時にちょうど定期市場が開いてたがボクらは金が無さ過ぎてそれぞれ食べたかった蜂蜜菓子も、串焼きも買えなかったな。パンだけが安くて買ったのだが喉に詰まって、茶を買う金もなく死にかけた」


「今は……違いますがね。けど食べたいと思っていたことも忘れてましたよ」


 話のままかつては買うこともできなかった串焼きと蜂蜜の揚げ菓子、柘榴茶を購入した。


 串焼きの脂が陽光に煌めいて、蜜を垂らした揚げ菓子が金色に光る。


 ……半分に分けてシェアしろと言われた気もしたが。普通に一人一つずつ買えばいいだけのものを分けてもおかしな気がして、またアズの助言を無視する形になった。


 そのあとに違う味にしろと言われていたことを思い出したが、もうあきらめることにした。


「……それで、なぜ急にデートをしようなんて言い出したのかね? この計画が皆のそっけない態度の原因かね?」


 エルクロは揚げ菓子を頬張りながら尋ねた。千切れた生地から溢れ垂れる蜜が唇を艶やかに潤していく。


「…………しくないからです」


「なんて言ったんだ? 君らしくもない小声だな」


「……生やしてほしくないからです。まして人のモノをつけるなんて自分の身で考えたら絶対に嫌です」


 食事中にする話ではなかったがぼかせる話題でもなかった。断言すると、心当たりはもちろんあってか、エルクロは動揺するように僅かに目を見開いた。


「……ボクがすべきようにすべきだと言ったのは君ではなかったかね?」


 怪訝な言葉を投げかけて、深紅の双眸が鋭くこちらを見上げてくる。


「そうですね。言いました。俺はエルクロに男であるべきだとか、女であるべきだとか言いたくないと言い訳をつけて自分の選択を避けました。申し訳ないと思っています。けど俺たちは、エルクロが自分のことを迷惑だと思って、そんな自己犠牲みたいな形でおち〇ち〇を生やすような歪な解決策を取って欲しくはなかったんです」


 思っていたことを吐露していく。引き込まれるような真っ赤な瞳に、真剣な眼差しを向け返した。


 ……エルクロはしばし黙り込んでいたが。何かが決壊するように不意に噎せ込んで、激しく嗚咽した。鼻から少しだけ先ほどのお茶が垂れていく。


 恥ずかしがるようにすぐにぬぐい取って、お前が悪いと眼が物を言ってくる。


「……真面目な顔をしてお〇ん〇んだとか言われると言葉に困るだろう?」


「俺は真面目です。本気で生やして欲しくはなかったんです」


「く、ふふ……。ふふ……!!」


 エルクロはバシバシと俺の背中を叩いてくる。肩を震わせてバカにするみたいに笑っていたけれど、顔は真っ赤だった。


(ボクは可愛いだろう。見たまえ。君ですらわかる照れ隠しだぞ)


(ええ、可愛いですね)


(語彙力死んでないかね? 君)


「……それがどうデートしようとつながるのかまるでわからないぞ?」


「エルクロが男に戻りたいと思う心があるからおち〇ち〇を生やそうと思うのだと結論に至り、エルクロをメス堕ちさせようという話の流れになって、合コンだとか社交パーティだとか、そんな対処法が提案されていきました」


「……それはボクに言ってよかったのかね?」


 どうだろう。ダメだったかもしれない。だが隠し事をしたままデートができるほど俺は器用な人間ではなかった。


「…………俺は抜け駆けしてあなたをデートに誘って、パーティだのを全部中止にさせました。そういうのが苦手だとは知っていたので」


(本当に理由はそれだけかね? 君は嫌だったんじゃないのかい?)


 耳元でエルクロの幻聴が囁いてくる。


(逆に聞きますが嫌じゃない人っているんですか? ずっと一緒に修行してきた仲間がちゃらけたパーティに赴いて女を知るなんて、許される事象ですか?)


(言えばいいだろう? 隠し事は苦手なんじゃないのかね?)


(自分を客観的に見てきもいんでダメですね)


 頭のなかのエルクロを黙らせることに成功して、逸らしていた視線をエルクロに向け直す。


 目が合うと、彼女は口元についた蜜を舐めて飲み込んで、牙を見せてほほ笑んだ。


「それで? ボクをメス堕ちさせるためにデートを提案したのかね? ふっ……ふふふふ。その、具体的にメス堕ちってどういう手法でする、のかね……?」


 どう? どうやって?


 俺にもわからなかった。ただ沈黙し続けるわけにもいかず、アズから教えられた言葉を必死に呼び起こしていく。


「……手を繋いだり、買い物をしたり、昼食を食べてエスコートするとかですか?」


 呆れるようにエルクロは口をぽかんと開けたままジトリと俺のことを睨んだ。不意に脇腹を肘でどつかれる。


「……カマトトぶるんじゃないぞ。むっつりが。ほら、そういうならエスコートしたまえ」


 エルクロは顔を隠すようにそっぽを向いて少し機嫌が悪そうに前髪を掻いた。

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