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それでエルクロメス堕ち作戦とかいうのは結局なんなんだい?

 五章:題して、エルクロメス堕ち作戦



「――ですよ!」


 エルクロを除いたパーティメンバーが一室に集まるや否や、アズは声を荒らげて、バン! とテーブルを強く叩いた。


「なにが突然、ですよなんだい?」


 ルロウが当然の疑問を投げかけたると、天使のアズは白い翼を広げ、虚空に金色の文字を刻んだ。


 ――――エルクロメス堕ち作戦。


 その滑稽な文字列はここにいる全員がすでに目にしていて、投げかけた疑問の意味はそれの内容についてだ。


「タイトルを見てください。エルクロメス堕ち作戦です。……内容は順を追って説明しますので、まずはお手元の資料を確認してください。それがワタシの持っているデータでもあります」


『今話題の整形性改善術式』


『呪術と医術の最新融合! 成りたい自分になれる。新たな自分探し!』


 デカデカとした共通語とルーン文字で書かれた広告文。


「エルクロ様は思い悩んでいます。現在は食べちゃいたいぐらい可愛い女の子になっておりますが、このままでは迷惑を掛けるからと考えた解決策が生やすことなようです」


「食べちゃいたいとか言っちゃうのはおじさんの台詞なんだよねぇ。それでエルクロメス堕ち作戦とかいうのは結局なんなんだい? おじさんも自分の娘みたいにカワイイ子が一時の迷いで重い選択はしないでほしいなぁ。…………取り返しがつかないからさぁ。どうにかしたいとは思っているんだよ?」


 ヘラヘラとした態度を取りながらも、ルロウなりに真面目に話は聞いているらしい。エルクロから思春期の娘成分でも摂取したのか、アレルギー反応を起こしていた。


「作戦内容は簡単です。男でいろ女でいろと命じるのではなく、エルクロ様から、女でいさせてくださいと懇願させるぐらい。彼女に女の喜びを与えましょう」


 なんだか言い方に語弊があるように思えて、俺は咄嗟に顔を俯けることしかできませんでした。


(なんだ? ボクにそういうこと言わせたいのかね? 嗚呼……ギンロウぅ♡ ボクのこと……女の子にして、って?)


 幻覚のエルクロがテーブルの上に座った。ぱたぱたと狼の尾を揺らすと、膨らんだ胸を焦らし、見せつけるように服のボタンを外していく。


 ――心頭滅却。静かなるごと林の如し。


 俺はいくつかの耐性スキルを無詠唱して自分に付与した幻覚と魅了を解除して事なきを得ました。


「がう(女の喜びを与えるというが、具体的にどうするつもりだ。ここにいるメンツにそんな遊び人みたいなことができる者はいない。いたらこうはならないだろう)」


 虎の鳴き声と共に形成されていく辛辣な文章。


 だが正論だ。


 そもそも、男パーティのなかでエルクロだけが突然美少女になったせいで困るというのが事の始まりだ。


 追放したはずだが結局、上目遣いに負けて自由に出入りさせているし、サンゲツは虎になって、俺も気絶と自傷を繰り返し、ルロウは娘を思い出してブルーになってしまうし、ユスティーツは変態だ。


 ハッキリ言って俺達は女に弱い……と思う。もしくはエルクロが強い。


 一番マシなのはルロウだが、離婚した彼の心をさらに抉りそうな気がしてならない。


「いないだできないだ知ったこっちゃありません。あなた達は貞操以上に大切なものを失おうとしているのがわかりませんか……!? あーだこーだ言ってないでやるんですよ」


 アズの鋭い眼鏡の逆光が俺を睨むと、他の皆の視線も向かってくる。


「がう(ギンロウ、汝が立候補しないならオレは遠慮なく口説こうか。……それが嫌ならお前が行け。誰が見たってわかる。それが最適解だ)」


「おじさん、あんな年頃の子と恋愛ごっことかできないよ。パパになっちゃうから」


 ならないから安心しろとでも言うべきだろうか。


「主はおっしゃりました。定められたカップリングを、運命だと」


 壮大な物言いだが色恋沙汰を茶化しているだけだ。


(君は皆が君を推薦するとわかっていて巻き込んだのではないかね?)


 ――その通りだ。背中を押されたかった。猫の手も借りたいぐらい不安だったから。


「それで結局、メス堕ちってなにをするんだい? 去勢するものもないだろう? 媚薬でも盛って既成事実でも作るのかい? おじさん、オーガニックのほうが好きなんだけどなぁ」


「簡単です。何度も言うように機会を作るんです。男女が自然といい雰囲気になれるような。そう、パーティです。合コンです」


 ……気が乗らない。パーティなんてのはハッキリ言って柄じゃない。


「気が乗らないって顔をしても無駄です。ギンロウ、あなたはまずエルクロを誘ってください。場所はワタシがデータに基づいて用意します。他の方は怪しまれないように適当な人を誘ってください」


「誘うってどう誘えば」


 それでもやるほかないので、顔を真っ赤にしてでも尋ねるしかなかった。


 ……のだが、全員が例外なく鼻で笑い飛ばした。


「がう(一緒に来てくれませんかとでも言えばいいだろう? 一緒に風呂入ってサウナにも入っておいて、何を今更困ることがある)」


「主はおっしゃっています。意思あるところに道は拓けると。ですがつまり、穢してやろうってぐらいの気持ちがないとベッドまでの道のりは生まれません」


「おじさんそんな軟弱者に育てた記憶はないなぁ」


「奇遇ですね。育ててもらった記憶はないです」


「なんでおじさんにだけ辛辣なんだい? どう考えてもそこの馬鹿司祭のほうが意味わからないこと言ってるはずなんだけどなぁ……」


 思い思いのことをのたまった後、ルロウは区切りをつけるみたいに一呼吸を置いた。ぼけっと見ていると、赤い翼に背中を強く叩かれる。


「ほら、まずは予定を空いてるか聞くんだよ? どうせエルクロは暇だし、君が断られるわけないんだから。舞台の用意はおじさんたちに任せるんだ」


「……用意が間に合わなければ?」


「おじさんたちが用意とか計画とか立てれないダメ人間だって判明するかな。……けどまずは自分の心配をしなよ。武運は祈ってあげるからさぁ。ほら、レッツーー?」


「ろく」


「ゴーだよ……」


 しょうもないボケをぼやいて、エルクロメス堕ち作戦が始まりました。

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