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さぞ驚くのではないかね? ……うぬは男に戻るためにここに来たのに、戻ったらTS巨乳ケモミミヴァンパイアの誕生であろう? めでたいな

「それじゃ呪いをかけるから、痛かったらヒッヒッフーってするんだぞぉ?」


「いつからボクは妊婦になったんだ……?」


 阿呆な応答の直後、詠唱の時間もなく目の奥に激痛が奔った。涙の代わりに口から血の泡が溢れていく。


「ほら、これ飲んで」


「飲めぇゔか……クソ……ッーー」


 多量の吐血。曖昧になる意識。口の中が鉄臭さと酸っぱさでいっぱいになるなか、気力だけで強引に解呪飲料を呑み込んでいく。


 ――ゴクンと。


 たったそれだけで途端に痛みは止まったが、まともに息ができずにしばしの間、みっともなくぜぇはぁと息が果てた。


 鉄臭さを吐き出すように嗚咽する。舌に絡んだ解呪飲料は妙に甘ったるく、粘り気があって最悪だった。


 泣きかけたのを堪えて、舌に絡まった血ともろもろを吐き出していく。


「おぇえぇ……おいしくない…………。おい、記録水晶で何撮ってるんだぁ」


「ふひっ……! だ、だってのぉ? 嗚呼、あまりにも愛らしいものだからなぁ。これを見たらギンロウ殿だってもう、おっふってなるぞ? 映像、送ってやろうか?」


「冗談じゃないぞ……」


 ある種の脅迫だった。そのつもりはないだろうけど。


「実験はこれで終わりか……? まだだとしてもダメージが入るやつは断るぞ。暴れまくって、価値のありそうなものだけでも破壊し尽くすからな」


 なんとか息を整えてぐしぐしと口元を拭った。


「ならあと二つだけ呪いの効果を試めすぞ? 君が失ったものが三つだから、呪いも三つだ。平等であろう?」


 そうだろうか?


 にわかに疑問ではあったが反発しても仕方ないので従うことにした。


 リュリュはすっと立ち上がるとボクの背後に回り、その柔らかな胸を当てつけとばかりにボクの頭に乗せて押し付けてくる。


「……呪術の実験台になるとは言ったが君の胸を乗せるための台になる了承はしていないが」


「嫌だったかえ?」


「嫌ではないが、……無いものが疼く感じがして気持ち悪いのだよ」


「ふぅむ。なくなった身体の感覚や痛みを錯覚してしまうのかね? ファントムペ*スってことだ。ふひ……ッ」


「ファントムペインな?」


 訂正したがリュリュはケラケラと嘲るだけだった。胸もどかない。


 見上げ睨むと、むしろ余計に重さがのしかかる。


「すまんが身体接触をしていないと調整が難しくてね。大人しく我にぱふぱふされていたまえ」


「ぱふぱふて……」


「ほら、呪ってやったぞ。鏡をみてみるがよい」


 ずりずりと引き摺られていく曰く付きの鏡、……に映るボクの姿。ぴょこんと頭から狼の耳が生え、スカートが持ち上がるように尾が揺れていた。


「うん。ボクは自分でいうのも何だが可愛いな?」


「うぬはバカかね? 呪いで生やした擬似的な肉体部位についての感想を聞いているのであって、誰も鏡をみて自惚れろとは言っておらぬ」


「……属性過多だな。聴覚や嗅覚は確かに良くなった気もするが……尻尾は少し邪魔だな。スカートがめくれるし、レギンスとパンツがズレる」


 神経が繋がっているのか、尻尾を自由にゆらすことができたが、ゆらすほど余計にずり落ちてくる。


 ボクを見てはぁはぁと粗い息遣いが聴こえ始めて、辟易した。


「君はどうしてボクが男でも女でも変わらずにそんなやつなんだい?」


「ふひ……どうも」


「褒めてないが」


 引きつった笑みで頬を赤らめるリュリュ。……話が通じない。


「我にとっては男だとか女だとかは関係ない。うぬはうぬだろう?」


 当然のことを話しているみたいに彼女は豪語した。……なんだかどっちつかずで悩み続けてる自分が馬鹿みたいに思えてくる。


「どっちでもエロい」


「はぁ……」


 訂正。馬鹿みたいではなく、馬鹿だった。馬鹿に翻弄されるボクが。


「それでこれを戻す解呪アイテムは?」


「もう試したのだがね? うぬには効き目が悪かった。まぁ、数日で戻るだろうて」


「呪いを治しにいって耳と尻尾がついてきたって言えと? ……ルロウにどんなことを言われるか堪ったもんじゃないぞ」


「おじさん動物を美味しくするのは得意だよ? けど肉食獣は味がよくないから、食べるより食べられちゃいたいなあ。……とかであろう?」


 驚いた。再現性が高い。


 本質が似通っているのかもしれない。


「……っち。まぁいい。痛くはないし悪くはないからな。それで、あと一つはなんだ?」


「ふむ。ではさっそくうぬを呪おうか。これは身体が重くなる呪いでな? まぁ悪いようにはせん」


 リュリュは老獪な笑みを向けると不意にボクの胸を撫で揉んだ。


「んひぅ……!? な、なにをする……!!」


「なにって、呪いをつけているのだよ。うぬの身体を重くする呪いをな」


 パチンと。指を鳴らす音が響くとほとんど平坦だったボクの胸が膨らみと重さを帯びていく。


「で、でっか……くなってくぞ。ボクの……その」


「おっぱい」


「そうだ。おっぱいがでっかい」


 いささか服がきつくなるぐらいたわわに胸が成長した。なんだか少し違和感がして、ついつい、この身体になったときと同じように自分の胸を揉んでみたが……悪くない。


 戦ううえでは邪魔だが……なんというか、自尊心が満たされてくる。あとはこの姿をちょぴっとだけ見せびらかしたくなって、身体が疼いた。


「ふふ……ギンロウ達はどんな反応をするかな」


「さぞ驚くのではないかね? ……うぬは男に戻るためにここに来たのに、戻ったらTS巨乳ケモミミヴァンパイアの誕生であろう? めでたいな。酒でもついでに買わんかね?」


「そうだな。買おうか」


「……冗談だったのだが。ほら、解呪するからもう一度揉むぞ?」


 わきわきと蠢く指。ボクは咄嗟に後退りした。


「まてまて。……この呪いも時間経過で治るのか?」


「戻るが、なぜそんなことを聞く?」


「…………せっかくだしこれはこのままでいい。……うん、このままでいいぞ」


 なんだか少し恥ずかしくて顔が赤くなってしまったが。別に大した意図はない。……と思う。ただこの姿はこの姿で悪くないから。少し見せたいだけ。


 なのだが、リュリュは何故かおぇって感じの表情で呆れていた。


「甘すぎる……。甘すぎるぞ。我が悪かった。本題に入ろう。呪いの原因だが――――」


 焦らすようにリュリュは長い沈黙を置いた。

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― 新着の感想 ―
絶対どっかでひねくれてるだろ
内なるコンプレックス、自虐感を曲解して肉体の変容として実現する呪い そして変容を心から受け入れてしまうと呪いによる変容は不可逆となる 呪いの根源が自分自身であるが故に、変容した肉体を強く拒絶し続けなけ…
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