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「いや、どう見ても女の子だろう……? 胸もあるぞ」

 書いてて思ったんですけど登場人物バカなんじゃないですかね。あまりにも

 ――――鍛冶工房。


 武具を鍛え、時には鍵縄やクナイといった暗具さえも造り上げる冒険者にはなくてはならない場所だ。ユニットバス? とか疑問に思う歴史学者もいたが、そうした戦闘における技術開発が魔法に限らず科学さえも発展させている。


「親方ー!! 親方今いるのかー!?」


 鍛冶工房の内部にまで行ったのは久々だった。ボクが床に転がる石炭くずやら耐火煉瓦を踏みながら呼びかけているとドタドタと慌てるような足音が響く。親方だ。


 筋肉質な肉体。竜人として誉れ高い艶のある二本角。整った相貌。親方はボクを見下ろし、足先から頭頂部までジッと見据えて、不意に目を見開いた。


「っ……!? 何があったんだ?」


「わからない。突然倒れてこうなってしまったんだ」


 親方は緊張を露わにしてごくりと唾を呑み込んだ。するりと、手から火かき棒が落ちて甲高い音を響かせる。


「倒れたら……女の子になったのか?」


「もともと女の子だろ。大丈夫か?」


 ラジアは看板娘と言ってもいい。


 快活でへそ出しで、とにかく、男性人気が高い。だというのに親方は。


「もともと女の子だったのか!? ずっと男だと思っていた……」


 驚愕の声をあげた。


 正気か? こいつ。思わず訝しむみたいにジッと見上げてしまった。いまだ慣れかねる黒い髪がふわりと揺れる。


「いや、どう見ても女の子だろう……? 胸もあるぞ」


 ボクは抱きかかえたままのラジアの身体を見せつける。精神的には男のつもりなのだが、アレが無くなったせいか平静さは保てる。


「確かに小さいがあるな。だが下着はつけたほうがいいんじゃないか? 見えてるぞ」


「え、つけてなかったのか?」


 ラジアの身体を見るが、いくら露出の多い服装とはいえ下着の有無は確かめないと分からない。シュレディンガー。


「なんで疑問形なんだお前……。上から見たら丸見えだぞ」


 親方の観察眼と言ったものなのだろうか。どれだけラジアの胸やらを注視したってやっぱりボクにはわからなかった。


 膨らみは、ボクよりも全然大きい。


「なぜ下着の有無はすぐに判断つくのに、いままでずっと男だと思っていたんだ……? それなりに関わりもあっただろう」


 思い出す限りラジアと親方はそれなりに長い付き合いだったはずだ。異性的な交流がなくともいくらでも判断がつく時はあったと思うが。


「いや、以前衣服の採寸のために半裸になってもらったじゃねえか。あのとき何の抵抗もなかったし、胸だって一切なかったぞ」


「半裸にさせて胸まで見たのか……!?」


 親方とラジアの関係がボクには分からなくなりそうだった。間違っても男に見える要素なんて彼女にはない。


「胴寸測るために測定器も押し付けてたけど何も言わずに身を任せてくれてただろ?」


「そんな特殊なことしたのか!? 普通女の子は女性にやってもらうものだろう?」


「いや、俺は頼まれただけだって。親方じきじきに服を作って欲しいって。今着てるのとか俺が作ったやつだろ」


 少女を半裸にして作った衣服が……脇やら太もも、お腹まわりの肌が大胆に見えているものだということか? しかも彼女の服は尻尾が揺れると余計に際どい。


 ボクは親方との付き合いを改めたほうがいいんじゃなかろうか。


「服のデザインはやっぱり親方の趣味なのか?」


「まぁな。鎧の硬さと布の柔軟さを両立して防具としての性能も充分。魔力の消費だって抑えることができる。ダンジョンは寒い場所も多いから防寒性も重視したんだ」


「防寒性……? これがか?」


「今更性能を疑うなって。ナイフで刺そうが傷一つ付かない代物なんだぞ。ほら、刺して確かめさせてやる」


 親方がミスリル製のダガーを取り出して刃を向ける。ボクは咄嗟に地面を蹴り込んで距離を取った。


「いや、絶対に死ぬぞ。キミは正気か?」


「大丈夫。ちょっとお腹に突き立てるだけだから」


 親方が銀の刃を近づける。ボクがラジアを護ろうと、魔剣の柄に手をつけたとき、不意にラジアが眼を開けて半身を起こした。疲れ切った眼差しでボクらを交互に見つめる。


「ラジア、このままだとキミが親方に殺される!」


「エルクロが最初から女の子だってなんで教えてくれなかったんだよ!」


 お互いラジアに叫んで、『?』が頭上に浮かぶ。ラジアは頭を抱えると何も言わないままボクの腕から降りた。


「頭おかしくなるからエルクロと親方の二人きりで話さないで」


「……むぅ。ボクも混乱してるんだ。ラジアと親方がそんな関係だと思っていなくてな」


 親方は何気なくボクに歩み寄るとミスリルナイフを突き立てる。だがボクの衣服は防具としての性能は充分過ぎるくらいだ。ミスリル銀ごときでは切り裂けないし、痛くもかゆくもなかった。


「な?」


「うん?」


 理解が追いつかないまま親方が炉のほうへ戻っていく。しかしふと思い出したかのように、ボクのほうを見て困ったように頬を掻いた。


「…………次から採寸はラジアにしてもらってくれ。困る。……いや、女の子なのに俺に頼んでたってそういうことなのか? …………いままで俺が気づいてなかったことに不満を漏らしていた? しかし……いや、」


 ぶつぶつと譫言のように色々呟いているが内容は掴めない。


「どうしたんだ?」


 不安になって顔色を覗き込むと、親方は酒を飲んだ後みたいに顔を赤くして退いた。


「いや! なんでもねえんだ。ただ悪かったな。いままで気づけなくて。……俺は鈍感な奴は嫌いだからな。責任は考えておく」


「……? よくわからんが良かったな」


 どうにも嫌な予感が背筋を撫でたけど、単純にボクの背中を撫でまわすラジアの手がいやらしいだけだった。

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[良い点] ものすごい勘違い! 最後まですれ違っていたことすら気がつかないとんでもない勘違い!
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