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「……待て。ボクは男だ!」胸を張ってハッキリと豪語した。周囲がどよめく。

 いや、ぶっちゃけですね。こんなポイント行くと思わなかったんですね。けのびで25m泳げるといいんですが。全然考えてなかったんですよ。ほんとうに

 一章:追放されたので通うことにした






 パーティ追放。


 大体こんなことになる場合の原因はパーティ自体にあるか、追放される人物が能ある鷹ごっこをし過ぎているかの二択だが。


 ボクの場合、正直ボクの所為だろう。


「新しく住む場所が決まったらすぐに連絡する。……なんだ、迷惑をかけてしまったな」


 今生の別れと言うわけでもないのに。目頭が熱くなってしまった。寮の出口で立ち止まってぶかぶかの袖で拭い、サンゲツを見上げる。


「やば……。あ、あ、ああ! まぁ、近くでいいんだ。俺達がわ、悪いところもあるからな。困ったら、すぐに相談してくれれば、まぁ、行くから」


「……ありがとう。サンゲツは優しいな」


 くよくよしてても仕方ない。できる限り最大限の笑顔を浮かべる。酷くしどろもどろした言葉を背に、荷物を纏めて外に出た。


 天社ダンジョンを中心に発展していった街はどんな状況でも賑わっている。家や別パーティも探せばすぐに見つけられるだろうが……。


「住むならあいつらの近くがいいな。ボクがいなくなれば食事当番の一周も短くなってしまう……。ふふ、奴らの料理はガサツだからしばらくは通いだな」


 適当に街中をほっつきながら思考を巡らせていく。


 薬草の店やら冒険者ギルド総合組合やら通り過ぎて、前々から気になっていたが男だから行くの恥ずかしいよねって理由で行けなかった甘味処に腰を下ろす。


 しかし近場に住むにも手元の金は八千万Lほどしかない。ただ生きていくだけなら一生遊んで暮らせるが。


「……装備で大半消し飛ぶな」


 冒険者稼業を仲間の助力無しで行うなら装備の一新もいる。以前の装備は大きすぎるんだ。動きに支障がある。


 そう考えると家賃は安いところがいい。しかし、しかし……。


「風呂無しは論外として……うん、ユニットバスも論外だ」


 ――――上級冒険者として培った価値観の所為で風呂がある家自体が少ない事実に目を向けることはできなかった。


「いや、待て。風呂だけ借りればいいのではないか? 寮は大浴場だ。あれはパーティ資産だし、ボクも同じお金を払ったわけで」


 深夜なら被さってもギンロウと鉢合わせるか鉢合わせないかぐらい。


 問題ない。狂戦士になろうとしたのも……ボクが事故って胸を押し付けてしまったせいだ。確かにボクだって胸はさすがに恥ずかしい。


 だけど、身体接触がなければあのジンロウが動揺する光景なんて浮かばない。あいつなら大丈夫だ。問題ないと言ってくれた。


『幼馴染に欲情する訳ないでしょう。俺たちはずっと寝食をともにし、同じ師匠の元育った家族じゃないですか』


 なんて言ってくれた記憶もある。


「いや、こういう考えがあるから追放されたんじゃないか……?」


 一人では結論がつかず、甘味処のメニュー片手に唸る危ない人になってきている。


「エ、ル、ク、ロぉぉ♡」


 次の刹那、背後から聞き慣れた少女の声と共に触手モンスターが得物を嬲るようなねっとりとした手つきが服の内側に入り込む。


 へそ回りだとか、揉むほどもない胸を小さな手が弄ってくる。


「ちょ……ッんふ? やめろ。やめろ!」


 変な声が出てしまったが咄嗟に椅子を立って距離を取る。


 暗殺者のごとく奇襲攻撃を仕掛けてきたのは武具屋の看板娘、竜人のラジアだった。


 ぶんぶんとへそ出しの際どい衣服をめくるように揺れる竜尾。抱き締められるぐらい一瞬で肉薄され、長く青い髪がこそばゆいぐらい首や肩を撫でる。


「ええい、流石にスキンシップが過剰だぞ!」


「女の子同士普通これぐらいするよぉ。エルクロぉ」


「そうなのか……? 詳しくはないんだ。すまなかった」


 ぐいぐいと頬ずりされる。甘い匂いがボクの嗅覚を突き抜ける。女の子の匂いだ。いや、ボクも今一応女の子? わからない。考えたくない。


 甘味処の客たちが野次にも近い桃色の悲鳴をあげていた。


「……待て。ボクは男だ!」


 胸を張ってハッキリと豪語した。周囲がどよめく。


「攻めがいいってこと?」


「攻め……? いや、今は筋力が足りなくて魔剣を持つにはつらい。ヒーラーをしているんだ。役割としては戦線維持、防御役だな」


 ――噛み合わない会話。


 意図せずしてラジアが思考停止に陥ったところで話を切り替える。


「それよりもラジア。少し相談事があってだな。このあたりで安いが異臭だとか酒場の喧騒だとかが無い程度の家はないか?」


「うん? 寮はどうしたのさ。仲間で割り勘して豪邸にした。菜園で薬草も育てるし池には鯉を放つとか意気込んでたじゃん」


「なんと言えばいいんだ……。ボクが女の子の身体になってしまっただろう? パーティ、いままで女が一人もいなかっただろう? 流石に少し距離を置いたほうがいいと思ってな」


「あー、どうせ全員意地張ってお風呂とか一緒になってたんでしょ。それでシャワー中とかで勃起しちゃって気まずいとか?」


 お洒落なカフェなのに出てくる言葉が汚い。


「……まぁ要約すればそんなところだ。しかし欠員が出てはいろいろ大変だと思ってな。ボクは優しいからしばらくは色々手伝ってやろうと思ったわけだ。それで近場の住まいを探してる」


 頬杖をついてだらけると、チャンスとばかりにラジアはテーブルをぶっ叩いた。青い眼がキラキラと煌めく。


「なら、なら。私の工房貸してあげるよぉ。タダだし近いし。その服ぶかぶかでしょ? ちょうどいい衣服も用意できるよ?」


「親方に怒られるだろう。男なんて上げたら」


「大丈夫。大丈夫ぅ。エルクロ女の子だし。何も問題なくない?」


 ラジアは竜翼をバサバサと鳴らしながらボクの服に手を突っ込んで弄り続ける。凄く慣れた手つきで胸の、こう指でくすぐってくる。


 別に痛いわけでもなかったので抵抗はやめた。


「……ンっ、ふ? ……それもそうだな! ボクの身体がこれで助かった。フフン、ならぜひとも頼みたい。構わないか?」


 やけにベタつく触り方なのが気がかりだったが。またとない提案だった。別に、身体が女の子になったとはいえ思考はまだ男のはずだ。


 看板娘と一緒に過ごせるなんて嬉しくないわけがなかった。


「可愛いなぁ。エルクロちゃん……。うんうん。じゃあ、お姉さんのお家行こっか」


 ラジアは幸せそうに笑みを浮かべる。


 なんだかボクまで嬉しくなって、頬を描いて笑みを返した途端。


「あ、それ凄くいい! すごい! もっとジトーって目で私を見て!! フーー♡ 嗚呼、ずっと可愛いと思ってたけどエルクロ今すっごく、おへぇ……♡」


「は?」


 ラジアは息をハァハァと荒らげ、がくがくと震えて気絶した。鼻部から出血。微熱。


 これが、呪いだというのか? ……ボクは考えが甘かったのかもしれない。


 慌ててラジアを抱きかかえて、彼女の工房まで疾駆していく。

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