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呪いでTSして筋力を失ったので支援に徹底したら男パーティを追放された僕 ~追放されたけどもう遅かった。  作者: 終乃スェーシャ(N号)
二章:狂疾に因りて殊類と成る。今日の爪牙誰か敢て敵せん(思いがけずエルクロと邪なことをしたいと考えたら虎に(後略)
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おじさんさぁ、結婚相手の気持ちも、たった一人の娘の考えてることだってわからなかったから

 1年も放置して本当に申し訳ございませんでした。途中の展開でずっと筆が止まっていたのですが、さすがに沢山ブクマや感想もあったので一度改稿を通して三章を削除し、サンゲツ関連を変えて再開することにしました。

 善処していくので応援してくれると嬉しいです。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 同刻、ギルドハウスのエントランスで困ったように唸り声をあげる獣と、脱毛に悩まされる有翼の冒険者が一匹と一人。


 珍妙でありながら緊張を帯びた様子で静寂のなか時間だけが過ぎていた。


「それで……心の準備とやらはできたのかい? サンゲツ」


「がう(全て試したがダメだった……。状態異常治癒、解呪、薬。どうやらエルクロと同じような状態らしい)」


「あー……ごめんね? おじさんさぁ、結婚相手の気持ちも、たった一人の娘の考えてることだってわからなかったから。『がう(獣の鳴き声)』に込められた意味を推測するのは不可能だよ」


 ただでさえブルーな空気が一瞬にまで黒く染まっていく。サンゲツは鋭い眼差しを細めると、魔力を込め、空中に文字を形成していく。


「ああ、全部試したって話ね? それはまぁおじさんも手伝ったからわかってるよ。そうじゃなくて、リーダーだった君があんな置き手紙を残してどっか行こうとしちゃうぐらい思い詰めてたわけだろう?」


『然り。このような身になることに心当たりがあったからな。怪物に身をやつす者など、大抵は愚かな教訓話にしか登場しないのだからな』


 ルロウは苦笑いを浮かべながら励ましの言葉を熟考していく。……サンゲツの様子を今一度見つめ直し、諦めるようにうめくほかない。


 サンゲツは虎になっていた。ただの虎ではない。猛虎とも言うべき爪。


 ダンジョンの高層のモンスターにも匹敵する鋭さを兼ねていて、容易く肉や野菜を切り裂くことができた。


 身に秘めた魔力は以前のサンゲツ以上に膨れ上がっているうえに、詠唱が必要だった魔術は「がう」の一言で全てが放たれる。


 おかげで切り裂いた食材は高出力の魔力の火で煮込まれていた。


「まぁ便利だしいいんじゃない!? おじさんさぁ、最近スパイスカレーにハマってるから助かるよぉ――ッ危なあああ!」


 八つ当たり、適当ほざいたことに対する虎パンチをスレスレで回避し、ルロウは動揺しながら両翼を広げた。


『真剣に考えてくれ。これからのダンジョン進行、ギルドへの報告。どうすればいいだろうか』


「報告はするしかないし、なるようにしかならないさ。エルクロを見習うしかないよ。むしろサンゲツもその身体で楽しめることを探してみるとか? ……爪とぎとかマタタビ?」


 茶化すと、鋭い威圧が背筋を凍らせた。


『ふざけているのか?』


「そうだよ。ふざけるしかないじゃん。それともその身体でまだ責任だとか色々抱え込むつもりかい? いい機会じゃないか。猫科らしく責任なんてなしに生活してみるべきだと思うけど」


 気まずい沈黙が張り詰めると、段々と近づいてくる靴音がよくわかった。カツカツと。そのうち、荘厳な司祭服を着込んだユスティーツが澄ました笑みを浮かべてサンゲツのもとまで来た。


「嗚呼、我らが隊長。これは試練でございましょう。神は罰など与えません。超えられる試練のみを与えるものでございます。サンゲツ、あなたは有能な魔術師でありながら目つきや立場を理由に女性に触れる機会さえほとんどありませんでした。そうですよね?」


 半ば煽りにも等しい突然の詰問。虎の相貌でありながら引き気味な表情を確かに浮かべるとこくりとサンゲツは頷いた。


「ですが今は人成らず。虎……いいえ、考えようによっては巨大な猫でございましょう? であるならば巨大なもふもふでございます」


『?』


 喋り言葉では決して言い表せない疑問符が魔力を通じて描かれる。ユスティーツはたじろぐことなく言葉を続けた。


「サンゲツ、私が主の導きのもと、あなたを高位司祭アークビジョップであるわたしが管理するペットと仮定してみましょう」


 軋む牙から漏れ出る唸り声。ペットというにはあまりにも殺気立っているなぁなんて、ルロウは遠目に思ったが絶対に口にはしなかった。


「先程申した通り今のあなたは誰よりももふもふでございます。女子供というのはですね。意味もなく丸っこいものやウニ、そしてもふもふには滅法甘いものです。主はこうおっしゃっています。触ってみてもいいですか?」


『それを言うのは主ではなくその女子供なのではないか?』


 冷静な指摘などユスティーツに意味はない。彼は仰々しい演技に拍車をかけるように不意にぶりっ子めいたポーズでくねくねと、気持ち悪く身体を揺らした。


「きゃー……! すっごい! 初めてみました! ええ、凄いでしょう? 乗ってみてもいいですよ? いいんですかー!?」


 キャッキャとはしゃぎ、そして普段の口調も混ぜて一人二役。そんな調子でサンゲツにまたがって――――振り落とされた。


『とうとう気が触れたか?』


「いいえ。主はおっしゃっています。すぐに証明してみましょうと。そろそろエルクロ達が戻ってくるのでドッキリも兼ねて私のペットのフリをしてみてください」


 是非もなく、研ぎ澄まされた聴覚に伝う無数の足音。……エルクロ達が戻ってくる。


『待て……! そんな嘘をついたらいつ正体を明かせば』


 文字を宙に刻み、そして即座に消した。扉が開く音と共に、視界に映る長い髪。むふんと、どこか誇らしげな様子でエルクロ達が戻ってきた。

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