(……考えていることが若干気持ち悪いぞ)脳内のエルクロが苦い顔で指摘してくる。
投稿遅くなりました。言い訳をすると、終末のメスガキ(https://ncode.syosetu.com/n7911hd/)のほうを投稿していました。
なんかまともな戦闘っぽいことしてると不安になってきますがダンジョンもののはずなんですよね。一応
こみ上げる自嘲を押し殺して、彼女の後を付けていく。
(こうして二人でいるとデートみたいだな)
「…………」
斥候と比べてしまえば隠密技術はだいぶ劣るだろうが、冒険者なら誰でも気配を殺すことぐらいはできる。……五層まで来れる奴なら。
(何か言わないと僕も拗ねるんだが)
「……」
足場の不安定な雲海だが身体を隠しやすいのが幸いか。時折、ぽっかりと開いている大空の穴へ足を踏み外さないようにしながら距離を詰めていく。
やがて五層から六層へ上るための経路の一つ、遥か上まで伸び茂る巨大な豆の木の近辺まで来たとき、不意に嫌な気配が脳を突き刺した。
――モンスターが来る。
直後、雲海を突き破って姿を見せる巨大な黒い竜翼。馬面の頭部。シャンタク鳥が不快で正気を奪う鳴き声をあげて姿を現した。
運がないことに中規模の群れ。この時点で並みの冒険者であれば文字通り【発狂】を起こして壊滅する。
鳴き声に呼応するように豆の木の周辺を縄張りにする理性なき巨人、ジャックオーガが膂力を持て余した暇つぶしにエルクロ達へ強襲する。
『ギャアアアアアアア! やってくぜえええエルクロォぉお!』
魔剣の雄叫びがビリビリと鼓膜を震わせた。魔力を帯びた叫びが持ち主の闘争心を煽り立て、モンスターの動きを鈍らせる。
(始まったな。ふふん、いいのか? 僕の隣にギンロウ以外を立たせて)
「危険になったら助けます」
(賢いな。それまでは後方彼氏面か? そしてピンチになったらヒーローは遅れてやってくるって感じか? ギンロウぅ……、いつからそんなみみっちい奴になったんだ?)
ぐしぐしとエルクロが邪悪な笑みを浮かべて脇腹を小突いてくる。
……戦闘が始まった。エルクロの同行者、銀の髪を靡かせる天使は役割としては囮、もとい盾役らしい。
魔力を帯びた短い詠唱。チームの身体能力を底上げする【戦陣】そして【挑発】。
シャンタク鳥の強靭な尾による打撃を盾で受け止め、その攻撃の隙をエルクロが魔剣で薙ぎ払う。エルクロを狙った敵がいれば即座にあの天使が間に割って入り一撃を受け止める。
その繰り返し。打撲。裂傷。明確に身体の動きを悪くする一撃を受ければ即座にエルクロが回復魔法を挟む。
彼女のステータス。実戦経験、それに攻守支援の万能さに依存した戦い方ではあるが。天使の方も盾役としてはミス一つなく、臆することなくエルクロでは受けきれない一撃を受けに行く。
(なんだ? 自分以外がエルクロと息を合わせているのが腹出たしいのか?)
「…………悪いですか」
開き直ってやると、エルクロは困ったように口を半開きにして、僅かに顔を赤らめて黙り込む。……こんな想像とやり取りしている自分が惨めだった。
胸が苦しい。別にエルクロはもともと男で、確かに彼が彼女になるまではここまで思い煩うようなことはなかった……はずだ。
だって俺のほうが彼女のことを知っていて、ずっと一緒に戦ってきた。
「……クソ。落ち着け。熱くなってどうするんですか」
自問自答。エルクロ達の戦闘が終わりかけるとジャックオーガの一体がこちらへ逃げ込んでくる。
――叩き斬った。苛立ち。嫉妬。煮え滾るみたいに鬱屈な感情を刃に込め、一閃すると分厚い筋肉、骨が容易く斬れて。グロテスクな死体が雲に沈んでいく。
(やったな。狂戦士の技術もだいぶ身についてきてるじゃないか。なんだったか、そのスキル)
「……【憤怒の一撃】です」
喜べなかった。スカっとしたのは一瞬で。エルクロが満面の笑みを浮かべて、あの天使とハイタッチしているのを目の当たりにしてしまって。
「ッーー……」
腹の底から溜息が零れた。……引き続き尾行を続ける。
暮れ時の橙はやがて色を落とし紫へ藍へ、黒へと変わる。
白かった雲は影に染まり周囲は暗闇に落ちた。
灯りをつけた奴からモンスターに襲われるが、あの天使も【夜目】はあるらしい。長いこと雲海を歩き続けていたがモンスターの来ない安全地帯を見つけると野営準備に取り掛かっていた。
頬張っているのはあまり日持ちしないレーションだ。あまり長居をするつもりはないのだろう。
「たった二人でこうも戦闘が上手く行ったのは初めてです。こんなデータはいままでありませんでした」
「なら良かったが。データにない事のほうが多いのだからデータキャラをやめたほうがいいんじゃないか?」
あの天使にとってはエルクロが初めてかもしれないが、エルクロにとっては初めてじゃない。最初に二人で潜ったのは俺です。
(……考えていることが若干気持ち悪いぞ)
脳内のエルクロが苦い顔で指摘してくる。自覚はあったので余計なことは口にしなかった。