そんな赤面晒して内股になってるエルクロが? 男?
最初の回に表紙ついたんですよ。嬉しいです(語彙力)
――――アズには悪いが天社の入り口で落ち合うこととなった。僕はラジアに手を引っ張られるまま武具屋へ入る。
「……自分の店じゃなくていいのか?」
「私のお店はオーダーメイドしか受け付けてないから間に合わないよ。こっちはちょーっと品質に色々差があるけど、沢山種類があるから選び放題」
武具屋にも種類がある。ラジアの働いている場所とは違い、この店が対象にしている層は幅広く思えた。
並ぶ商品は量販品ではない。冒険者とラジアのような人達のコネクションを築くための場所にも思える。
「パッと見たがラジアが作ってくれた防具のほうがいいような」
「大丈夫! 選んでくれたらあとで私がそれを真似てもっとクオリティ高いの作るから」
ラジアは創作者として疑わしい発言を笑顔で言い切ると、ぶんぶんと竜の尾を揺らす。
「気になったのあったらとりあえず着てみたら? 試着は許されてるんだぁ。ここ」
言われるがままに手頃な場所にあった魔術・物理への耐性が高そうな甲冑と、フルフェイスの兜を手に取ろうとするとラジアの尾が僕の手を遠慮なく弾く。
「筋力落ちてるんじゃないの? それとも男だと思っていた全身甲冑の剣士が実は美少女でしたごっこしたいの? そういうとこだけ男だなぁ。……で、兜脱いだときに汗ばんだ表情と長い濡れ髪でも見せつけたいの? でもそれをするならもっとエルクロを男友達だと勘違いしたところで、一緒にお酒をのむときに兜を外して気づくとかもいいよね。ずっと男の距離感でいたら違ったみたいな? そういうことをしたいなら応援するよ?」
凄く早口。
ラジアはいつからこんなことを言う看板娘になったのだろうか。これも呪いの所為か? 呪いの所為だったらいいのだが。呪いであって欲しい。
「…………す、すまん。任せていいか?」
「任されたよ♪」
ニャハンと牙を見せてラジアは笑みを浮かべる。僕がとやかく言う前に既に無数の試着防具を積み上げていた。
気圧されて僕はすぐに試着室へ逃げ込んだ。今着ている衣服を脱いで、サラシを締め直して積み上げられた防具を一瞥する。
「なんか……布面積」
「分からないことあったら言ってねー!」
「わぁぁぁぁ!?」
一瞬、ラジアが顔を覗かせてきて慌てて衣服で身体を隠してしまった。
なんだか情けなく思えてきて。目頭が熱くなるのを堪えながらゆっくりと隠すのをやめて開き直るみたいに堂々と腰に手をつける。
「……急にどうしたの? 大丈夫?」
「マジトーンになるのはやめてほしいんだが」
いやな汗を拭いつつ着換えていく。女性向けの防具は軽装なものが多い。
防具自体に魔術的な要素が込められていて肌が出ていても保護の機能は果たしているからだ。その分、値は張るが筋力を必要としない。
まぁ、魔術的な要素で防護性をあげて物理的にも防御する金属製品が一番安全なんだが、重装は訓練がいる。
「……いや、だとしてもお腹を出す理由はないだろ」
錫製の姿見に映る自分と睨み合ってため息が出る。
……可愛い。僕は可愛い。知っている。凄く自覚はある。
だからギンロウに会いに行った。のだが、冒険者の防具までヘソやら脇を見せるのは違うというか。とにかくムズ痒い。
「……これはこれで購入するにしてもダンジョン用にはできんな」
独り言をぼやいて意思を固める。
できる限り肌の露出を抑え、布地は大きく……まぁ、少しぐらいは可愛いものでもいいだろう。そんなこんなで着換え終えて試着室を出た。ラジアが足元から頭の天辺まで注視……いや、視姦してくる。
「えへぇ……やっぱエルクロ可愛いなぁ。男よりその姿のほうがいいよぉ。うん。でもさ。下着は?」
「胸か? つけてないのも気持ち悪くてサラシを巻いたぞ?」
「買え?」
――買おう? ですらない。
試着したまま防具を購入して下着のフロアに引っ張られていく。
「ま、待って欲しい。ラジア、よく考えてみるんだ。僕はこれでも男だ。その、恥ずかしいんだが?」
「何言ってるのエルクロ? そんな赤面晒して内股になってるエルクロが? 男? 昨日だってワンピースに着替えるときなんて独り言言ってたか覚えてる? ふふ、僕がこんなものを着たらギ――」
「行こう!! 下着買おう!」
大声を張り上げてラジアの言葉をかき消した。
誤魔化すみたいになりながら適当に近くの下着を手に取る。――形容するならそれは防御性皆無のヒラついた布切れだ。
……こんなのを皆履いてるのか? ……知らなかった。
「うわぁ……エルクロ攻めるね」
「なにがだ?」
「それ、エッチなときに着る奴だよ?」
「あー……。初めて見た。…………こんな初めては嫌だな」
恥ずかしさよりも納得と虚無感が広がって、そそくさと元の場所に下着を戻す。
「ま、まぁ。僕にはまだ必要ないな。フハハハハ……!」
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