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呪いでTSして筋力を失ったので支援に徹底したら男パーティを追放された僕 ~追放されたけどもう遅かった。  作者: 終乃スェーシャ(N号)
二章:狂疾に因りて殊類と成る。今日の爪牙誰か敢て敵せん(思いがけずエルクロと邪なことをしたいと考えたら虎に(後略)
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男とは組まないんです。ワタシは両性、男でもあり女でもあるのに、一方的に女としてだけ扱われるんですよ? ……無理



「はぁーースーー……。久々に来たな。この木材の香りが懐かしい」


 冒険者組合ギルドは古めかしい教会を模した建物だが。


 求人、交流の場そして酒場から簡易的な薬品の販売所までが併設されていて金に眩んだ場所だった。ここに禁欲の誓いなんてものはない。


 人通りはそこそこ。結局、冒険者なんて命懸けの仕事を選ぶ奴は変人の類なので多くはないが、ロマンと出会いはあるので少なくもない。


「最近はお世話になってなかったの?」


「ボクらは自分らの建物ギルドハウスを買ったからな。あれは組合費用は払わずに自分達で活動できるよってことだ。だがイレギュラーがあった今、保険も降りるし組合も使える。どうだ、案外しっかりしてるだろう」


「女の子になっちゃったことについてギルドは何か言ってたの?」


「女の子になれる確証もないのに女になりたがるやつが命を落とすかもしれないからしばらく情報は伏せろと。女になれたとしても、ボクのようにかわいい、美少女になれるかは別だし、本来は強くなる恩恵を得られるはずだったからな」


「やっぱり案外ノリノリだよねぇ。ヴぁあ可愛い。エルクロちゃんのままのほうがわたしベタベタしやすくていいなぁ」


 ラジアが、街一番の看板娘がだらしなく頬を緩めてダニみたいにボクの顔に張り付いてくる。種族的にいえば陽血種アルカードであるボクのほうがダニに近しいのだが。


 いや、酷い喩えだった。ただどうしてか、女になった所為か、彼女の異常さの方が目についてくる。


「まぁ確かにぃ、実際になっちゃった人がいたら命張るかもねぇ。流れ星に祈るよりは現実的だし。そういえばエルクロは、どうして流れ星にお願い事するか知ってる?」


「知らん。何故だ。魔術的に証明もされていない願掛け程度だとは思うが」


「わたしも知らないんだよねー」


「……そうか」


 ――ならどうしてその話を振ったんだ?


 疑問に誰も答えてくれなかったが。不意に目の前を白い翼が塞いだ。両性具有、光輪種エンジェロイドの男……? 女?


 彼らは中性的で人格性別は分からないが。銀髪の、整った顔つきをしたメガネがボクらを邪魔するように前に出てくる。


「ワタシ達の国、つまりは天界に穴が開くときの兆しが流れ星ですから、星ではなく、本来は天上の世界へ願いを告げるためのものがそうなったと私のデータにあります」


「教えてくれてありがとう。どいてくれないか。そこそこ邪魔だ」


 冒険者になってからは男のときはこんな絡まれ方もなかったが。


 ボクの見た目が良すぎるのか? この天使はどいてくれなかった。スンと鼻で笑うと、ルロウみたいに羽を撒き散らして、やかましい翼の音を鳴らして見下ろしてくる。


「ラジア様と、ワタシのデータにない方ですね? いままでギルドにもいたデータもない。……新入りですか。何をしにこんなところへ?」


「データデータうるさいやつだな。冒険者だからギルドに来たんだ。何が悪い」


 新人いびりだ。こういうことをする冒険者はそれなりにいる。天使がやってるのは初めて見たが。


「本当ですか? どうせ玉の輿狙いが目的じゃあないんですか? ふふ、そうなら剣の練習より乗馬の練習をしたほうがいいですよ。その剣は貴女の足腰にはつらそうです」


 ぽゆんとお尻を撫でられる。線をなぞるような指の動き。ちやほやされるのも、女扱いされるのも。嫌ではなかったが。これは違った。


「っひゅぁ!?」


 ぞわりと明確に鳥肌が立って、思わずこいつの手を掴み地面に叩きつけた。モンスターを殺すときみたいに、手加減なく天使の全身を殴打する。


 肺から空気が絞り出るような呼気と共に白い羽が千切れて舞った。


「ぐべッ、つよ、強いんだなキミ。こ、こんな強いなんてワタシのデータにない……」


 新人いびりなんてしてる奴だから弱いかと思ったが案外平気そうだった。いや、ボクが想像以上に弱くなっているだけかもしれないが。


「……ボクのことがデータにないならボクの強さもデータにあるわけないだろ。それと、この尻は貴様に撫でられるためにあるわけじゃない」


「わたしのためだもんねぇ。痛い痛ぁごめんなさいいいー……!」


 ラジアが触る前に彼女の手を押さえ組みつく。反省したのを見て手を離したが、えへえへと気持ち悪い笑い声をずっと発していた。


「それと失礼な勘違いをしているようだが。ボクは玉の輿なんて絶対イヤだからな。ダンジョンに行く理由なんて単純だ」


 天社ダンジョンはとてもいい。モンスターも沢山いて命の危険がすぐ隣がハイリスクハイリターン。人が簡単に行けないということは開拓されきってないということだ。


「だってロマンがあるじゃないか。五層も超えればこの街が手のひらに収まるぐらい小さく見える。ドラゴンがたくさん出始める。あいつらは格好いい! それに見たこともない魔法の道具が転がっているんだぞ? 読むだけで知識が植え付けられる本や喋る武器がある」


『呼んだか?』


「人前で喋るな。能ある剣は鞘で黙れ」


 すぐに柄を強く握り締めたが、天使は子供のように目を輝かせてボクのことをジッと見上げていた。


 さっきまで新人いびりをしていた性格の悪い奴が、そんなことも忘れて子犬みたいに翼をパタつかせている。


 ……犬に翼はないが。


「凄いな! そんな武器はワタシのデータにないぞ! しかもキミはわかってるじゃないか! やっぱそういうロマンとダンジョンでしか見れないものこそ財宝だよね!? うんうん。ごめんなさい。あんなことしちゃって」


「いや、分かればいい。しかしどーしてあんなことを? あれじゃまるで一流冒険者の強さを知らしめるためのカマセ犬だ」


「パーティの仲間が男が出来たからって突然やめたんです。かれこれもう三人も! もうワタシは女は信じません。それで女冒険者なんて忌々しい存在が生まれる前にああやって野次っていたんです。おかげでギルドから営業妨害って言われてブラックリスト入っちゃいましたが。しかし男しかいないと今度はワタシが尻を撫でられたりするので男も嫌いですけどね」


「エルクロ、こいつもしかしてろくでもない奴じゃないの? カマセ犬じゃなくてとんだ狂犬なんだけど」


「それは同意だが……」


 ギルドで求職中の冒険者のなかではこいつが一番能力がマシだな。そもそも、優秀な奴の大半はパーティからあぶれない。いるのは問題児か新人だ。こいつはどう考えても前者。


「どうだ。他の女がどうかは知らんが。ボクは間違えても誰かに惚れるなんてことはないぞ。試しに簡易的なパーティを組まないか? お前はろくでもない奴だがタフだ。ここにいても迷惑だろう?」


 こいつの能力なら四層は二人でも行けるだろうか。天使は悩む間もなくボクの手を取った。


「乗りました。ワタシでいいなら同行したいです。久々ですよ。冒険者らしい冒険者を見たのは。ワタシのデータにありません」


 天使特有の中性的な顔で彼? は微笑んだ。


「なんのデータならあるんだ……?」


「……エルクロそんなやつと行くのぉ? ギンロウと行ったほうがいいと思うのにぃ」


「なんでそこであいつの名前を出すんだ。……もう少しこの体に慣れて強くなってからがいいんだ。弱いところを見せたくないし、……なんか、恥ずかしいだろう。追放されたのに、二人で行くの」


 ……恥ずかしい? なんで恥ずかしがってるんだボクは。


 考えると頭がむず痒くなってすぐに頭の奥に押し込んだ。話を切り替えようと天使へ向かい合う。


「聞き忘れていたことがあった。名前と役割と。……そういえば男とはパーティを組まなかったのか?」


「名前はアズとデータにあります。役割は聖騎士パラディンです。…………男とは組まないんです。ワタシは両性、男でもあり女でもあるのに、一方的に女としてだけ扱われるんですよ? ……無理」


 アズはスッと、演技掛かった仕草で胸を押さえるような所作をする。なんだかシンパシーを覚えた。


「とにかく! 全は一。善は急げってやつだ。準備ができ次第すぐ向かおうじゃないか。新人いびりをしていたわりには潜る準備は整っているようだしな」


 からかい、すぐにギルドを出ようとするとぽふんとラジアの手が肩に触れる。


「エルクロ、装備は? 私、エルクロが女の子になってから装備について相談を受けた記憶とかないんだけど今何を使ってるわけ?」


 ジッと睨むように竜人特有の細い黒目が見詰めてくる。


「男のときに使っていたものだが? 確かにサイズはやや緩いが着れるし、体が女になったからって態度や服装まで全部女にするのは……」


 今着ている衣服もラジアが用意したものでひらひらとした女物なのだが。それとこれとは話が違う。少なくとも僕はそう思う。


「その、……女の子みたいじゃないか? あんまり全部そうなるのは、ギンロウに色々言われそうというか……」


 ――何故ここであいつが出てくる。そもそもそんな恰好になって一番とやかく言うのは絶対ルロウの方だ。


 とやかく考えると顔が熱くなってくる。別に可愛いと思われるのが嫌なわけじゃないんだが。


「服のサイズが合ってないから動きがぎこちないんじゃないの? それにもったいないでしょ!? こんなに可愛くなれたのに衣服に無頓着とかありえない!!」


「も、もったいな……? いや、後半はさておき動きが本調子にならない原因でもあるのか」


「そうそう。だから買おう? 女の子用の防具。あ、でも本格的にダンジョンに潜るなら装身具と防刃性能のある――」


「素人がどうこうしようとしても難しいだろうし。やはり僕は元の防具のままでも――」


「大丈夫だよ? 私、看板娘だけどそれ以上に武具屋の一員なわけでぇ、プロだよ? だから私が武具のプロとして、女の子素人のエルクロにぃ、女を教えてあげる」


 逃がさないとばかりにラジアが両手を握り締める。僅かに朱に染まりながらも凛とした表情をこちらに向けて、そう豪語した。


「っ、女の子素人……。女を教えてあげる…………。いや、なんだ……突発的にエロイことを言うのはどうかと思うぞ」


「決め台詞なのにエ、エロイとか言わないでよ! セクハラだよ!?」


 人の服に手を突っ込んで胸を弄ったり鼻血を振りまいて気絶した奴がよくもそんなことを他人に言えたものだな。

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