俺達は親友だ。お前が女になっても誰も態度を変えたりなんかしねえよって言われた
蹴伸びで25m泳ぐくらい計画性もないし絶対エタると言われたのですが否定できないです。
不定期連載。
イラスト
@mesuosushi_psd様
同じ作者の別小説です。よければ応援お願いします。
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プロローグ:呪い。女耐性脆弱。無自覚な悪魔
「すまないエルクロ。これ以上は無理だ。パーティを出て行ってくれ」
パーティリーダーのサンゲツは唇を噛み締めながらボクにそう告げた。獅子のごとき金色の髪、眼鏡越しの鋭い眼差し。上級冒険者としての存在感は重々しく、威圧的だ。
長年、ずっと一緒にダンジョンを進み続けていたのに。
「な、なぜなんだ……!」
思わず口にしたが。思い当たる節は一つだけあった。
「秘宝の呪いのせいで筋力が落ちて魔剣を握れなくなったから?」
一か月ほど前、ダンジョンの九層で宝箱を開けて強力な武具を手に入れたが、代償としては何故かボクだけ体に異常をきたした。その結果、魔剣士としてやっていけなくなってしまったという点はある。
「……けど、もともと火力は過剰気味で支援役はキミ一人だっただろう。だからボクも魔剣士ではなくヒーラーとして補助はできていたはずだ。パーティバランスは悪くないだろう?」
嫌だ。離れたくない。涙が滲んだ。ニヘラぁと、余裕ぶっても手足が震える。サンゲツはボクを見下ろしたまま、クイと、眼鏡をあげた。
「違う。エルクロ。戦力は申し分ない。長年いたからこそ協力できている面もある。けど違う。そうじゃないんだ」
「じゃあなんだ。ボクの何がいけない!? 背が何とも言えないことか!? 戦力で不安になったから、皆の代わりに積極的に炊事、家事もして、全員を起こしに行ったりもした! 何がいけないんだ!!」
「お前が無防備すぎるんだよ! 鏡を見ろ。鏡を! 【魔氷鏡】!」
サンゲツが魔法攻撃反射用の障壁魔法を唱えると、ボクの姿が映し出される。……自分でも言うのは難だが。呪いを受けてからのボクは可愛い。
勝気な瞳。ここ数日の睡眠不足でクマが出来てしまっているが。幼い童顔はそれをもってもマイナスにならない。
背は前より縮んだが髪が伸びた。昔と違ってふわふわするし長い、黒く艶のある髪。
残念だが、胸はあまりなかった。けど、そのおかげであまり違和感なく活動できている。
「……これが不細工だったら追放も仕方ないが。ボクは幸い呪いを受けても男が女になっただけじゃないか。戦力として――」
「戦力の話じゃあないんだよッ! お前、この前ギルドの大浴場、どっち行った」
「ああ、それはすまなかったと思っている。確かに誤って男のほうに行ってしまったが慌てる必要もないだろ。ボクが女の子になってしまっても、誰も惚れたりしないし、問題はないし親友だと言ってくれただろう?」
僕らの冒険者パーティは少人数だがとりわけ優秀だ。おかげで稼いだお金で全員、一つの寮、工房もろもろを買って生活していた。
全員男だったし、誰もいちいち反対しなかった。集まるのダルかったし。
サンゲツは深く何度も頷いた。確かに言ったと。そう答えた。
「だが、だからと言って普通半裸でほっつきまわるか?」
「他のやつもしてるだろう。ボクだって以前からしていたし、これで女の子になったからって行動を変えたら女の子みたいじゃないか。それに逆に皆の負担になるだろう」
よく血まみれになるので洗濯物が詰まる。風呂上り、服を着るのも面倒臭くてだらだらと半裸で庭に出たり、トランプで遊んでいた。
――――思い出してみれば、皆の反応が変だった気がする。とりわけ、エルクロ様、エルクロ様と慕ってくれていた武具屋の看板娘が最近、一人で恍惚として息を荒らげたり、執拗にお尻を触ってきていた。
まさか……まさかだが。
「ふっ。まさかだが。男のボクに惚れたのか? お前ら、エルクロが女になったって誰も気にしねえ。仲間だろ!! って言ってたのに。胸がない女は射程外か言っ――――グむぎゅ!?」
口を押さえられた。サンゲツはしゃがみ込むと、ボクに視線を合わせて、肉食獣みたいに鋭い目つきを向けてくる。
なぜか、ドキっとしてしまった。恐ろしくもある。
「悪いとは思っている。だが男パーティのなかでこれ以上お前がいると全員の頭がおかしくなるんだ」
「待……待ってくれ! ボクの親友、ギンロウは何か物申さないのか!? あいつとは歳が片手で数えられるころからの馴染みだ!! 僕が女になっても絶対に態度を変えないと誓ってくれたんだぞ! あいつはどこにいるんだ!」
「ギンロウならここ数日、風林火山と連呼したあと、狂戦士の適正がないか見てくると言って数時間前に神殿に行った。……お前が鍛錬のために庭で戦って、転んで、胸を顔面に押し付けたあとにな」
グサリと、鋭い何かが突き刺さった想いだった。ボクは自分の胸を手で撫でる。そんな大きくないし、無いのと変わらないだろう。……そう口にしたかった。
「他のやつは……なんて?」
「ルロウはロリコンになると言い残して大空へ飛んで行った。神官のジェスに至っては懺悔をしに教会へ。今本部にいるのは俺とお前だけだ」
「……ボク二人になんかやっちゃったか? 女になる前のように振る舞っていたからまるで心当たりが浮かばない」
別に女になったからと言って趣味嗜好が変わるわけでもないし。服は男のときのままだ。
「…………下着、女物だろ」
「サイズが合わなくなってな。武具屋に行ったらあの看板娘が奢ってくれたんだ。タダで貰っておいて使わないわけにはいかないだろう」
「一緒に洗って干しただろ。庭にあったのを見て、ギンロウが壊れたし、ルロウは自分の娘に洗濯物を一緒にしないでがどうとかいって何かを思い出しておかしくなった。ユスティーツは……知らん。あまりしゃべらないしな」
「下着なんて前から適当に干してただろ! 突然ボクが女になったからって気持ち悪いと言いたいのか!?」
「逆だろ普通!! もう前とは違うんだよ。後戻りできねえ段階まで来てる! お前の所為で全員おかしくなりかけてるんだ!!」
サンゲツの怒鳴り声が建物全体に轟いた。それからすぐに我に返ったように、自責めいた表情を浮かべた。
「…………すまない。呪いの所為だと言うのに。いや、オレ達が……女慣れしていればこんなことには」
「いや。ボクも配慮が足りなかったのか。確かに、いくら男だからって、下着を纏めて洗うのはよくなかった。性別が変われば……なおさらだな。それに僕だって別に女慣れなんてしてないし……」
心苦しいが。パーティの皆の気が触れかけているのは事実らしい。女の子になっただけとは言え、呪いだ。知らず知らずに蝕んでいたのかもしれない。
「……わかった。出て行く。けど、その……ときどき顔を合わせるのは構わないか?」
「ああ。それなら全然構わない。――あと、お前が望むなら。俺も個人で冒険者稼業は手伝おう」
「……ふっ。冷静じゃないな。今の僕はアタッカーではなく支援役だ。役割がダブっているぞ?」
サンゲツは数瞬、無表情になってから。
苦笑いを浮かべて確かにと、頭を掻いた。
「幸い金ならある。その辺でやっていくさ。…………なんだ。困ったらいつでも手伝いたい。ボクは呪いを治す方法を探すから、治ったらまた一緒に頑張ろう」
こんなことを長年付き合っていた仲間にいうのはこっ恥ずかしくて、頬が赤くなる感覚がある。誤魔化すみたいに、エヘなんて変な声が漏れてしまったので。慌てて荷物を纏めに走った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
サンゲツは上目遣いで、涙目で見つめられて。
リーダーとしての責任と仲間としての友情と、男所帯の女耐性の低さと自責と保護欲求ともろもろがぐちゃぐちゃになって身動きが取れなくなっていた。
見下ろすと、エルクロのぶかぶかの衣服では小さな膨らみが隙間から垣間見える。彼女はそれに気づかないし、多分永遠に気づけない。
言う理由がないからな。なんて一瞬考えて自分のメガネをかち割りたくなった。
エルクロが荷物を纏めに部屋に行ったのを見て、なんとか押し殺していた魔力が一気に溢れ出た。金の髪は逆立ち、眼鏡に亀裂が走る。
「クソ……。見た目だけなのか? オレは。これじゃあケダモノだ。それにあいつは……どう考えたって――ギンロウとのほうがお似合いだ」
元男。現美少女。関われば失恋は必至。
男パーティを崩壊させるのはあまりに容易だった。