9.魔王、起きる
フェナメス王国(豊の召喚された国)の朝は早い。
一つの街を丸々と高い石塀で囲った広大なこの王国には、外との出入りのための門が10個設けられている。
それぞれの門には門兵がおり、フェナメス王国(豊の召喚された国)へ出入りする者の管理をしていた。
南側には肥沃な農作地帯が広がり、農夫達が南の門から仕事場へと歩いて行く。
北側には魔物の跋扈する平野、森、山があり、冒険者達は北の門からそれぞれの目的の場所へと旅立って行く。
そんな彼等の胃袋を満たすための屋台が路地に立ち並び、様々な種類の食事の入った鍋が湯気を立てている。
店主が威勢の良い声で客を呼び込み、一人、また一人と朝食にありついて行く。
石畳みに座り込み朝飯を掻っ込む農夫。
歩きながらパンに噛り付く冒険者。
朝の太陽の下、街はにわかに活気づいていた。
街の中心部には王城があった。
モダンなヨーロッパ風の城で、街の雰囲気とマッチしていて、その美しい景観は、フェナメス王国に住む人々の誇りであった。
さて話は、このモダンな城の一室でだらしなくイビキをかくおっさんから始まる。
「むにゃむにゃ・・・そこはっ・・・そこはっ・・・触ってもいいぞ・・・むにゃ・・・」
プリンセスベッドのど真ん中で、絹のバスローブをはだけさせ、だらしない裸体を惜しげも無く露出させるおっさん。
そう、僕達の梶田豊(33歳)である。
豊は訳の分からん寝言をほざきつつ、その顔は実に幸せそうであった。
「うひっ・・・うひひ・・・あっそこも・・・そこも触っていいぞ・・・むにゃ・・・」
そんな豊も、すぐに起こされる事となる。
『ご主人様~おはようなのハム~』
ハムちゃんの元気一杯の声が豊の頭に響き渡る。
「うおッ!!!」
突然の声に、慌てふためきつつ豊が飛び起きる。
『わ~い。ご主人様が起きたハム~』
「ああそうか・・・私は異世界に召喚されたのだったな・・・」
豊は実験に失敗した博士の様な、凄まじい寝癖のついた頭をポリポリと掻く。
そして「おはようハムちゃん」とステータス画面の右上で、キャッキャと喜ぶハムちゃんに挨拶をした。
『ご主人様~もう朝なのハム~』
「うんそうだね。今何時なんだろう?」
部屋を見渡してみるが、時計の類はどこにも置いていなかった。
『時計はご主人様のステータス画面に出るようにチておいたハム~』
「なんとッ!!」
いつの間にか豊のステータス画面の右下に、黄色のヒマワリの花が咲いていて、花の丸さを利用したアナログ時計となっていた。
ちなみに時刻は6時00分だった。
ー なかなか風情のある一品ではないか。朝からこんな可愛らしいヒマワリの花が見られるなんて。ようし今日も一日頑張ろうという気になるな。
「ハムちゃんがこの時計を作ってくれたんだね。ありがとう」
『アタチにかかれば簡単ハム~』
ハムちゃんがエヘンと胸を張った。
そんなこんなしていると、コンコン・・・と控えめにドアがノックされた。
「豊様、お目覚めでしょうか?豊様・・・」
若い女性の声だ。
昨日、部屋に案内してくれた若いメイドさんだな。
そういえば朝飯の時に起こしに来てくれると言っていたな。
コンコンコン・・・。
「豊様、朝ですよ。起きて下さいまし・・・」
「・・・」
豊は何故か返事をしない。
『ご主人様~返事チないのハム~?』
「ハムちゃん・・・私にはね、夢があるんだ」
『夢ハム~?』
なかなか起きない寝坊助さんを、メイドさんが優しく起こしてくれる・・・。
何かの本で見たその場面は、豊の記憶に強烈に残り、いつしか憧れへとなっていた。
『わ~い。アタチも一緒に寝たふりするハム~』
「うん。一緒に寝たふりをしよう」
『スヤスヤ・・・(˘ω˘)』
「スヤスヤ・・・(˘ω˘)」
ー 確かあの本のメイドさんは優しく体を揺らし、耳元で囁くように朝だと伝えていたな・・・。フヒヒ・・・。夢が叶うぞ・・・。
コンコンコン・・・。
コンコンコン・・・。
コンコンコンコンコンコンコン・・・。
「豊様・・・お食事の準備が出来ていますよ・・・。起きて下さいまし・・・」
「スヤスヤ・・・(˘ω˘)」『スヤスヤ・・・(˘ω˘)』
若いメイドさんの、鈴を鳴らすような心地良い声がドア越しに聞こえてくる。
ー よしよし・・・もう少しの辛抱だ・・・。ドアのノックが337拍子だったのが少し気になるが・・・。
「豊様・・・起きてらっしゃるんでしょう?私をからかっておいでなのでしょう?」
「スヤスヤ・・・(˘ω˘)」『スヤスヤ・・・(˘ω˘)』
「ええそうですか。その様な事をされるのでしたら、私も本気を出させて頂きますよ」
ガンガンガンッ!ガンガンッ!
先程よりも強くドアがノックされる。
グーでいってるな。
と豊は思った。
「朝ですよッ~!起きて下さい~ッ!!!」
「スヤスヤ・・・(˘ω˘)」『スヤスヤ・・・(˘ω˘)』
ドゴォッ!!ガスガスッ!!ガンガンガンッ!!!
ドアが激しく打ち鳴らされた。
膝入ってるな。
豊は冷静に分析する。
「テメェッ!起きろっつってんだろッ!!勇者だからって調子乗るんじゃねぇッ!!」
ガスガスッ!!ドゴッ!!ガンガンガンッ!!
バコッ!!ドンドンッ!!ゲシゲシゲシッ!!
ドアがサンドバックの様に波打つ。
ー ふむ・・・。昨日見た感じではお淑やかな印象を受けたが・・・。どうやらこの娘はプッツン系らしい・・・。プッツンメイドさんだな・・・。そろそろ返事をするか。頑丈そうなドアがくの字にひん曲がってるもんな・・・。うわっ・・・隙間からこっち睨んでるよ・・・。目が合っちゃったし・・・。目血走ってんですけど~・・・。髪もめっちゃ逆立ってるんですけど~・・・。しかもピーカブースタイルだし・・・。インファイターなの・・・?ベタ足のインファイターなの・・・?
「あっあの・・・起きました・・・」
『おっ起きたのハム~』
「お早うございまし・・・」
もはや意味を成さないドア越しに、プッツンメイドさんと挨拶を交わす。
豊が起きた事を確認すると、彼女の怒りはしおしおと萎れて行き、淑やかな女性へと変わった。
「食事の準備が整いました。食堂へご案内致します」
「それはそれは。わざわざありがとうございます」
『ありがとうなのハム~』
「いいえ。私の仕事ですから」
そう言うとプッツンメイドさんは、グローブの代わりに拳に巻いていた豊のパジャマを差し出した。
「このグローブ・・・洗濯しておきました・・・」
「あ・・・ありがとうございます・・・」
ー パジャマなんだがなぁ・・・。
「とても使いやすい良いグローブでした。豊はさんはボクシングをやられるので?」
「いっいえ…特には・・・」
ー このプッツンメイドさんはいきなり何を言い出すんだ?あと私のパジャマ、ボロ布みたいになっているんだが?石鹸の良い香りがするのがなんだか笑えるな。結果はどうあれ、夜に洗濯してくれて、乾かしてくれた事には違いない。もう一度、礼を述べておこう。
「本当にありがとうございます」
「べっ別にアンタのためにやったんじゃないしっ!!」
プッツンメイドさんは頬を赤らめ、プイッとそっぽを向いた。
ー ツンデレ・・・いや、プッツンデレってヤツか・・・。ちょっと上級者向け過ぎないか・・・。
ピロリロリ~~ン♪
【梶田豊は良い香りのするボロ布を手に入れた】
ー いや、そういうのいいから。
ドア「すまない・・・守れなかった・・・」
ー--
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「私と君達との約束だな」
『約束なのハム~』
「約束なんだどぉ~」