6.魔王、再会する
豊は窓際の椅子に座ると「ステータスオープン」と呟いた。
【案内人を選んで下さい】
ステータス画面に文字が浮かぶ。
その下には幾つもの顔写真が並んでいた。
「この中から選ぶわけだな・・・」
画面をスクロールし、顔写真を確認する。
写真の下には名前と特技と、雇うのに必要な金額が記載されていた。
「ん?なんで金が必要になるんだ?」
そんな疑問が浮かぶ。
そもそも、貨幣単位が良く分からない。
まあ王様が金をくれると言っていたから、案内人を雇うのに困る事はないだろう。
「爺さんが10万ゴールド。ケバイ姉ちゃんが20万ゴールド・・・か・・・」
ー これは一月に必要な額なのだろうか?値段の違いは能力の違いなのだろうか?黄色い帽子を被った幼稚園児がいるが、一体何が出来るのだろうか?・・・出たがり爺さんめ、しっかりと説明しろ。
出たがり爺さんに悪態をつきつつも、案内人の吟味を始める。
ー 一回決めたら変えられないって言ってたもんな。慎重に選ばないとな。
豊は本気になっていた。
夏特有の、湿った夜風が頬を撫でた。
風がどこからか運んできた草の匂いは、子供の頃に嗅いだ故郷の村の匂いと同じだった。
緑が多いのだろう。
懐かしい匂いに、豊の口角が僅かに上がる。
時間だけが悪戯に経過していた。
おっさんは案内人を決めかねていた。
もう何百人と顔写真を見たが、残念ながら【コレだッ!!】と思える逸材はいなかった。
候補は今の所、スナックのお姉ちゃん風のケバいリサちゃん。
28万ゴールド(特技:下ネタ)
次点で幼稚園児の雄太君であった。
300ゴールド(特技:お絵描き)
豊は一縷の望みを賭け、残り少なくなった顔写真をスクロールする。
商社マン風の男。 30万ゴールド (特技:交渉)
顔に入れ墨のある若い兄ちゃん。15万ゴールド (特技:喧嘩)
爺さん。 7万ゴールド (特技:昔話)
婆さん。 5万ゴールド (特技:漬物)
大工の棟梁。 40万ゴールド (特技:カンナ掛け)
爺さん。 6万ゴールド (特技:物忘れ)
爺さん。 11万ゴールド (特技:ゲートボール)
ー 爺さん率高いな・・・。
赤ちゃん。 3ゴールド (特技:夜泣き)
人妻。 14万ゴールド (特技:噂話)
ハムスター。 2万ゴールド (特技:頬袋に種を詰める)
サラリーマン。23万ゴールド (特技:38時間労働)
ー ん・・・・?
ハムスター。 2万ゴールド (特技:頬袋に種を詰める)
画面のスクロールがそこで止まった。
豊の脳裏に昔の記憶が呼び起こされる。
おっさんは小学校から中学校にかけて、女の子のゴールデンハムスターを飼っていた。
『ハムちゃん』と名付け、とても可愛がっていた。
掌に乗せる事も出来たし、ハムちゃんは社交的で良く懐いていた。
指で撫でてやると、気持ち良さそうに目を細め、そのまま眠りに付く事もあった。
ハムちゃんは4年間のハム生を全うし、静かに息を引き取ったのだ。
「こっ・・・このハムスターは・・・ハムちゃん!?」
豊は驚きの声を上げる。
顔中がオレンジの毛に覆われ、真ん丸なお目々の上には、眉毛の様にこげ茶の毛が2つ並んでいて・・・。
ピンクのお鼻の周りに生える長いお髭の、4本目と7本目がそれぞれ白と黒で・・・。
下顎の毛には白と茶色が混ざっていて・・・。
記憶の中のハムちゃんの特徴と、顔写真のハムスターの特徴がことごとく一致する。
そして何より・・・ハムスターの顔写真の名前は『ハムちゃん』となっていた。
「ハムちゃん・・・会いたかったぞ・・・」
震える声で、ハムスターの顔写真をクリックする。
【ハムちゃんを案内人にしますか?】
ー 当たり前だッ!!
おっさんは迷わずクリックを連打する。
【ハムちゃんが貴方の案内人となりました】
ステータス画面の右上に、小さな四角の枠ができ、その枠の中にハムちゃんの顔写真が納まった。
枠の下にはしっかりとした文字で、案内人と書かれていた。
【それではこれより案内人と接続します。どうぞ良い旅を・・・】
余韻を残し、文字がゆっくりと消えて行った。
胸を高鳴らせつつ、接続とやらを待った。
そして間もなく・・・。
『ご指名ありがとなのハム~~ッ!!』
幼い女の子の様に可愛らしい、元気一杯の声が頭の中に響いた。
ハムちゃ~~んッ!!
ー--
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