2.魔王、切り抜ける
フードの者達の案内により、5人の召喚者達は椅子に座る王の前に一列に並べられた。
まさか鑑定をされるなんて思いもしなかった・・・。
豊は召喚されてものの10分で最大の危機に見舞われていた。
腋の下から汗がとめどなく滴り落ち、体を伝いパンツに吸い込まれる。
ー 汗と一緒に私の悩みも吸い込んでくれたら良いのに・・・。いや、パンツにそんな機能が付いていたら、1枚400円じゃ買えないか・・・。そういえばネットでシルク製のパンツが売っていたな・・・。やはり良いんだろうか?なんてたってシルクだもんな。絹だもんな。豆腐も絹ごしが美味いもんな。絹のパンツに生姜を乗っけて、醤油をかけて履いたら、一粒で二度美味しいんじゃないか?
そんな現実逃避をしていると、厳かに王が口を開いた。
「我が妃は鑑定のスキルを持っておる。一人づつ順番に鑑定をかけさせてもらう」
「オイオイちょっと待てよッ!勝手に召喚されて、なんでそんな事までされなきゃなんねえんだよッ!!!」
不良少年がいきり立つ。
ー いいぞもっと言ってやれ。
豊は心の中で、密かに不良少年にエールを送った。
ー 世の理不尽、親の不理解、先生からの軽蔑、同級生からの嘲笑。目に映る物すべてが敵に見えてしまうのだろうな・・・。壊す事しか知らぬ彼は、いつの間にか周りに敬遠されて・・・。「産んでくれなんて頼んでねぇよッ!」とか母ちゃんに言ってそうだな・・・。うぅ・・・母ちゃん・・・。
豊は勝手な想像を始める。
ー 分かるぞ不良少年・・・。私は経験した事がないから厳密には分からんが、多分、分かるぞ不良少年・・・。溜まり溜まった鬱憤、怒り、その全てを偉そうに王冠を被ったその野郎にぶつけてやれッ!
「そう怒るでない勇者よ。ただの形式じゃよ。勇者には国より支援金を出すのでな。本当に勇者かどうかの確認が取れんと金が出せないのじゃ」
「かっ・・・金が貰えるのかよッ!?」
「もちろんじゃよ。勇者様には魔王を倒して貰わねばならんでのう」
フォッフォッフォ・・・と国王が笑った。
不良少年は金と聞くと目の色を変え、すっかりおとなしくなった。
ー 裏切り者がッ!!
豊は心の中で不良少年を罵倒する。
ー 所詮は金で主義主張を簡単に変えてしまう、小者であったか。
そして失望の溜息を吐いた。
最初にスーツ姿の男が妃の鑑定を受けた。
「山田一郎24歳。職業は・・・勇者ですね」
ー どうでも良い情報だ・・・。
この世の中にどうでもいいヤツの情報ほど、どうでもいい物は無い。
次にコンビニ服の女性が鑑定を受ける。
「佐藤恵理子30歳。勇者」
女性は黒縁の眼鏡をクイッと上げた。
ー あの女は陰キャだな。雰囲気が物語っている。どこか性格の悪さも伺わせる。カレーを買ったのに、しれ~っと箸を入れてきそうだ。
そして不良少年の番が来る。
「川崎文也17歳。勇者」
事務仕事の様に妃は淡々と名前と年齢、職業を読み上げる。
ー へなちょこ不良少年か・・・。金を持ってないんだろうな・・・。かく言う私も、高校時代の小遣いは5千円であったな。彼ももしかしたら資本主義の被害者なのかもしれないな。コーラで髪を脱色してそうだ。いかんいかんッ!このままでは私が魔王だとバレてしまう。何か手はない物か?
豊は頭の中に映し出されたステータス画面を眺める。
- ん?スキルって何だ?使えるのか?つかetcってなってるけど、このまま高速道路に入れるのか?いやいやそんな事よりも、偽装ってなんだ?あれ?私にも鑑定のスキルがあるじゃないか。
豊は偽装にカーソルを合わせ、連打する。
【偽装ノ スキルヲ使イマスカ?】
脳内に機械音声が流れる。
ー ハイ使イマス。
ついつい豊も機械音声につられて答えてしまう。
【偽装スル箇所ヲ指定シテ下サイ】
豊は職業の箇所を連打する。
【以下ノ職業ニ偽装スル事ガ出来マス】
戦士 武道家 魔法使い 僧侶 遊び人
商人 貴族 踊り子 農民
牛 馬 カブト虫 ・・・。
豊は画面をスクロールし、必死に勇者の文字を探した。
ー あったッ!!よしよしこれを職業にしてと・・・。
クリックをするとステータスに変化が現れた。
名前:梶田 豊 年齢:33歳
種族:人間 職業:勇者(仮)
ー (仮)が気になるが、文句ばかりは言ってられないな。
女子高生の鑑定が終わり、いよいよ豊の番となる。
厳かな雰囲気の中、妃と対峙する。
ー 乳がでかいな・・・。
と豊は思った。
「梶田豊33歳。勇者で間違いありません」
ー ふむ・・・?(仮)となっていたはずだが、別に良いのか?それとも皆(仮)になっているのか?
疑問は尽きないが危機を脱する事に成功した。
セフセフ・・・。
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