⑧別の人間
遊歩道の木々にブルーのイルミネーションが
輝いている。
キレイだな。
さっきも見てたんだけど不思議。
同じ景色なのに
勇磨がいると違って見える。
勇磨越しの世界は最強だ!
抱きしめられて体がどんどん温まる。
「ナナ、あったかくなってきた。
不安だと体が冷えるの、何で?
指先もキンキンになってさ、やめて欲しいんだけど。」
冗談っぽく、でも真剣な眼差しで言う。
「え、いや、それはみんなそうなんじゃ?」
首を傾げる勇磨。
「他の奴の事は知らない。
だけど、男はさ、目の前で女の子が
冷たーくなってたら温めたくなるの!
だから、ナナはダメ。」
冷たーくって!
何だよ、それ。
勇磨だけでしょ。
というか、さー。
勇磨から離れて、ニヤけてる顔を睨んだ。
「じゃあ、勇磨も、私以外の子が
キンキンに冷えてたら温めるわけ?
それを男だからって理由にされたら、
納得いかないんだけど!」
私の反論にケラケラと笑う。
「確かに!でも、断言できんな。
雪山で遭難して死にそうな子とかなら、話は別だけど。
でも俺はナナだけだな。
ぎゅっとして温めるのはナナだけ。
美人とかかわいいとか、清楚とか、お嬢様風とか?」
そこまで言って、片眉を上げて私を見る。
煽ってるんだな、って分かった。
「お姉さんとか?先生とか?
俺にメリットがある人だとしても、
俺は騙されない。
友好的を装っても心まで持って行かれない。
ナナを超える子なんていない。絶対。」
絶対って。
何故、言い切れる?
ツバサくんみたい。
「ツバサの事は忘れろ!全く。
ナナは俺にとって、最強なんだ。
お前はさ、俺しかないって、
好きって言ってって、俺を腑抜けにするのに、
すぐに他の男に持ってかれるし、
俺の目の前で他の奴と絡むし、
露出の多い服着るしな。
怒る俺をエロイ奴みたいに言う。
なのに頭の中は俺でいっぱいなんだろ。
で、勝手に悩んで別れようとする。
それでいて、こっそり好きでいるんだよね。
もう、俺はさ、そういうのに全部、
持ってかれんだよ。目が離せないの、マジで。
ムカツクんだけど、心配でかわいくて、
意地悪したくなって、泣かしたくて、
でも笑わせたくて、たまんないんだよ。」
なんだよ、もう。
何の話?
なんか、さっきから、バカップル。
「まぁ、そうだな。
今日の俺たちは、完全に痴話喧嘩を
ダラダラとしてるだけだな。
ドラマなら、え?これ、いる?って回。
でも、ダラダラとイチャイチャしてさ、
どれだけ大切か、好きかって伝え合わないと、
俺達また間違えちゃうからさ。」
まぁ、確かに。
私もどんどん、勇磨が好きになる。
昨日より今日。
今日より明日。
もう右肩上がりだ。
いいや、もう、深く考えない。
勇磨の事は勇磨しか分からない。
勝手に想像しない。
そう決めたんだ。
私が、勇磨を好き、それだけだ。
「何?またツバサ?」
ふっ。
「ハズレ!」
「じゃあ何?」
目の前のイルミネーションがぼやける。
幸せ過ぎてぼやける。
「なんで、イルミネーションって、冬だけなのかなって。
いつも見たいなぁってさ」
ベンチに深く座り直し、
大きく足を開く勇磨。
優しく笑って両手を広げた。
「ほら、おいで」
ドキドキしたまま、勇磨の前に立つ。
そのまま手を引かれ、クルッと体勢を変えられる。
勇磨の足の間に入り、後ろから抱きしめられる形で着地した。
肩を包むように私の前で腕を交差して
自分も私の首元あたりに顔を埋める。
勇磨に包まれる。
密着が、ヤバイってー。
なんだっけ、コレ。
あー、バックハグってヤツ!
でも、暖かい。
ふわふわする。
「こうやって見るものだからだよ。
寒い中、こうやってぎゅっとして見るものなの、
知らなかった?」
喋らないでよ、息がかかる!
唇が首にあたるんだよ、バカ!
もう、ドキドキが最高潮で、
心臓がどうにかなりそう。
「あれ、ナナちゃん、緊張してんの?
固まってる。かわいい」
ワザと唇があたるように話してる!
バカにした!
もう、普通、こんなの、緊張するじゃん!
なんで、勇磨ってこうなの!
「あれ、今度は怒ってるんだ。忙しいね」
うー。
もう、バカ!
「もう、やだ!離して、バカ!」
「だめ」
バカ!
「そんな理由なら、どんな季節だっていいじゃん、バカ!」
喋んな、バカ勇磨!
うー。
「バカはそっちだな。
夏にこんな事したら、これじゃあ済まなくなる。」
「は?なんで、何?」
またぎゅっとして、
そのまま首筋にゆっくりキスをした。
体が硬直する。
何、今の?
「じゃあ夏になったら、
またこうして検証してみるか。
お子ちゃまなナナにも分かるよ。」
そう言ってケラケラ笑う。
絶対、悪い事だ!
「だってナナは、
コートの上から触るのは嫌なんだもんね。
手袋だって、嫌だろ?
直接、俺に触られたいって、
さっき言ってたよね?」
違っ、そんな事言ってないし、
そんな意味じゃないの!
「まぁ、いいじゃん。
ナナは俺しかない。
俺もナナしかない。
だけど、お互いがいたら、最強になる。
それで、いいじゃん。」
確かに、そうだ。
この数ヶ月のモヤモヤとドロドロと。
昨日から今日までのどん底絶望感と。
でも今は全て、バカみたいだったな、って思える。
これ、必要?
この話、何?
って思える。
ただのバカップルのイチャつき。
ごめんね、付き合わせて。
でも、いいじゃん。
どこのカップルもそんなもんでしょ。
もっと、やるからね!
「勇磨、あの、ごめんね。
これからは勇磨の事、
勝手に決めつけない。
なんでも聞くし言うね。
勇磨が嫌な事はしないし、厚着もする。
勇磨に嫌われたと思って、すごく怖かった。
本当に怖かったんだ。
だから、嫌われたくないから、これからは
もっと大人になる。
お嬢様風にもなれるように頑張るか、ら」
また話の途中でキスされた。
右手で左の頬を寄せて、
私の肩に覆いかぶさるようにキスした。
「だから、学習しろって。
俺は、お嬢様風なんて求めてないの。
ついでに清楚だっけ?大人の人だっけ?
そんなのもいらないの。厚着もいいや。
着膨れして、ダルマみたいになってるもんな、
俺も反省した。
ナナを俺の好きなように変えたい訳じゃない。」
ダルマって!
「何枚着てんだよ、全く。
まぁ、俺のせいだな。悪かった。
違うんだ、露出の多い服は嫌だけど、
俺を気にしてダルマになるのは、もっと嫌なんだ。
例えば、俺が清楚な子が好き、派手なのが好き、
明るい子、大人しい子って、なって。
それをナナが気にしてくれるのは嬉しい。
でも、寄せてきたら嫌っていうか。ツライ。
だって俺はさ、そのままのナナが好きだから。
ナナだって、俺がツバサに寄せたら嫌だろ」
引いた!
もう、なんて事言うんだ!
そんなの、いい訳ないじゃん!
好みや理想に合わせて好きになる訳じゃない。
そんなパズルみたいな恋はできない。
むしろ、苦手で嫌いだった。
でも、理想からは程遠い、正反対の勇磨が、いい。
私は勇磨が、好きなんだもん。
「だろ、だから、そのままでいいよ。
また俺を狙う女に色々と言われてもブレんなよ。
ファンクラブを1人で蹴散らす、
強いナナちゃんの弱点、
見つけちゃったな。
ナナの弱点は俺だろ?
俺の為、とか言われるとグラつくもんね。
これからも色んな女達が刺客として来るだろうけど、負けんなよ」
刺客って。
でも、来るな、続々と。
だけどさぁ、自分で言う?
全く中2病を患ったモテ男って!
「勇磨、知ってたんだね、
私が先生に言われた事。
勇磨の夢を黙って応援してさ。
見守ってあげられる大人の女子を、
目指したはずだったんだけどなぁ」
ぎゅっと、苦しいくらい力を入れて抱きしめられた。
「大人、ねぇ?」
あきれたような声で言う。
「でもさ、ナナが言ったんだよ。
先生の事、大切にしろって。
先生の技術と人脈は俺の為になるからってさ。
邪険に扱うなって、言ったの、忘れた?」
あ、そうだった。
だって、勇磨の夢の為だから。
私のやきもちなんかで邪魔したくなかった。
「まぁ、いいけどね。
ナナが俺の為に我慢してくれてるの知ってたから、
俺も黙ってた。
葛藤してんのも分かってたから、
早く爆発して俺のとこに来ないかなぁって
待ってたんだけど。」
また、切ない表情で私を見た。
「俺の為を思うなら、絶対に離れるな」
うん、離れない。
はぁ、バカだな、私。
本当、学習しないな。
だけど、今回のことで、私、1つは学習した。
勇磨に、勝手に想像して、私の為って、
私から離れていくのは嫌って言ったのに、
自分が同じ事をした。
嫉妬でドロドロで、でも知られたくなくて
隠して拗らせた。
どうしていいか分からなくなって、
勝手に自分から離れようとした。
全部、勇磨に話したら解決したのに。
1人で悩んでも仕方ない。
いい方向になんていく訳ない。
今なら分かるのに。
これからは、ちゃんと話そう。
想像して決めつけない。
私と勇磨は別の人間だ。
それは忘れちゃいけない。
1つ学習した!
「またツバサ?お前、いい加減にしないと、
このまま帰さないぞ」
バカ、違うって。
「学習したの、1つ。」
小馬鹿にしたように笑う勇磨。
「なんだよ、言ってみろ」
ふんっ。えらそうに。
「勇磨と私は別の人間」
途端に大爆笑する勇磨!
「ふーん。それ、学習したのか!エライぞ!」
なんだよ、それ。
もうっ言わない!
「ごめん、ごめん。笑える。」
涙を拭うほど笑われる事?
「いや、ごめん。そうだよね。
俺達は別の人間だ。その通りだよ。学習したな。」
頭を撫でられる。
何?
もうっ。
そういうとこ、分かんないんですけど!
「別の人間だからだろ」
あーこれ。
しばらく、このネタとワードでからかわれるヤツだ。
「もう、嫌い」
「俺は好き。別の人間だから」
「もう離して」
「やだ、別の人間だから」
「帰る」
「まだ帰さない、別の人間だから」
「もうやだ!」
「嫌じゃない、別の人間だから」
もうっ、本当に、ムカツク!
あ、そうだ。
「バカ」
「バカじゃない、別の人間だから」
「もう、やだ」
「だから、嫌じゃない、別の人間だから」
「好き、離れたくない」
「好きじゃな・・」
そこで切って私にキスをする。
「残念、引っ掛かんないよ、そんなの」
勇磨の目をまっすぐに見た。
瞳にお互いが映るのが見えるくらい、
まっすぐに見た。
「俺も好き、離さない。別の人間だから。
俺の意思。お前がどう思おうが、
俺はナナが好き、離さない」
ああ、そういうことか。
そうだよ、別の人間だ。
いい事、学習したな、ほんと。
「クリスマス前に仲直りして良かったな。
まぁ仲直りとは違うか。ナナが勝手に暴走したから。」
暴走って、でも、
すみません。
「クリスマス、うちに来いよ。
親がうるさいんだよ、ナナに会わせろって。
ミアンとリノも彼氏、連れて来るからさ、ナナも来いよ。」
え。
工藤ファミリー勢揃い?
ご両親に会うって、大丈夫か、私?
ヤバっ
緊張してきた!
絶対、美男美女だ!
というか、あの姉妹の彼達もイケメンのはず。
と、なると、私だけ、顔面偏差値、庶民じゃん!
「何、緊張してんの?気に入られるかしらって?
確かになぁ、キレたりすんなよ。」
そう言って笑う。
キレるか、バカ!
「うそうそ、大丈夫。
ナナはうちの家族の中では、
俺を堕とした勇者だから。
いいから、来て。」
そんな顔で言われたら行かない理由なんて、ない。
それに勇磨の部屋も見てみたい。
「お前、大胆だな。
クリスマスの日に家族みんないるのに、
俺の部屋で過ごしたいの?
それこそ、エロい目で俺を見てんな」
違っ。
バカっ。
そういう意味じゃ!
もう、怒った!
「行くよ、クリスマス!
エロい目で勇磨の部屋だって見るから。
悪い?」
まだニヤつく勇磨。
もー受けて立つ!
「おお、いい度胸だ、さすが別の人間!」
もう、それはいいっつうの!
でも、楽しみだ、何が起こるか分からない。
別の人間だから。
だから、勇磨の想定外の事もできる。
勇磨の頬を両手で押さえて、
私からキスをした。
驚いて私を見て
「参った」
ひと言。
でも、次の瞬間には
「なんちゃって」
逆に両手をホールドされキス返しを受けた。
あぁーあ。
参ったのは私だ。
完全に白旗だ。
くっそ!
次こそは私が勝つ!
ーおしまいー