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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第8章 UNFORGETTABLE
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問題、向き合うべきこと

 6月23日


 あれから日付が変わって、また当たり前の日常が幕を開ける。


 月曜日、12時半、昼食を食べ終えた俺は授業を受けるために大学に向かう。

 歩いている間、一昨日のことを思い出しながら進める足は重く、これから同じ授業で会う奴の中にバンドメンバーがいるという事実を考えるだけで頭が痛くなる。


 頭痛いし今日は欠席しようか、なんて考えもしたがそれは甘えだからやめておく。

 取りあえず、当たり前のことは最低限成し遂げなくては。


 ・・・・・・・・・


「あっ、おはよう」


 教室に着くといきなり結羽歌に声を掛けられた。てか昼なのにおはようって......、バイトの癖か?

 まあこいつはあんまり問題ないか、とはいえ一昨日の出来事を振り返るとあまり顔を合わせたくないのだが。

 俺は会釈だけして、いつもの席に座った。


「また何かあったみたいだな」


 座った瞬間、隣の日高が余計なことを言い出した。

 本当にこいつはぶれないよな、それに慣れてしまっている自分が一番恐ろしい。


「何回も言うかもしれないが、何かがありまくりだ」

「いや、そんなこと初めて聞いたし」

「似たようなことは何回も言っただろ」

「相変わらず青春しているようで」

「だからしてねえって」


 もうやだこのやりとり、青春なんて言葉、辞書を引いても意味が理解できないくらいだし、そもそも俺の頭の辞書にそんな言葉は入れてないはずだし。


「夏音君と、私もだけど、一昨日は色々あったよね......」

「他人事みたいに言ってるけど、あと5日でどうにかなる話じゃねえだろ。あとお前も少しは反省しろ」

「うん......、ごめん。音琶ちゃんも心配だね......」

「それ自体はあいつ自身の問題でもあるけどな」


 結羽歌の言ってることが日高には伝わるか微妙なラインだけど......、まあ何があったかというのは、一昨日の見極めに遡るわけだが......、


 音琶が考えたバンド名は何も問題のないものだった。短い時間であいつなりに考えてくれたことには感謝しているし、名前の意味もメンバーに関係するものだったからこれから名乗る以上何の問題もない。

 一番の問題はバンドのまとまりだ、前からまとまりのないバンドという自覚はあったが、まさかここまでのものとは予想だにしていなかった。


 メンバー個人の技術は向上していて、あとは上手く俺が引っ張っていけばそれなりの形になると核心していた。

 だがいざ人前で演奏するとなると、俺はともかく音琶と結羽歌が緊張に勝てなくて、今までの練習で出来ていた部分が半分も形にならずに崩壊し、そのせいで俺もリズムが乱れ始め、湯川は暴走するしで散々だった。

 結果、あまりにも出来が悪すぎたせいで、演者は本番までに自分なりの目標をA4用紙にまとめて前日までに部長に提出する羽目になったのだ。

 もちろん俺らだけでなく、全てのバンドがだ。誰が原因かなんて考えたくもない。


 その問題の反省用紙だが、俺はまだ手をつけてない。

 部長曰く全行埋めろとのことだったが、正直言って3行くらいしか書くことがない。

 そして肝心の音琶だが、今回の結果にかなりショックが大きかったらしく、演奏後からずっと落ち込んでいた。多分今までで一番。

 それから話しかけようとも思ったが、その意思は音琶から出ているドス黒い負のオーラによって妨げられていた。

 結局部屋に帰るまでずっと黙ったままで、俺はおろか結羽歌すら話しかけることが出来てなかった。


 それから次の日、一応部室に向かって練習はしたが音琶は現れず、LINEもしたが未だに既読がついてない。

 あいつ引きこもってて授業も出てないとかないよな、流石にあいつのことだし、やらかしたらやらかしたでどう見返そうか考えてるとは思うけど。


「音琶ちゃん、大丈夫だよね......?」

 

 心配そうな表情をした結羽歌が俺に問う。

 お前もやらかしたんだから、少しは反省しろっての。


「一昨日なら大丈夫じゃなかったけど、今がどうなのかはわからんな」

「どうしたらいいかな......」

「LINEは送ったのか?」

「送ったけど......、既読つかなくて......」

「それなら今日また送ってみればいいだろ。それか電話」

「うん......」

「正直言わせてもらうけどな、今回の失敗の原因は主に音琶と結羽歌にあると思うから、今一度2人だけで練習してみてもいいんじゃないのか」

「そう......だね、授業終わったら言ってみる」


 さて、事は上手く進むのか。

 平静を装っていたものの、俺も俺で実は結構危機を感じている。


 一応板書はとっているつもりだし、授業の内容は理解している。

 だが最近、サークル活動に時間を費やすことがさらに増えたから部屋で勉強する時間がなかなか作れていない。

 本番まであと5日ということもあるから今週もあまり勉強できないだろう、終わったら今までできなかった範囲をまとめて復習することになるからサークルにはあまり顔出せないだろうな、テストだってあるし。


「なあ滝上」


 日高が小声で囁いた。

 

「何だよ」

「結羽歌と上川、何かあったのか?」

「あったけど、あまり他人の事情に足踏み入れない方がいいぞ」

「いや、別に結羽歌から聞いても良いって言われたし」

「じゃあ何でそれを俺に聞くんだよ」

「あまり自分からは言いたくないんだってよ」

「はあ......」


 溜息をついて、日高の隣に座る結羽歌に視線を送ると、彼女は苦笑しながら謝罪の合図を送ってきた。


「......それで、何だったっけ」

「結羽歌と上川の話」

「ああそうだったな」

 

 面倒だったが事の顛末を日高に話す俺、その話にいちいち相づちを打つ日高。

 どこまで伝わったかはわからんけど、あまりいい話じゃないことくらいは理解できる内容だよな。


「青春してんな」


 日高はそう答えた。いや本当に何なんだよこいつ。


「お前馬鹿だろ」

「いや全然」

「じゃあ何でそう答えたんだよ」

「悩み事を抱えるのは青春の一つだろ、それをどう解決していくかが大事になってくるけどな。でもお前ら何だかんだで上手くやってるんだし、俺は大丈夫だと思うぞ」

「まあ今回の件に関しては俺はほとんど無関係だけどな」

「いやそんなことないだろ」

「あ?」

「これはバンド全体の問題だろ? それなら滝上もその問題にしっかり向き合うべき。それに上川が心配じゃないのか?」

「それはな......」

「そうとなれば滝上も上川に電話だな」

「......」

 

 日高の言葉を助言と捉えるべきなのかはわからないけど、もう一度音琶に連絡くらいは入れた方がいいかもしれないな。

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