表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第7章 技術不足で誤魔化さないで
97/572

リハーサル、音の探求

 人前で演奏することになるのは3ヶ月振りだというのに、まるで初めてであるかのような感覚に襲われた。

 ドラマーというのはパートの中で最も後ろに位置するものであって、他のパートのリズム隊の中心に立ち、演奏していく上で最も重要な立場に置かれていると言っていい。

 だからこそメンバーの中の誰かが少しでも乱れた演奏をしていたらドラマーが修正していかないといけない。

 こんな役割が課せられているのだから、リハーサルで今一度メンバーの音をしっかり把握しておかないといけない、短い時間でいかに集中できるかが鍵になるのである。


 ・・・・・・・・・


「ドラムの音ください!」


 淳詩の合図が聞こえたから言われた通りにドラムを叩く。

 あくまで俺は言われたままのことをしているわけで、本来ならいきなりドラム全体の音を取るのは間違いである。

 あいつさっきから全体欲しいって同じ事言ってるけど、あとで先輩達から何か言われるだろうな。


 正しいやり方は、まず全体の音を取る前にバスドラムやスネアタムといったタムの音や、シンバル類の音をそれぞれ一つずつ取っていくのが基本である。

 別に今は時間が押しているわけではないのだから、予め決められた手順通りにしないといつまで経っても完成しない。

 流石に何か言おうとしたが、俺が何か言った所で先輩達から「余計なこと言うな」みたいなこと言われそうだし、面倒だから黙っておくことにした。

 そんなこと考えている間に、PAの方で音の調整が完了したらしく、俺の役割は一旦終了した。

 本当にこれでいいんだな?


「ありがとうございます、次はベースの音ください!」


 そう言われて結羽歌が準備に取りかかった。

 取りあえず俺は黙ってベースの音でも聴いておくか、今までベースの音に合わせて叩いてたわけだしさ。

 それなりにいい音出せれば合わせやすいし、もし変な感じだったら後で返しをするときにでもベースの音の大きさを調整してもらうとでもしよう。

 なんて思ってたわけだが......、このバカ女、何か知らんけどリハーサルの段階でスラップ奏法の練習してやがる。

 しかもまともに弾けてない、それに俺らがやる曲にそんな譜面はない。


 はっきり言うがリハーサルというのは練習の場ではない、本番でやる曲の簡単なフレーズを弾いて、その時の音がしっかり出ているかを確認する場なのに、全く関係ないものを弾くとか言語道断にもほどがある。

 結羽歌のやつ、ちょっと上手くなってきたからって調子に乗りすぎでは、これだと先が思いやられる。

 そんなやり方でリハーサルの貴重な時間が消費されていくわけだからもっと自覚を持って欲しい。


 それから数十秒経った後、スラップ奏法は諦めたのか今まで通りの弾き方になった。

 正直言うと、さっきまでPAの2人が渋い顔をしていたのは無理もないが、やっと本来の弾き方に戻ってくれたからなんとか上手く音を作り上げることができたようで、ギターの方に役割が移った。

 まあ湯川も経験者なんだし、音琶に関してはライブハウスでのバイト経験があるからか、リハーサルの勝手は理解しているようで、割とスムーズに進んでくれたからそこは良しとしよう。

 実際音琶のギターは見る回数を重ねていけば行くほど魅力的な物に仕上がっていると言える。

 こいつがどれだけ努力しているのかは想像もつかないが、これは俺も応えてあげないと申し訳がたたない。


 だったら俺も、少しでも努力すべきなのだろう。


「残り10分です、中音外音お願いします!」


 今ので半分もの時間を使ったのかよ、本来なら中音と外音の方に時間を使いたかったのだが。

 格好つけてそれが裏目に出た結羽歌が原因だし、後で注意しておくか、もっとリハーサルの意味を理解してほしいし、時間はいくら取り戻そうと思っても返ってこないからな。


 ここでようやくバンド全体の音を合わせることになる。

 主に中音というのは、バンド内で全体で合わせて聴きやすい音に調整していくもの、と言った所だろうか。

 ドラマーの俺からしたらベースの音が欲しいから、もし音が小さかったらPAに大きくしてもらうように頼むのだ。

 他のパートも聞きづらい音があったり、逆に大きすぎたりした時の為に調整してもらう。


 因みに外音というのは、客席から聞こえる音がどのようになっているのかを把握するために必要なことで、主にギターとベースのやつが楽器を弾きながら客側に立って音を聴き、調整をしてもらう。

 簡単に言えばステージに立っている人間と客席にいる人間のどちらもが聴きやすい音になればいいのである。

 まあ俺はドラマーだから、わざわざスローンから立ち上がって他のパートの音を確認する、なんてことできるわけないし、そこは後の3人に任せるけど。


 音琶も結羽歌もそれぞれの楽器を弾きながら音を調整している。

 俺のドラムはこいつらにはどう聞こえているのだろうか、さっきからなかなか意見を言ってくれないからどう思われているのかがわからん。

 湯川は自分さえ弾けてればいいみたいな感じだから放っておくとして、2人が弾きやすいような音が作られていないとこっちもやりづらい。


「すみません、ドラムの音もっと欲しいです」


 不意に音琶が手を上げてPAにそう訴えかけた。


「あ、私も、ドラム欲しいです」


 音琶に続いて結羽歌もそう言い、PAの2人(ほとんど淳詩だけど)がドラムの音量を上げた。


「調整しました、もう一度お願いします!」


 そう言われ、今一度音琶と結羽歌が楽器を持ちながら客席に向かい、全体で合わせ出す。

 俺からだと特にさっきと変わらない音なのだが、2人からは全然違って聞こえてくるのだろう。

 サビの最初から最後の部分まで合わせ終えると、2人は満足げな表情を浮かべ、俺に視線を送った。

 どうやら求めていた音になっていたらしい。


「もう大丈夫です!」


 音琶がPAにそう返した。結羽歌も頷き、残りの時間はもう使わなくていいと判断する。


「本番よろしくお願いします!」


 音琶が最後の挨拶をした所で、俺らのバンドのリハーサルが終わった。

 あとは、調整した音をどう活かすかが大事になってくる。


 ちょっとしたハプニングがあったとは言え、本番も今のような感じでやっていきたい。

 いや、今以上の音を作っていければと思う。


「ねえ夏音。私ちゃんと夏音のドラム聞こえてたからね!」


 さっきまで機嫌を損ねていたとは思えない口調で、音琶は俺にそう言った。


「当たり前だ、音琶は俺のドラムの音が聞こえないわけないんだからな」

 

 素っ気なく当たり前のことを言いつつ、音琶の心に響く保証もないことを言ってみた。すると......、


「うん! だから私のギターもしっかり聞いててね!」


 俺の言葉をどう捉えたのかはわからないが、今の音琶は決して気分が沈んでいるわけではない、ということは誰がどう見てもわかるだろうな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ