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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第7章 技術不足で誤魔化さないで
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言動、相手を信じること

 PAが苦戦しているのは見れば分かる。

 その間先輩達は何のフォローも入れずに作業を進めているわけで、淳詩が何かを訴えかけようとして戸惑っているというのに気づく気配すら感じられない。


 こっちはこっちでリハーサルに集中しないといけないわけだし、構ってられないにしてももっと先輩達が後輩を色々と気に掛けるべきだと思う。

 これだとまるで先輩達が何も知らない淳詩に全振りしていると言っても過言ではない、これなら俺が後々個人的に教えた方が効率良さそうだな。


 本番のセトリはまだ決定していないらしく、今回の見極めの出来で順番を決めるらしい。

 別に俺は何番目でも構わないというのに、一部の人間がどうしてもトリをやりたいとかほざき出すから面倒なことになっている。

 他のバンドがどこまで完成しているのかはわからないけど、今の状態で希望通りに行けると思うなよ。


 一応リハーサル自体は時間通りに進んではいる、それぞれのバンドに必要な音の大きさを調整していき、全パートが聴きやすい音量まで辿り着けばあとは全体で合わせていく。

 バンド内の各パート毎の音量調整ともなればかなりの時間を費やした方がいいと思われるかもしれないが、この作業は長くても20分ほどで終わらせなくてはならない。

 このような短い時間の中で行うのは骨が折れるかもしれないが、残念ながらこれが当たり前なのである。


 何度も言うかもしれないが、ライブまでの準備には正確さと素早さが求められる。

 慎重に行きたいのは分かるが、そうすると時間も金もなくなってしまう。

 ライブを成功させるには、上手い演奏をすることが全てでなく、始まる前の準備に掛かっていると言っても過言ではないわけだ。


「なあ、バンド名思いついたのか?」


 俺らのリハーサルまであと1バンドとなった今、決して忘れてはいけない事を音琶に確認する。

 リハーサルの段階でMCはしないからまだ大丈夫とは言え、残された時間がどんどん削られていくわけで......、


「今考えてるから静かにして」

「......」

 

 まあ、そうだとは思ってた。

 期待なんてしてなかったよ、だって音琶だし。

 何で任せろなんて言ってきたんだか、仮に決まったとしても音琶のことだから名乗るだけでも恥ずかしいバンド名にされそうだし、MCで言葉に詰まって沈黙の時間を貫かれたりでもしたら流石にキレる。


「丁度いいのが思い浮かびそうだから、少しは信用してよね」

「......」


 いやそう言われてもな、こいつの人間性を信用するのとこの状況を打破してくれることへの信用とは意味が全く違ってくるから、簡単にそんな言葉使わないで欲しい。


「バンド名決めてないとか、失態ってレベルじゃないよね」


 俺と音琶の会話を聞いていた湯川がなんか言ってきた。

 先に言っておくがお前を会話に入れるつもりはない、あとお前LINEでも今日集合したときも、俺らに気遣いすらしてなかっただろ。

 何も協力しようともしてなかった奴がそんなこと言う権利ないよな。


 まさかとは思うけど、自分は後から入った身だからバンド内の決め事に首を突っ込む必要がないとか思ってるんじゃないだろうな、音琶は何も言わずに湯川を睨みつけ、視線を俺へと戻した。


「所で夏音、夏音のことだから私が変なバンド名にしそうだとか考えてそうだけど、どうなの?」


 すまんな、今まさに考えてた。だって音琶だし。


「考えてた。てか凄いなお前。自分がそういうことする人だって自覚あったんだな」

「何それ、いくら夏音でもそれはかなり酷いかも。今までで一番傷ついたかも」

「俺はあくまで自分の思ったことを正直に言っただけなんだけどな」

「正直でも、言って良いことと悪いことあるんじゃないの?」

 

 音琶の表情からして、割と本気で傷ついているように見えた。

 今回ばかりは少し言い過ぎたかもな、今回だけって程でもないけど。


「悪かったよ、でもバンド名はちゃんとしたのにしてくれよ」

「......」


 俺がそう言うと、音琶は頬を膨らませて黙り込んでしまった。

 不機嫌になったこいつは数え切れない程見てきたけど、今までで一番ダメージが大きかったようだ。


 言って良いことと悪いこと、ね。

 俺が今までにされたことも同じようなものなんだろうけど、自分がされて嫌なことを誰かにするのは良くないよな。

 今までのことを振り返ると音琶に対して申し訳なさが込み上げてきたわけだ、遅くても見極めが終わって部屋に戻るまでには今一度謝っておいたほうがいいかもしれない。

 いや、かもしれないではダメだ、ちゃんと謝っておこう、音琶は俺のことを必要としているんだから、失うわけにはいかない。

 今までは俺が原因ではなかったとはいえ、もう二度と同じ事を繰り返すわけにはいかない。

 それは俺自身が嫌な想いをしたくないから......、なのか? 音琶を失いたくないという想いは俺自身のため......? いや違うはずだ、だとしたら誰のためだ?


 もう一度音琶の方を見る。

 相変わらずふて腐れながら体育座りをして、リハーサル中のバンドを眺めている。

 俺はたった今、音琶を傷つけた。そして我に返り、自分の犯した過ちに気づいた。過去と照合することでどうすればいいのかを考え......、


 結局は俺だって自分のことで精一杯になってるじゃねえかよ、音琶のことを信じたいとか思ってるくせに相手の気持ちも考えずに今まで何をしてきたんだよ。

 確かに音琶は俺のことを信じているし、好きだと言ってくれた、でも俺が変わらないままではいつどのタイミングで音琶が俺から離れていくのかもわからないじゃねえかよ。

 一番自覚がないのは、俺自身だな。


「夏音、何してんの。リハーサル私達の番だよ」


 それから暫く考え込んでいる内に、リハーサルの時間になっていた。

 引きずってても仕方が無いから何とか切り替えて望むしかないな。

 バンド名だってきっと大丈夫だ、音琶がちゃんとしたものにしてくれるに決まってる、そう信じることにした。

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