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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第7章 技術不足で誤魔化さないで
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ルール、当たり前のことはやるべき


「さっきから私の事見てるけど、どうしたの?」


 PAがリハーサルの準備をしている間に音琶がかけてきた言葉がこれだ。

 どうやら俺が音琶に何度も視線を向けていたことがバレたらしい、バンド名を考えている最中の音琶のことが心配で、視線を送り続けていたという言い訳はできるかもしれない。

 音琶を見ていたのはまた別の理由があるわけで......。


「どうもしねえよ」

「へえ......、そんなに私の事心配なの?」

「心配っていうか、見てられない」

「むむ、それはどういうことかな?」


 口を尖らせた音琶が問いかける。

 大体そんなに洒落た服着ておいて見るなと言う方が無理だ、ライブだから本気出してるのか知らないけど、今日の音琶の服装はいかにもバンドマンという感じのもので、室内だというのに鍔付きの帽子を被っている。

 それだけではない、恐らく買ったばかりであろう赤と黒を基調とした、右肩が露出しているTシャツと大胆に足を出した短パン。

 最初部室に入ってきたときは緑色のパーカーを羽織ってたけど、今は暑くなったのか身につけていない。

 普段の音琶の服装以上に華があるわけだから、少しばかり見てしまうのも無理はない。


「その服、似合ってるんじゃねえの」

「え?」

「だから、似合ってるんじゃねえのって言ってんだよ」


 何気ない俺の一言に音琶が目を丸くしている。

 この前の告白があってからか、俺も音琶に対しての感情というものが変わりつつあって、少しずつ音琶には思ったことを正直に言ってみてもいいんじゃないかと思い始めている。

 幸い部室には俺と音琶、鈴乃先輩、茉弓先輩、部長、PAメンバーしかいなく、他の奴らはコンビニに行って買い出し中だ。

 なぜ俺と音琶が取り残されたのかというと、淳詩がまだ万全の状態でないため、万が一のことがあったらということで経験のある俺らについていてほしいからというのが理由だ。

 鈴乃先輩と茉弓先輩に関しては、ギターとベースの音作りをすることになってたから今ここにいる。

 買い出し行っている奴らには先に金払っておいて、適当に何か買ってもらうように言っておいたから問題ないかもしれないが、サポートくらい先輩がやれよって話だ。

 何で経験あるからって理由で俺と音琶が残されきゃいけないんだよ。


「......まさか夏音がそんなこと言ってくれるなんてね」

「まさかって何だよ」

「ううん、嬉しいなって思って」

「本当のこと言ったまでだ」

「それでも、嬉しいんだよ」

 

 音琶が満足げな表情してくれたおかげで少しは先輩に対する苛立ちも和らいだかもしれない。

 取りあえず淳詩には何とか持ちこたえてもらいたい。


「そういえばさ、結線もチューニングも夏音がほとんどやってる感じだったよね」

 

 音琶、お前はどこまで俺を見ているんだよ、俺がそれをやってる間お前はギターの結線してただろ。


「まあそうだな、あとの奴らはもう少し頑張ってもらいたかったな」


 結線の仕方とか、チューニングのコツとかは掟に細かく書いてあったからじっくり目を通せば理解できるってのに、俺以外のメンバーは正直言ってうろ覚えの部分が多すぎて、そいつらが戸惑っている間に俺が率先して終わらせたのだった。

 まああのまま放っておいたらシールドは断線してただろうし、マイクが壊れてもおかしくなかった。

 だから常に最悪の事態を想定していくしかなく、素早さも求められる作業だから慎重にやったら時間が掛かってしまう。


 てか榴次先輩ももっと頑張って欲しい、あの人2年生なのに俺よりずっと遅かったし、覚えてはいたものの頼りない。

 もう少し先輩としての自覚持ってもいいと思うのだが、今買い出し行ってるけど部室に取り残されてる俺の気持ちくらい少しは考えてもいいのでは。

 経験の数も大事だが、後輩に負けてる時点で危機感は持つべきだよな。


「みんなあんまり掟読んでないみたいだね」

「そうだな」

「ちゃんと読んでるの、私達くらいなのかな。大変なのはわかるけど、最低限やらなきゃいけないことはやるべき......だよね?」

「そうに決まってるだろ」

「うん......」


 音琶の表情が曇ったけど、今はあまり気にならなかった。

 確かにここは掟とかいう意味の分からないものに縛られているが、ライブをするにあたって時間の使い方とか、機材の使い方とか、ライブハウスでの礼儀だとかはまた別問題だ。

 それに関してはこのサークルだけでなく、どこでも決められてるルールなのだ。


 時間は守る、これは当たり前。機材は大切に扱う、これも当たり前。挨拶をしっかりする、これも当たり前。

 その当たり前のルールすら、このサークルの奴らには足りてない、全部1年生に向けて言ってることだけどな。

 あいつらはバンドをすることへの気持ちが軽すぎるから、さっきまでの準備に手こずってるわけだ。


 それから数分経って、買い出し組が戻ってきた。


「夏音君、音琶ちゃん、パン買ってきたよ」


 結羽歌から頼んだ物を受け取り、音琶に渡す。

 鈴乃先輩と茉弓先輩、PAの奴らにも渡して全員分の食糧が揃った。


「このパン、いつ食べても美味しいね」

 

 菓子パンを貪りながら音琶が俺にそう言った。


「俺が作った方が美味いだろ」

「わかってないなあ、コンビニのパンは手作りとはまた違った美味しさがあるんだよ!」

「これも元はと言えば人間の手から作られたものだろ。お前何言ってんの」

「もう、夏音はいつもこうなんだから......」

「ああそうだよ、何か文句あるか?」

「文句しかないよ!」


 頬が膨らんでいるのはパンを頬張っているからなのか、不満を表しているのかのどっちかだろうけど、多分後者だよな。



 16時


 PAの準備が全て整って、リハーサルに入る。

 ここで各バンドごとの音を調整していくわけだが、そこまで拘らなくても音の違いはわかるんだよな。

 後は他のメンバー次第ってとこだけど。


 まあ俺らが今一番気にしなくてはいけないのは、音の調整以前の問題なんだよな。

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