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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第7章 技術不足で誤魔化さないで
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猶予、時間はない

 6月21日



 午前11時半


 少し早いが部室に辿り着き、中に入る。

 まだ誰もいない部室は閑散としていて、電気を付けていないから薄暗い。

 まるでこれから始まることへの緊張感が醸し出されているようにも見えた。


 とうとうこの日になってしまったのである、まだ今日は部員にしか見られないけど、来週を想定したライブになるから油断はできない。

 練習は最低限やったし、ライブの流れだって長年の経験から充分に把握できてる。

 他の奴らがどうなのかはわからないが俺は大丈夫だ、こればかりは自信がある。


 とは言ったものの、今現在俺は、というより俺を含めたバンドメンバーは、1つの壁に激突している。

 それは決して練習不足だったから、とかいう問題ではなく、本来なら練習する前から決めておかなければならないことが決められていないという壁だった。

 

 ・・・・・・・・・


 6月20日



 午後11時過ぎ


 バンド名を決めてなかったことに気づいた俺は、急いでバンド内のグループLINEにその旨を伝えたわけだが、既読は2つ、その中で返信が来たのは音琶だけだった。

 いくら遅くても、バンドを結成した後はライブ本番までバンド名を決めなくてはいけないと掟に書いてあったから、それに違反したら面倒事になりかねない。

 見極めもライブの1つとカウントしているわけだしな。


 てかもう一つの既読誰だよ、流石に結羽歌が既読無視するとは思えないから、付けたのは湯川で間違いないだろうけどさ。

 大事な時だっていうのに平気で既読スルーしやがって、確かに今回は俺にも責任あるけどさ、メンバー全員の責任でもあるから無視してんじゃねえよ。

 

 上川音琶:あ!!

 上川音琶:すっかり忘れてた! どうしよ!!

 上川音琶:ごめん、練習で一杯一杯で全然考えてなかった、ほんとごめん......


 最初の本文を送って数分足らずでいきなり3連投である。

 返信が早いのはいつものことだけど、今回は焦ってるな......、人のこと言ってる場合じゃないけど。


 滝上夏音:時間ないから、もう決めようと思う。今連絡取れる奴だけでもいいから

 上川音琶:そうだね、なんかいい案ないかな?

 滝上夏音:メンバーの名前から文字るとか、趣味とかの共通点から取るとか

 上川音琶:......なるほど

 上川音琶:それじゃあ私に任せて!!


 こいつ何言ってんだ?


 滝上夏音:任せるとは

 上川音琶:私が明日の本番のMCの時まで一人で考えるから!! バンド名ってMCの時に言うでしょ? そこで私が考えたの言うから!

 

 いや無茶苦茶だろ、何で俺がこいつに全責任を負わせければいけないんだよ。


 滝上夏音:発想がおかしい

 上川音琶:元々私から夏音のこと誘ったんだし、それくらい私にやらせてよ!

 滝上夏音:でもな、一旦メンバーと話し合ってからにしないと

 上川音琶:いいから! バンドの責任は全部私が背負うって決めたんだから!!


 いや、本当に何言ってんのこいつ、少しは俺を無理矢理巻き込んだこと反省している、ということなのだろうか。

 それとこれとは何かが違う気がするけど、音琶がやるって言ってるから邪魔するのも悪いか。


 滝上夏音:どうしてもか?

 上川音琶:どうしても!!


 これはもう、こっちが折れるしかないのだろうか。

 

 滝上夏音:仕方ないな、それじゃあやらせてやる、でも自分で決めた期限までに決められなかったら承知しないからな

 上川音琶:わかってる! 先輩達にはバレないようにしないとね!


 このやりとりをグループLINEでしていたということが充分に致命的だったのだが、それを改めて認識するのはもう少し後になるのである。


 ・・・・・・・・・


 昨日の夜こんなことがあったからなかなか落ち着かない。

 音琶のことだから何かとんでもない失態をしでかしそうだし、奇想天外なバンド名とか言い出しそうだし、何よりも今の今までバンド名を決めていなかったという事実を先輩達に知られることが一番心配だ。

 そうこう考えている内に一人、二人と部員が室内に入っていき、あっという間に全員が揃ってしまった。


 


 11時50分

 

「音琶、案は浮かんだか?」


 なるべく他の部員に聞かれないよう静かに音琶に問う。

 

「いや......なかなか難しくて......」

 

 マジかよ、音琶が自分からやるとか言い出してきかないから任せたけど、何かこっちが音琶に全振りしているみたいに見えるじゃねえかよ。


「あの......」


 後ろから声が聞こえたから振り返ると結羽歌だった。

 まあこいつの言いたいことは何となくわかるけど。


「ごめんね、寝ちゃってた......」

「あー、やっぱそうだよね。こっちこそごめん」

「ううん、私ももっと早く言っておくべきだった。誰かがやってくれるんじゃないかって思ってて......」

「うん、その話はまた後でいくらでも聞くから、とにかく今は目の前のことに集中しようね」

「うん......」


 やっぱり昨日の段階で既読付けてたのは湯川だったか、あいつ今琴実と喋ってるけど何考えてんだろう。

 割と詰んだ状況で既読無視しといてよくそんなことできるよな、まずはバンドメンバーに一言あるだろ。


「とにかく、音琶頼むぞ」

「うん、大丈夫! 多分」

「多分って......」


 そうこうしている内に12時になってしまい、部長の合図と共にそれぞれの作業に移りだした。

 とりあえず、音琶の言うとおり今は目の前のことに集中しよう、いつまでも引きずってたら貴重な機材を壊しかねないからな、いつかの誰かさんみたいなことになってしまっては元も子もない。


 まずはドラムに使うマイクを結線して、それをさっさと終わらせたらチューニングに時間を費やすとしよう。

 何だかんだで準備で一番時間掛かりそうなのは、全員の実力から考えてチューニングになりそうだしな。


 何か俺、ライブするに当たって何が一番大切なのかがわからなくなっているな。

 いや、それはとっくの昔からそうだったか、勘違いも大概にしろって話だ。

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