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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第7章 技術不足で誤魔化さないで
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衣装、ライブに似合うもの

 6月20日


 ......いくら今日が本番の見極めの前日だからという理由で部会が休みになったからって、今私のしていることが意味のあることなのかなんて問われても、肯定できる自信がない。

 五限の授業を終えて、簡単な練習を済ませたら明日を迎えようと思ったのに、どうしたわけか私は駅前のモールに居た。


「ねえねえ、こういう服とか音琶ちゃんに似合うと思うんだけど......」


 そう、何を隠そう私は結羽歌とライブで着る服を選んでいる最中なのだ。

 しかも、選んでいる服は普通の店に売っているようなものではない、簡単に言うとコスプレのようなもので、色とりどりで様々な種類の服が並んでいた。

 確かにバンドによって決められた衣装があったりするけど、このサークルのバンドに関してはそういったものは見受けられない。

 だから必ずしも買わなきゃ行けないってわけじゃないんだけど......。


「結羽歌、あんた......。何で、何で私がセーラー服着ながらギタボしなきゃいけないのかな!?」

「だって、音琶ちゃんに似合うと思うし、可愛いよ?」

「可愛ければいいってもんじゃない気がするんだけど......」


 若干引き気味で答える私。この変態ベーシストは何を考えてこんなことを始めたのだろう、何か楽しそうだし、普段私が絶対に着ないような服を見ては試着を強要してくる。

 もうこれで5着目なんだけど......、しかも肩とか腋とかおへそが露出するようなのばっかりだし...。

 まあ、地味な感じの服で演奏するよりかは、それなりに目立ちそうなもの着た方がいい気がしなくもないかな。

 勿論露出控えめでだけど。


「音琶ちゃん、似合ってるよ!」

「あ、ありがと」


 セーラー服なんて、何年ぶりだろう。

 3年間通うはずだった高校の制服もセーラー服だったし、種類は違えど懐かしい気持ちがある。

 本音を言えば、ちゃんと通って卒業したかったのは事実だ。

 

「ねえ、やっぱりもうちょっとちゃんとした服選ばない? なんかちょっと違う気がする。あとこれ、丈短いからおへそ見えちゃうよ」

「可愛いと、思うけどな......」

「それに、さっきから試着してるのは私だけで、結羽歌は見てるだけだよね?」

「あー......」

「もしかして、私がちょっと変わった服着て恥ずかしがってる姿を楽しみたいとかじゃないよね?」

「......」

「じーーー」


 私が視線を送ると、結羽歌は目を逸らし、暫く間を置いてから微笑んでこう言った。


「音琶ちゃん、可愛いから色んな服着てるとこ見たかったんだ!」


 その直後、裾から覗く私のおへそ目掛けて結羽歌の人差し指が近づいてきたから、素早く奴の指を左手で強く握る。

 流石は変態、ちょっとでも真面目に服を選ぼうとした私が愚かだった、結局は上手く乗せられただけで、私も結羽歌も買う気なんてなかったわけだ......。


「......そんなことだと思ったけど、まだ時間あるし他の店行こう?」


 未だに結羽歌の人差し指を握ったまま、上手く言葉を選ぶ。


「う、うん。そうだね。私がよく行くお店行く?」

「そうしようかな。ライブの時に似合いそうなの教えて欲しいな」

「わかった!」


 ここはあっさり聞いてくれるんだね、変態はちょっと言い過ぎだったかな。

 でも結羽歌のことだから、次の店では試着室の中に侵入してきて、おへそだけでなくいろんな所を隈無く撫で回してきそうで怖いんだけど......。


「ねえ音琶ちゃん、何か良くないこと考えてない?」

「......考えてるよ」

「何を考えてるのかな~?」

「結羽歌が私のおへそを狙う変態だってこと」

「もう、いつどこで私がそう思われることしたのかな?」

「よくそんなこと堂々と言えるよね......」


 価値観の違いでそれぞれ感じることに差異があるのは、人間の本質からして仕方の無いことなのかもしれないけど、結羽歌と私の間にあったことに関しては擁護できないと言ってもいいかも。

 でも、決して嫌じゃなかったし、むしろ楽しかったと言うべきかもしれないな......。


「音琶ちゃんって、いつもお洒落な服着てるよね。どこで買ってるの?」 

「うーん、特にそういうのはないよ。服を買うようになったのはつい最近なんだけど......」


 本音を言えば、夏音に出会うまでは服なんて全く気にしてなかった。

 私が自分から外に出て服を買いに行くようになったのは、あの時からなんだよな......。

 無意識だったけど、今となっては少しでも夏音に見て欲しかったからだってのは充分にわかる。


「やっぱり......」

「やっぱり何?」

「夏音君に見てもらいたいから?」

「!!」


 結羽歌の不意打ちが私を襲う、でも今は決してふざけて言ってるわけじゃない、真面目な表情で質問してくる結羽歌に適当な返答なんてできるわけがなく......。


「......まあ、そう......だよね」

「うん、そうだよね」

「何かわかってて聞いてきたみたいだけど」

「むしろ気づかれてない方が変なくらいだよ?」

「う~~、恥ずかしい。確かに我を忘れてたってのはあるけど......」


 頭を抱えて返答する私に結羽歌は続ける。


「いつも一緒にいるし、初めて音琶ちゃんに会ったとき2人は付き合ってるんじゃないかな? って思ったんだよ。でも、音琶ちゃんと話していく内に、ちょっと違うんだなーってなった」

「......あのさ」

「何?」

「変じゃ、ないよね?」

「変って......、どういうこと?」

「私が夏音のこと好きなのって、別に変なことじゃないよね?」

 

 私は何を言ってるんだろう、こんな想いを家族以外の誰かに抱くのが初めてだからって、私の質問の方が変だ。

  

「全然、変じゃない、と思うよ。だって、誰かを好きになるのって、当たり前のことだもん」

「結羽歌......」

  

 何故かはわからないけど、結羽歌は視線を下に向けて少し照れたように言った。

 改めて、私は結羽歌の優しさに救われたような、そんな気がした。

 私のしていることって、全てが間違いなんかじゃないよね、きっとそうだよね。


「でも私、音琶ちゃんが夏音君にしたことの全てを知っているわけじゃないから、もしかしたらやっちゃダメなことも音琶ちゃんはしていたかも。だとしたら全部が全部変じゃないとは言い切れないからね?」

「う......うん」


 今の結羽歌の言葉で、少しばかり引っかかるものがあったから気をつけよう、私はそう心に誓った。

 強引すぎたのは認める、いくら私の見た光景が日の出よりも明るく輝いているものだったからと言って、目の前のことばかり見ていてもダメなんだ。


 結局夏音に想いを伝えたことまでは結羽歌には言えなかった。

 でも、自分自身がしたことに自信を持ってもいいのかもしれない、まだ夏音は答えを出していないけど。


「ほら、着いたよ。良い服買って明日頑張ろうよ!」

 

 目的地に着き、結羽歌の後を追いながら私は店の中に入っていった。

 いくら本番じゃないからって言っても、ライブはライブなんだし、頑張らないとな......。

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