音楽サークル、意外な共通点
6月19日
「音琶ー、おーい」
隣で私を呼ぶ声がする。
声の主は隣の席に座る同じクラスの友達、川西悠来。
音楽サークルであるジャズ研に入っていて、ドラム担当らしい。
サークル内だけでなく同じクラスの同性の友達が欲しかった私は、ガイダンスの時彼女と席が近かったこともあって、思い切って話しかけたのだ。
すると同じ音楽の話題で意気投合して、今の関係に至る。
「おーい......」
授業なんて聞かずに物思いにふけっている私を気に掛けたのか、悠来は何かを問いかけようとしていた。
......って、それに返事をしないでどうする私。
「あっ、ごめん」
「もー、授業はちゃんと集中しないとダメだぞ?」
「そうだよね、もうすぐテスト勉強しないとだしね」
「その意気だ、しっかり板書しよう!」
赤みがかった茶髪をかき上げながら悠来は私に念を送った。
この大学のテスト期間は補講が無い限り7月の第四月曜日から始まり、クラスによって多少期間は違えど二週間ほど続く。
それが終わったら待ちに待った夏休みが始まる。
「そういえばさ、音琶のライブっていつだったっけ?」
「28だよ」
「そうそう、絶対行くからね」
「悠来のライブは確か、7月6日の日曜日でいいんだよね?」
「うん、今頑張って練習してるところ」
「そっか、私も頑張らないと」
この大学の音楽サークルの新入生ライブは大体6月下旬から7月上旬に行われるのが普通らしい。
ジャズ研がどんなサークルでどれくらいの実力なのかはわからないけど、一度練習風景とか見てみたい。
もしかしてあそこも軽音部みたいな謎の風習とかあったり......、それはないか。
悠来には軽音部の実態は話していない、私のクラスには鳴香と光がいるけど、鳴香に関してはあれ以来教室で話すことはほとんどなくなったし、鳴香は鳴香でまた別の友達と一緒にいる。
たまに私の前に座る鳴香の後ろ姿を見て、ギター上手くなったかな、なんて考えてしまうことがあるのは誰にも言えない。
悠来は悠来で私の事を積極的に応援してくれてるし、私も悠来のドラムがどんなものなのか今すぐにでも見たい。
別に担当楽器が夏音と同じだからってわけじゃないけど。
「音琶って、夏休み予定ある?」
「うーん、あることはあるけど......」
夏休みの予定は一応決まってるけど、きっとサークルやバイトで忙しくなるだろうし、集中講義だってあるし、遊んでばっかりはいられない。
私は帰省する必要ないし、遠出するかは決めてないけど、1つだけどうしても外せないのはあるんだよね。
「まあいいや、時間空いてるときあったら一緒にどこか行きたいなって思ってさ」
悠来は私に微笑みかけてそう言い、板書に取りかかった。
授業の終わり際、スマホを確認するとXYLO BOXの全体LINEに通知が来ていた。
洋美:22日シフト入ってる人、ライブはないけど練習は入ってるから準備忘れずに!!
「ん? これ音琶のバイト先?」
後ろで悠来がスマホを覗き込んで聞いてきた。
「XYLO BOXってとこ。悠来わかる?」
「うん、ジャズ研もお世話になってるみたいだよ」
「そうなの!?」
「あれ、知らなかったか~」
知らないも何も、あそこの出演者とか客層を見る限り、ジャズが好きそうな人って居なそうだし、ちょっと予想外だった。
「新入生ライブは体育館だけど、定期ライブはよく使ってるって先輩言ってた。去年かららしいんだけどね」
「へ、へえ......」
悠来曰くジャズ研は年々部員が増えていて、部費に余裕があるらしい、そこで部長が思いきって良いライブハウスを使っちゃおうみたいな感じになっただとか。
客も沢山来てくれたみたいで大成功だったとかで、今年も定期ライブで使うとのこと。
それなら、尚更いいライブを作らないと、バイトとは言えスタッフであることに変わりはない、そして失敗も許されない。
「音琶がスタッフとしてジャズ研のライブ作ってくれるってこと考えるだけでモチベ上がってきた! ライブの日程決まったら毎回教えるからね」
「う、うん。その日にシフト入れるようにオーナーとも相談する」
「やったー!」
悠来、凄い嬉しそう。こんな話を知ってしまったからには、今からでもどうすればいいライブが出来るのかをしっかり考えておかないといけない。
この前のような失敗はもう許されない、夏音が見てなくても落ち着いて出来るくらいの気持ちも大事にしないと。
「それじゃ、音琶のライブも楽しみにしてるね!」
「うん、悠来のもね!」
・・・・・・・・・
私が今抱えている物って一体全体何なんだろう。
私の演奏を楽しみにしてくれる人が居て、その人の期待に応えること?
正解のようで、間違っているようにも思える。
そもそも正解なんてないのかもしれない、そもそもどうしてこんなにも何かについて考えているのだろう、他の人からしたら大したことじゃないかもしれないというのに。
「どうしたらいいんだろう......」
誰も居ないキャンパス内、部屋に戻る途中で私は一人呟いた。




