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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第2章 crossing mind
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楽器屋、ここまですごいとは

 4月13日


 入学してから最初のまともな休日ということで、近くに楽器屋がないか探しに行くことにした。

 高校時代には行きつけの楽器屋があり、そこでドラムスティックやその他機材を買いに行ったものだ。

 まさか再び楽器屋という概念に足を運ぶことになるとは思ってもいなかったがな。


 スマホの地図機能で楽器屋を検索すると、大学からすぐ近くの駅前のショッピングモールが引っかかった。

 徒歩10分ほどで、レビューを見る限りだとそれなりに良い楽器や機材が揃っているとのことだった。

 

「ここにするか」


 鳴成大学が日本でも有数の大学なら、その大学が位置する鳴成市も日本有数の大都市である。

 政令指定都市として登録されており、観光地も多いため毎年長期休みにもなれば旅行客で町は殺到すると言われている。

 電車、バス等の交通網も充実しており、移動にはほとんど困らなそうだ。

 地元が田舎町だったからこの環境はまだ慣れないが、交通網や買い物に苦労しないのは、これからの大学生活に大きく影響しそうだ。


 例のショッピングモールに着くと即座に楽器屋のある2階へと向かう。これから食材以外の買い物はここで済ませることにしよう。

 楽器屋はStringsという名前で、凝った字体を斜体にした看板が掛けられていた。

 店名からしてギター専門店なのかと思ってしまいそうだが、ドラム用の機材も揃えてる様だった。これならレビューにも納得する。

 見るだけにしようと思ったが記念に何か買ってしまおうか、そんなことを思いながらドラムの機材が置かれている場所に辿り着いた。


「......」


 マニアなら一気に買い漁ってしまいそうなくらいの機材がそこには陳列されていて、思わず目が釘付けになった。

 電子ドラムは勿論、シンバルやタム類、ペダル、スティック諸々、細かい種類が多々置かれていた。シンバルスタンドまで売ってる楽器屋は初めて見たのだが......。

 こんなに質の高い楽器屋だと、この俺が常連にならない訳がない。

 これからサークルで活動していく以上、ここは俺にとって必要不可欠な場所だな。

 それにしても、ついこの前まではドラムを辞める、なんて宣言してた人間が何でここまで楽しそうになってるんだろうな。


「あれ? 夏音じゃん」


 すぐ近くで俺の名前を呼ぶ声がしたので、その主の方に目線を向ける。


「ああ......」


 今まで似たような場面に遭遇し過ぎたせいで逆に清々しい。

 音琶、お前は俺に対するGPS機能でも備えているのか? あと相変わらず服のセンス良いな。

 

「夏音もここ来てたんだね、何か買うの?」

「いや、見に来ただけ」


 ついさっきまで何か買おうとしていたけどこいつのせいでその気も無くなっていた。


「私はね、ピック買いにきたんだよ。ついでに弦も見ようかななんて」


 こいつ、聞いてないのに何でも自分のこと言ってくるよな。


「3日前にもここで買ったんだけどもう欠けちゃったんだよね......」


 おい待て、ピックがたった3日で欠けるなんて話聞いたことないぞ、どんなに強く弾いてたとしても1週間は持つはずだ。

 それをたった3日でダメにするなんて、いったいこいつはどんな弾き方してんだ?


「お前、結構乱暴なんじゃないのか? 機材は大切にしろよな」


 取りあえず適当に忠告してみる。


「うん......、そうかもね。流石に四六時中弾いてたらピックも脆くなっちゃうよね」


 こいつ、四六時中とか言いやがったけど一日だけで何時間弾いているのだろう。少し気になったから聞こうとしたが、やめた。

 もし本当に音琶が頑張ってギターを弾いていたのなら、さっきの適当な言葉がこいつを傷つけていたかもしれない。どうもこいつといると調子が狂う。

 俺は目に留まった水色のピックを掴み、音琶に見せながら言った。


「これは俺が買ってやる、だから大事に使え」

「え、いいの?」


 音琶が驚いた表情を見せ、聞いてくる。本当にいちいち表情が変わる奴だ。


「ピック1個くらい、どうってことない。その代わり大事に使わなかったらどうなるかわかってるな」


 今思えば、俺の言葉は物凄く性格が悪い人の典型的な例と認識しても過言ではなかった。

 元々ひねくれた人間なんて性格悪いに超したこと無いがな。


「ありがとう! 絶対大切にする!」


 そんなこと言われても嬉しそうにしているなこの女は、嬉しそうなら結果オーライだろうか。

 まあいつか欠けるだろうし、それなりに長く持ってくれればいいけどな、3日は流石に有り得ないけど。

 レジに向かい、さっき手に取った水色のピックを店員に差し出した。結局、買ったのはこれだけだった。


「さて、帰るか」


 用は済んだことだし、帰る以外の選択肢は残されていないはずだったが......。


「え? お昼ご飯食べてかないの?」


 時計を確認すると針は12時に差し掛かろうとしていた。この時間にショッピングモールに居るとなるとフードコートに行くのが普通なのだろう。

 だが俺の場合は冷蔵庫の心配があるから早いとこ消費してしまいたいというのが本音だ。


「家で食う」

「えー」


 正直に返答すると音琶がふて腐れた。こいつは外食するつもりなのだろう、人それぞれどこで食べるかは個人の自由だから俺は帰る。


「私ここのフードコート行きたいんだけど夏音も行こうよー」


 ああ、こいつは俺と行こうとしてたのか、考えてみれば俺は頼まれてないのにピックを買ってあげた身だ、俺の我儘で。

 だからこいつの頼みを聞いてやるのも悪いことじゃないかもな。


「......冷蔵庫の中少なくなってたから、今日ぐらい外食してもいいかもな」


 本当は少なくなんてない、でも俺はそれ位しか言葉が見つけられなかった。

 少しでも音琶の不満くらい聞いてあげても良いと思ったからだ。


「やったー! じゃあどこ行くか決めよっか」


 結局、俺は音琶と二人で昼食をとることになった。

 女子と二人きりで食事なんてまるで付き合ってるみたいじゃねーか、という気持ちを抑えて隣を歩くのは中々に大変なものだったが、きっと音琶はそんなこと気にしてもいないんだろうな。

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