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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第7章 技術不足で誤魔化さないで
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欠席、もうしたくない

 6月17日


 あれから何時間経ったか、なんて聞かれてそれを素直に答えれるわけがない。

 とうとう1日の授業を全て放ったらかしてしまったからには素直に答えるより言い訳の内容を考えた方がいいかもしれない。

 

「随分と遅いおはようだな」

「......ごめん」


 音琶が目覚めたのは5限が終わる時間、つまり18時頃だ。

 いくら飲みすぎたとは言えやりすぎにも程がある、そのせいで音琶だけならまだしも俺まで授業をサボる羽目になったんだからな。

 スマホは日高や結羽歌からのLINE通知で埋まっているし。


 それにしても音琶のやつ、寝ている間に色々変なこと呟いてたけど、一体何を訴えようとしていたのだろうか。

 知らない人の名前出てきたし、『和兄』とか言ってたから兄でもいるんだろうけど、その人と夢の中で話している感じではなかったし、何だったのだろうか。


「別に授業は今まで欠席になったことないからいいけどよ、あんまり飲み過ぎるな」

「うん......」

「まああれだけ飲んだんだから元気になったよな?」

「むー、確かにすっきりしたけど、夏音に迷惑掛けちゃったことは変わらないからプラマイゼロかも」


 頬を膨らませて返答する音琶、まだ酒のにおいが残ってるけど二日酔いにはなってないみたいだ。

 まあ睡眠時間が一日の平均時間の倍以上に至ったことだし、それで二日酔いになってたら逆に恐ろしいな。

 寝言のことは今ここで聞いてしまうべきか否か迷うけど、まずは時間も時間だし夕飯でも作ってやるとするか、飯と言っても卵くらいしか材料ないし、何か簡単な物追加で買いに行くとでもするか。


「音琶、とりあえず外行くぞ」

「えっ?」

「いいからついてこい、昨日迷惑掛けた罰だ」

「えー何!? 私これから重労働任せられちゃうの!?」

「ああそうだよ、覚悟しろ」

「死にたくないよー!」


 そう言いながらも俺の後をついてくる音琶だったが、何だかんだでいつも通りになってて安心した。

 やっぱりこいつには少し意地悪しないと俺も気が済まないな、優しくし過ぎたら調子乗りそうだし。


 ・・・・・・・・・


「ねえ、重労働ってこんなことでいいの?」

「俺は重労働なんて一言も言ってねえよ、お前が勝手に言ったんだろ」

「そうかもだけど、これはこれで何か違う様な......」


 スーパーからの帰り道、不満げな表情でビニール袋に詰められた食材を見つめる音琶は、俺の隣を歩きながらそう言った。


「荷物を持つのも大事な仕事だろ、飯くらいは俺が一人で作ってやるから」

「ねえ、私の事からかってる?」

「聞かなくても、いつもそうしてるだろ」

「もう、バカ」

「お前ほどじゃねえよ」


 昨日の飲みでなんだかんだ今までの調子を取り戻しつつあったけど、俺や音琶が抱えてることは何一つ解決できてないんだよな。

 だからこそ、音琶との会話がいつもの調子でいかないと不安になってしまう。

 今はまだ、こうするしかないんだよな。


 アパートに戻ると、玄関前に先客がいた。

 ほぼ毎日会ってる奴だから今こうして俺の部屋の前に立たれてても驚かないけど、今の俺の状況を見るとあまり顔を合わせたくないんだよな。


「お、滝上帰ってきたか」

「何の用だよ日高」


 別に何の変哲もない友人なのだが、ここ最近俺に変なことを聞いてくるからどうも悪い意味で調子が狂う。

 正直何を考えているのかよくわからないし、音琶のことを何故か問いただしてくるしでどうしたものなのだろうかね。


「今日の分のプリント渡そうと思ったんだけど、いらないならあげない」

「いやくれ」

「わかった、ありがたく受け取りな」

「どうも」


 何だこの会話。

 我ながら意味不明だったけどまあいい、たった1回分の欠席とは言えその1回が今後の成績に響く、ということを考えるとプリントをもらえるのはありがたかった。

 別に後で教授の部屋行ってもらうこともできるけどさ、手間省けたし日高には感謝だな。


「それはそうと、お前授業サボって上川と遊んでたのか?」

「は? 何で」

「時間的にどこかに遊びに行って帰ってきたんだろ? LINEの返事なかったのもそういうことなんだろうし」

「いや違うって、なあ音琶......」


 後ろの音琶に聞こうとしたが、当の音琶は何故か顔を紅潮しながら下を向いている。

 いや何で否定しないんだよ、俺はただ本当のことを言おうとしただけなんだけどな。


「まあ別にいいよ、明日はちゃんと学校来るんだぞ」


 日高はそう言って自分の部屋の方向へ帰って行った。

 流石に明日は、というかこれからは卒業まで一度も欠席せずに行きたい所だけど、昨日みたいなことが今後また続いたら難しいかもな、なんて思ってしまった。

 その度に日高に毎回プリント届けてもらうなんてこと考えたら、申し訳なさで頭が痛くなった。


「ねえ、夏音...」

「何だよ」


 さっきから顔の赤い音琶が消え入りそうな声で話しかけてきた。さっきまで元気だったのに、突然思い詰め出したりするからよく分からないんだよな。

 

「私達って、日高君からどう見えてるのかな?」

 

 何だよそれ。どう見えてるか、だって?

 そんなの勿論......、勿論、何だ? 俺は何を言おうとしたんだ?

 理由はわからない、わからないけど言葉に詰まって、何を言えばいいのか分からなくなっていた。


「音琶......」


 何か言え、何か。

 そう思えば思うほど次の言葉が出てこない、音琶は相変わらず頬を紅潮させながら返事を待っていた。

 

「知らねえよそんなの、早く入るぞ」


 結局、そう言うしかなかった。

 音琶の期待していた言葉とはかけ離れているだろうとは何となく察するけど、他に言葉が思いつかなかったのだから仕方がない。まずは目の前のやらなければいけないことに集中しないとな。

 その日、音琶と食べる夕飯の味は、いつもよりも薄く感じられた。

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