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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第7章 技術不足で誤魔化さないで
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見せ場、どんな楽器にも与えられる

 6月15日


「確かに受け取ったよ、もうあんなことするんじゃないよ?」

「わかりましたよ」


 丁度先週の日曜日の出来事、音琶のためにしたことがこのライブハウスXYLO BOXの禁止事項だったがために書くことになった反省文。

 A4の紙1枚で済まされるなんてかなり軽い方だろ、反省文ともなると原稿用紙何十枚も書かされるものだと思ってたんだが。


「それで、今日はライブ見てくれるんでしょ?」

「そうですね、音琶が心配なんで」


 そう言って再び照明の卓の手前に立ちながら、機械の調整に励んでいる音琶の元へ行った。


「お疲れ」

「来てくれたんだ!」

「まあな」


 本当は反省文だけ渡したら帰ろうと思ったんだけど、結羽歌から15日に音琶が入ってるって話聞いたから予定変えたんだよな。

 当の結羽歌は昨日が出勤日で今日は休みだ、今頃茉弓先輩にベース教えてもらってるはず。

 因みに音琶には、今日来ることを伝えてない。


「何かこの前よりも余裕ありそうだな、今日は打ち上げ参加できるんじゃねえか?」

「もう、その話はいいよぉ......」


 無理もない、あんなに苦戦して俺の前で初めて涙を見せたんだから。

 あれだけ悔しい想いをしてまた同じような過ちを繰り返すわけにはいかないよな、今回は照明の打ち合わせを早めに済ませたらしい、バンド演奏を見つつ照明にも期待しておくか。


「もう、大丈夫だから。多分」

「多分じゃダメだろ」

「あ......、そうだよね。はは......」


 やっぱりまだ少し心配だ、流石にこれ以上反省文を書くわけにはいかないからヘルプに入れないのは仕方ないとして、上手くいったらあいつに何か飲み物でも買ってあげるとするか。

 それから間もない内に開演となって、最初のバンドの登場と共に白色の照明がステージ上に降り注がれた。


 ・・・・・・・・・

 

 やっぱり定期的にライブハウスが企画したライブに出てる人って、似たような容姿の人ばっかりだよな。

 ほとんどが社会人だろうけど、中にはこうやってライブすることで食って行ってる人とかいるんだろうか。


 今日のライブは全部で4バンドしか出ないから終わる時間がいつもより早めで助かる。

 この後夜勤あるからどうせ打ち上げには参加できないし、それまでに1回部屋に戻ってゆっくりしたい。

 先週は終わったら真っ直ぐバイト先に向かって、時間も結構ギリギリになっていた。

 

 丁度3バンド目が終わって、ギャラリーがトイレやドリンク注文で動き回る時間帯になった。

 俺は音琶の元に行くことにした。ライブ中は照明の卓の前ではなくステージ側で見ていたから、無意識に照明が心配にはなってなかったのかもしれない。

 自分でもよくわからんけど、ライブを見るのに集中できていたってことは音琶への心配事はなかったってことなんだろう。


「夏音、今日は私の視界に入ってこないんだね」


 何故かふて腐れたように言う音琶。視界って何だよ視界って。


「さっきのバンド良かっただろ、俺は結構好きだけど」

「へえ、夏音はあんな感じのが好きなんだ~」


 だから何でそんなに機嫌悪いんだよ、俺何かお前の気に触ることしたかよ。


「そうだな、それに音琶の照明のおかげでより一層良く見えてたしな」

「えっ!? そうかな......」


 俺がそう言うと音琶は恥ずかしそうに俯いて口をもごもごさせた。

 こんなに近くに居るのに何言ってるか分からん、早く次のバンドの照明確認しておかないとまたミスするぞ、と言ってやりたかったけど当の音琶はそれどころじゃなさそうだったからそのままにしておくか。


 トリのバンドこそ照明の見せ場だったりする、勿論どのバンドも決して手を抜いていいというわけではないが、一番最後ともなれば他のバンドとは感じる重みが違ってくるだろう。

 後ろを向いて音琶の表情を確認すると、最後の使命を達成しなければならないとばかりに緊張している表情が窺えた。


 そして一度暗くなった会場内が、ギターとシンセの共鳴と共に赤い照明に包まれた。

 てか今の照明のタイミングと言い色のセンスと言い、絶妙すぎて鳥肌立ちそうになったんだが。

 あいつ確か今日サポートのスタッフ付けてなかったよな? だとしたら今のは完璧と言ってもいいのだが......。

 てかライブハウスに来て照明に夢中になってるのもどうかと、普通ならステージ上で一生懸命演奏している人達の雄志を見るのが当たり前なんだろうけど。

 照明スタッフの動向が気になってる奴が今ここでライブ見に来ているのって、演者に対して割と失礼なことなんじゃ......。

 いやでも、もう2週間切った新入生ライブのこと考えたら、部内外問わず色々なバンドのライブ見ておいた方が今後の参考になるだろうし、行かないよりはずっといいか。

 何か自分を正当化しているみたいなこと思ってるけど、そんなんで大丈夫だろうか。


 気づけば1曲目が終わっていてMCに入っていた。

 今のうちに後ろに廻って音琶の視界(?)に入るようにしておくか? ライブが終わってからさっきみたいにふて腐れられても困るし、トリのバンドは前の方で見ておきたかったけどどんな音が出てるのかを分析するくらいなら朝飯前だから良しとするか?


「.........」


 音琶は卓と配られた紙を真剣に見つめながら器用に手を動かして次の作業工程の予習をしていた。

 2回目ともなれば感覚も掴めてきているだろうし、これなら大丈夫そうだな。

 いや2回目じゃないよな、もう何回も照明の作業してきてるんだよな、こいつは。


 ここまで3バンドもの照明を背負ってきたんだから、トリの照明もさっきまでのやり方を貫いていけば問題なく終われるだろう。

 これならわざわざ俺が近くにいてやらなくてもいいな、さっきまでの場所に戻って演奏技術を分析すると共に、今後の自分の演奏にどう活かせるか考えるとでもしよう。


 にしても、シンセがあるバンドって結構珍しい気がする、あの楽器があれば曲の幅が広がるし、ギターソロの代用とかだって出来たりする。

 あまり目立たないようでかなり重要な役割を担える楽器なんだよな、あれ。

 サークルにもシンセが2人いるけど、部会以外全然顔出さないし、練習もどれくらいしているのかもよくわからない。

 もしかしたらライブ終わった後辞めるかもな、てかそいつら以外にも一気に消えそうな気がするんだが。


 それにしてもこのバンド、ギターよりもシンセの音の方が目立ってるな、ギターソロの部分もほとんど音合わせてるし、打ち込み無しでここまで弾けるってのはなかなかだろ、何か今までみたことのないジャンルのバンドが聴けた気がして新鮮なのだが。

 多分今の曲が終わったら一旦終わったような素振り見せてアンコール入るんだろうけど、最後にとんでもないものを出してきそうで、今からでもどんな曲が用意されているのか気になっていた。

 もし打ち上げに参加出来るのなら、真っ先にこの人達と話がしたいくらいかもしれない。

 まあ、夜勤があろうがなかろうが打ち上げは極力参加したくない主義なんだけど。


 てかアンコール前だってのにレベル高すぎ、何あのシンセ、指どうなってんの。

 ドラムとベースはそんなに難しいものではないってのに、シンセとギターのインパクトが強すぎてついていけねえ。

 ギャラリーは今日一番に盛り上がっていて、胴上げまでしている位なんだが。

 流石に巻き込まれるのは御免だから端に寄っておくとしよう。


 ......ギャラリーのほとんどは曲に夢中になっているから気づいていないだろうけど、さっきの凄まじいシンセパートから、照明が安定していないのを俺は見逃していなかった。

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