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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第7章 技術不足で誤魔化さないで
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時間、限られた中でのやるべき事

 ***


 6月13日


「21日に新入生バンドの出来がどれくらいなのか確認するから予定開けとけよ、部室でやるから」


 部会ってこれが何回目だっけ? なんて考えながら部長の話を適当に聞き流していたが、何か重要なことを言ってたような気がする。

 気がするじゃない、かなり重要なことでした。


「大事なことだから2回言う、予定開けとけ。来なかったらどうなるかわかってるな」


 また出たよ、この参加しなかったらダメなイベント。

 しかもバンドの出来を見るとか、考えなくても瞬発的に嫌な予感に襲われるし、どうしろって言うんだよ。

 あと大事なことは2回限りでなくて何回でも言うべきじゃないのか?


「あーそれと......」


 まだあるのかよ、もう入部して2ヶ月経ったか? 掟に関しては心配ないはずだから早く終わってくれよ。


「武流と琴実、部会終わったらちょっと来い」


 俺の前に座っている高島が部長に突然呼ばれ、思わず身体が飛び上がるように動くのが見えた。

 ついこの前結羽歌に抱いていたわだかまりのようなものが解消されてから前ほどうるさくなくなったけど、また新たな問題に直面したということか。

 部長が直接呼び出すってことはそれなりの何かがあるんだろうけど、湯川も関係しているってことは何についてのことなのか大体予想つく。


 部会が終わって飲み会までの隙間時間、高島と湯川は部室の脇にある小部屋に連れられていった。

 それにしてもあの小部屋、何に使ってるんだ? 中見たことあるけど、特に何も置かれてなかったよな。


「夏音君」


 小部屋に視線を置いていると、結羽歌に呼ばれていた。

 そんなに高島が心配か?


「お前のお友達なら手が放せないみたいだぞ?」

「いや、そういうのじゃなくて......」

「何だよ、琴実とはお友達関係じゃなかったのかよ」

「そんなことないわけないけど......、私が言いたいのはそのことじゃなくて......。えっとね、私の練習も、見てもらえたり......、するかなって思って......」


 音琶に続いてこいつもかよ、何でこいつらはよってたかって俺にばっか練習見てもらおうとするのかね。


「俺よりベースの先輩に見てもらった方が......」


 そう言いかけてやめた。

 あの先輩達がまともに教えられるとは思えない、確かに浩矢先輩は演奏技術高いし指導を受けたら身になることがないわけではない。

 とは言え、あの人格で教えてもらいたいなんて思わないよな、てことで浩矢先輩は却下。

 ということはあと一人しかいないな......。


「着いてこい」


 結羽歌を促し、ある人に説得を試みることにした。

 さっきまで座ってた場所にはまだその相手は居る、鈴乃先輩とバンドのことについて話しているのだろうか、パーマのかかった髪をかき上げ、スマホを取り出して画面に夢中になっている。


「茉弓先輩、ちょっといいですか」

「ん?」


 ベースの2年生である戸井茉弓先輩は、視線をスマホから俺と結羽歌に移した。

 二度この人のベース演奏を見たことがあるけど、そんな上手いわけではなかったし、とてもではないが指導できるほどの実力を持っているわけでもない。

 でも、俺が見るよりは良いだろう、いくら同じバンドメンバーだからといってドラムの人間に見てもらっても、そんな得られるものはないだろうし。


「なんかこいつ、茉弓先輩にベース教えてもらいたいみたいです」


 別に、結羽歌は茉弓先輩に教えてもらいたいとは言ってないけど、ややこしくなるのを避けるために上手く言葉を選んだ。


「そっか~、全然いいよ~。いつがいいかな?」


 いともあっさり来たな、てかこの人鈴乃先輩と仲良さそうだし、このサークルの数少ない常識人だったらいいのだが......。

 一度飲み会で同じグループに当たったことあったけど、割と飲んでたしほろ酔いくらいにはなってたから、どうなのか俺にはよくわからない。


「茉弓もやっと後輩に頼られるようになったんだね」

「もー、うるさいな鈴乃は」

「はいはい」


 この2人、本当に仲良いんだよな? 今の鈴乃先輩、茉弓先輩のこと煽っているように見えたけど......。

 人間関係ってよくわからん。


「えっと......、いいんですよね?」

「うん、いいよ。結羽歌のベース、そんなに見たことなかったからどれくらいか見てみたいな~」


 何か上手くいったみたいだった、取りあえずこれからの飲み会を耐えて今日を乗り切ろう、どうせ明日は夜勤以外何もないんだし。


「えと、よろしくお願いします」

「うんよろしく~」


 この後結羽歌はまた酔い潰れた。

 飲み会の度に思うけど、結羽歌って素面のときと酔ってるときでキャラ変わるよな。




 6月14日


 やっぱりこの部室って広い、なぜだかわからないけどふとそう思った。

 昨日のアホみたいな(毎回だけど)飲み会のせいで脳の機能がおかしくなっているのだろうか、先輩達も楽しそうだし、1年の中でも楽しんでいる奴が出てきている。

 本当に何なんだろうな、あまり現実として受け入れたくない。


 本番まであと2週間丁度、その1週間前には部室で集まって先輩からバンドの出来を評価されるという謎の予定が入っている。

 時間なんてそんなにない、それにそろそろポスターが完成してある程度の宣伝を行ってもいい時期だろう、宣伝って言っても同じクラスの友人に声かけるくらいだろうけど、これがまたライブハウスでやるライブとかなら話は別だな。

 そして、ポスターの原案が完成していないのも受け入れたくない現実の1つである。

 

「色遣い、この前よりよくなったと思わないかしら?」

「今度は薄くなりすぎじゃないかな?」

「モノクロのセンスないイラストしか描けないあんたには言われたくないわよ」


 湯川と高島、昨日この2人が部長に呼び出されたのはこれが理由だ。

 高島も大変だよな、結羽歌との問題が解決したと思ったら次はこれだ。

 こいつこれ以上追い詰められたら辞めそうな気がしなくもない、俺にはどうでもいいことだけど、もし高島が辞めたら結羽歌はどう思うだろうな。


 てか俺は2人の言い合いを見に来た訳じゃなくて、普通に練習しに来たんだよな。

 本来の目的を忘れてはいけない、でもまあ一応許可だけは取っておくか。


「取り込み中なのはわかってるけど、ドラム練してもいいか?」


 机に向かい合って言い争う2人に割り込むように、今まさにやろうと思っていることを正直に伝えた。

 これくらいしておかないと俺のことなんてお構いなしに話し続けていそうだしな。


「何!?」

「何だよ」


 睨みつけてくんなよ、こっちもこっちでお前らとはまた別の事情があるんだからよ。


「聞こえなかったのか、ドラム練していいかって言ったんだ」

「......好きになさいよ」


 圧をかけるように言ったからか、高島は許可を出してくれた。

 前だったら意地でもやらせないように嫌味をぶちまけてたんだろうけど、こいつも成長したな。偉い偉い。


「......」


 湯川は黙ってたけど、ダメと言ったわけではないから許可を出したって判断するからな、後で文句言うなよ。


 昼からいきなりストレスが溜る出来事に遭遇してしまったけどまあいい。

 取りあえず1週間後までには、出来てないところを見極めていかないとな。

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