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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第6章 だから俺はお前を支える
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琴実、彼女の本気

 6月11日


 練習時間のピークは19時から部室の閉まるまでの時間で争奪戦になりやすい。

 バンドメンバーが全員同じクラスや研究室の人だったらそこまで大きな問題にはならないだろうけど、私達のような1年生にとってはそんな都合のいいことにはならない。


 1つのバンドが練習を入れる時間は何時間でも自由だし、週に何回でも構わない。

 だからこそ、長時間練習したいバンドは余裕ができればすぐに入れちゃうし、先輩達だって決してバンド練習をしていないわけではない。

 限られた時間を上手く使うのは、簡単そうで難しいものなんだな。

 

「ここはもっとギターの音大きくしたほうがいいんじゃない?」


 部室内に響き渡るバンドサウンドは私達のものでなく、琴実達のものだった。

 何だかんだでこの人達の練習風景を見るのは初めてだけど、1つだけわかったことがあった。

 それは、バンド間で最低限のまとまりがあるということだ。


「そうだね、もうちょっと調整してみる」


 琴実の意見に鳴香が従い、用意ができたら再びドラムの合図とともに演奏が始まった。


「みんな、頑張ってるね」


 私の隣で結羽歌が呟いた。

 その声音には余裕なんてなく、自分の演奏と琴実の演奏を比べてしまっているのか、焦燥感に溢れているように聞こえた。

 結羽歌も琴実と仲直り(?)できてだいぶ気持ちが落ち着いてきたのかな、なんて思ったけど、やっぱり演奏技術のことになるとそうもいかないみたいだった。

 琴実のバンドは、ギターボーカルが大崎匠人(おおさきしょうと)君、リードギターが鳴香、ドラムが桂木君の4人組になっていて、ベースの琴実を筆頭に成り立っているように感じられた。

 確か全員初心者だったはずだけど、それでも上手く簡単な曲を選んだのか、曲の構成や演奏技術には違和感がない。

 何ていうか、良くも悪くも安定しているから落ち着いて聴いていられた。

 所で、どうしてこの場に私達がいるのかというと......、




 1時間前


「結羽歌、もしかして練習しようとしてた?」

「えっと、うん」


 事情があって部室前で結羽歌にばったり遭遇した私は、思わず結羽歌がいつも通りになっていたことに驚いていた。

 一昨日の結羽歌は今までとまるで別人のようになっていて、本当にこの内気な女の子とあの変態が同一人物だなんてことがにわかにも信じられなかった。

 それはさておき......。


「これから琴実のバンドが練習するから、しばらく出来ないんじゃないかな」

「そっか......」


 残念そうに肩を落とす結羽歌.本当にいつも通りの結羽歌だけど、それに安心したのか違和感を覚えたのかは私にもよくわからない。

 でもまあ、気にしていても仕方ないから取りあえず部室に入って琴実達を見ておかないと。




 こんなやりとりがあって現在に至る。

 結羽歌は琴実の演奏を真剣に見ていて、どうやったら彼女に勝てるのかを考えている風に見えた。

 それにしても、前から気になってたんだけど勝つってどんな方法使うんだろう、自己分析で決めるのかな、それとも先輩達に決めてもらうのかな。


「止めて!!」


 琴実の合図で演奏が止まった。

 さっきから思ってたけど、琴実って初心者だってこと感じさせないよね......、それくらい演奏に夢中で、少しでもバンドを良い方向に持っていこうとしているんだな......。


「ここさっきからドラム遅れてる、私に合わせてもらえると助かるんだけど......」

「あ、ごめん」

「私達はドラムに合わせているけど、極力ドラムはベースに合わせるように心がけて!」


 ・・・・・・・・・


「お疲れ様、琴実」


 練習が終わって大崎君と桂木君が先に帰った後、私はベースケースを後ろに掛けた琴実に話しかけた。


「見てくれてありがとうね、私達のバンドはどうだったかしら?」


 結羽歌と和解したとは言え私には結構強気だな......、今まで琴実には強く当たっちゃったのがよくなかったかな、私も少しは彼女のこと理解していたらこんな感じにはならなかっただろうに......。


「うん、初心者とは思えなかった。バンド間の纏まりもあったし、ミスの指摘も的確だったね」

「......それだけなの?」

「え?」


 不満そうな表情を浮かべて私に訴えかける琴実。

 私何か変なこと言っちゃったかな......?


「私が聞きたいのは纏まりとかバンド内のやりとりとかじゃなくて、演奏の感想よ!」

「ああ......」


 確かにこのバンドはそんな悪い所はない、さっき言ったことが正に良いところであって、それ以外に何があるって言ったら......、


「ごめん、言いにくいんだけどさ......」

「何よ」

「はっきり言うならこのバンドには特徴がないかなって思った」

「なっ!!」


 今の返事は琴実のものでなく、琴実の隣に立っている鳴香のものだった。

 そう言えば私、あの一件から鳴香とはあんまり喋れてない、鳴香は自分にとっての満足できる演奏は見つかったのかな。


「......そう、でも否定はしないわ」


 期待していた返答と違ったのかはわからないけど、少しばかりはショックを受けているよね。

 でも、やっぱり本当のことは言うべきだと思うし、言わなかったらそれに気づけないまま続いていくのかもしれない。

 私だったら言われないよりは言われた方がいい、心に来るものはあるけど、言われた方が今後の自分の成長に繋がると信じているから。


「ねえ音琶、やっぱり私ってそんなに悪いのかな?」


 琴実の前に出て声を荒げながら鳴香が尋ねてきた。

 やっぱり引きずってるんだな......。


「悪いっていうか......」

「じゃあ何?」

「......ちょっと走り気味だから、もうちょっとドラムの音、聴いた方がいいよ」

「......」


 他にも指摘する箇所は沢山あったけど、今はそれだけにしておこう、あんまり言い過ぎてこれ以上鳴香に嫌な思いさせるわけにはいかないからね。


「まあいいわ!」


 黙り込んだ鳴香に割り込むように、琴実が大きな声を出して私を指さしてこう言った。


「どっちみち私達はあなたたちに勝って、最高のバンドを作り上げるんだから!」


 本当にぶれないな、逆にこの一途さが羨ましいかも。


「結羽歌には言わないの?」

「......」


 一瞬黙り込む琴実、今までの威勢から迷わずに勝負を挑むようなこと言ってくると思ったんだけど、どうしたのかな?


「そ、そんなこと、もう何回も言ってるんだから、これ以上言わなくたってわかるでしょ......?」


 この前のことがあったばかりだからかな、琴実は私と結羽歌から視線を逸らして、恥ずかしそうにそう言ったのだった。

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