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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第6章 だから俺はお前を支える
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心理、何かがおかしい

 6月9日


「お前またやらかしたのかよ......」

「仕方ねえだろ、今回ばかりは」


 なぜ昨日の出来事を日高に知られてしまったのか、それは日高の右隣に座っている、俺と同じバンドを組んでいる池田結羽歌って奴が原因である。


「それで、こんなもん書く羽目になったってわけか」

「ああそうだよ、取りあえず隣の女には当分口を塞いで貰わないとな」


 そう言って結羽歌に視線を向ける。

 結羽歌のことだから悪気はなかったのだと思いたい、でもそんなことをわざわざ同じクラスの奴に喋っていいという許可を出した覚えはない。


「えっと、ごめんね、夏音君」


 目線を下に向けながら澄ました顔で謝る結羽歌、こいつ先輩に怒られた時は涙目になってたっていうのに、俺だとノーダメージですか、別にいいんだけどさ。

 そして机に置かれた1枚の紙に視線を戻し、まず何から書き始めようか考える。

 昨日のライブで部外者である俺が、一人のスタッフの照明を無断で手伝ったことにより渡されたペナルティ、本当ならもっと重いものが課せられると思ったが、反省文で許されることになった。

  

「また集中できてないみたいだな」


 ......こいつ、授業中俺が音琶のこと考えてるといつも話しかけてくるよな、深層心理を見抜いてるんじゃないかと疑うくらいなんだが。


「夜勤で疲れてんだよ」


 なら夜勤辞めればいいのに、なんて返されてもおかしくない下手な言い訳をしたけど、そんな嘘日高にはお見通しのようで......。


「そうだな、夜勤は疲れるよな。でもそれ以上に疲れるような事情に巻き込まれてるんじゃ......」

「......目の前の反省文」

「なるほど、上川ね」

「......何でだよ」

「この前LINEしてたのって上川だろ? 昨日のライブだって......」

「お前もう音琶のこと言わないとか言ってなかったか?」

「調子に乗りすぎたとは言った」

「じゃあ調子乗んな」

「だから悪かったって」


 日高め、上手いこと言って何か企んでるな、ファイルの隙間からたまたま反省用紙が見えたからってここ最近の俺の行動パターンを読んで何かと音琶に結びつけようとしてやがる。

 まあ音琶と関係あるのは事実なんだけれども。


「なら何でそこまで言う」

「これ見てみろ」


 俺が問うと日高はスマホを取り出し、LINEを起動させると音琶とのやりとりを見せてきた。


「......!」


 なんか一方的に日高が音琶の核心をつくような文を送っているようにしか思えないけど、音琶の『いつから気づいてた?』って何のことだよ、あいつもあいつでよく分からないこと聞くもんだな。

 いや、そもそもあいつ自体よくわかんないんだけども。


「なあ日高、お前何か勘違いしてないか?」

「いや?」

「音琶はバンドの話してんだろ。俺個人の話なんか何もしてなくね?」

「え? そうなの?」

「は......?」


 どこか噛み合ってない気がするけど、俺何か変なこと言いましたか? 日高の表情が呆れを通り越しているんだけど、なんでなのか全然読めない。

 相手の心理を見抜くのは割と自信あるんだけど、こいつはなかなか手強いのかもしれない。


「滝上、お前正気か?」

「俺はいつでも正気だけど」

「......本当にか?」

「何回も言わせんなよ」

「そうかよ......、わかった。でも1つだけ言っとかないといけないことはある」


 何を改まって込み入った話仕掛けようとしてんだよ、ますますわからなくなってきた。

 

「そんなんじゃいつまでたっても幸せにはなれないぞ?」


 .........。

 幸せだ? 俺が? 理解不能ってレベルじゃないけど、一応頷いておくか、これ以上返事し続けたら面倒なことになるんじゃないかと思わなくもない。


「わかったよ」

「......取りあえず上川に冷たく当たったりするんじゃないぞ」


 日高はそう言うと板書に戻った。


 ・・・・・・・・・


 本番まで3週間もない、今の状況を考えるとこの前の練習よりは良い方向に向かっているはずだが、あくまで音琶のボーカルだけの話であって、全体で合わせた所でどうなるかは誰にもわからない。

 それに、昨日のことがあってからだととても普通の精神状態で歌えるわけないよな、何て日に練習を入れてしまったんだろうか、不運としか言い様がない。

 授業が終わったら結羽歌と部室に向かうことにした、練習は19時からだが飯を作るような余裕はなかったから少し早いけど行こうという判断だ。

 それまでに結羽歌には言っておかないといけないことが山ほどあるからな。


 部室では湯川がギターの個人練習をしていたけど、少し離れた所で高島が難しい顔でパソコンの画面を見つめていた。

 そう言えばポスター作るみたいな話になってたな、なら湯川は何で高島を放っておいてギター弾いてるんだか。


「高島......じゃなくて琴実、あいつはいいのかよ」

「......」


 無視されたと思ったけど、ワイヤレス型のイヤホンつけてるのか。

 なら仕方ない、ここは適当にLINE送っとくか。


 滝上夏音:返事しろ


 丁度スマホはテーブルの上にあったから振動に気づいたらしい、高島はイヤホンを付けたままスマホを手に取った。


「......」


 ようやくイヤホンを外し、目の前の俺の存在に気づいた。

 あからさまに嫌そうな顔するのやめろ。


「何よ」

「破天荒なお前が一人で真剣に作業している姿があまりにも滑稽だったもので、日頃の仕返しをしようかと」

「私があんたに何をしたって言うのよ!?」

「ああすまん、俺には直接は何もされてなかったわ」

「じゃあ何?」

「俺の大切な大切なバンドメンバーが今、あんな離れた所でお前との仕事に協力もせずに、スマホとにらめっこしながらギターを弾いてるなんて、どう考えてもおかしいだろ」


 本当は大切だなんて1ミリも思ってないけど、高島の調子を狂わすくらいなら上手く言葉を操ったほうがいいと判断した。

 一瞬湯川がこっちを見たような気がしたけど、すぐにギター練習に取りかかる当たり何かがあったのは確実だろうな。


「......そうね、でもこれは私の問題よ、関係ないあなたが入ってくる場じゃないわ」

「......」


 今の言葉は昨日のことを思い出されて刺さる所があるな.音琶もこいつと同じ事思ってたりしたら、それはそれで結構来るものがあるかも。


「じゃあ俺は知らねえからな」


 それだけ言い残して、俺と結羽歌は音琶が入ってくるのを待った。

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