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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第2章 crossing mind
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新歓、思う所が沢山

 部室全体には暗幕が掛けられていた。

 照明用ライトと奥にはドラムセット一式、楽器ごとのスピーカーにアンプ、真ん中と右にギタースタンド、左にベーススタンド、それぞれのスタンドの前にマイクスタンドが立てられていた。


 ステージと客席の間には仕切りが設置されており、手前側には体育館から持ち出したのであろうパイプ椅子がいくつも並べられていて、一番後ろではPA(音響)が機械の最終調整をしていた。

 感想を言えば、良くも悪くも安っぽいライブハウスのような装飾だった。

 部室の装飾だけでここまでできるのは感心できるけどな。


「へえ、なかなかできてるんだね」


 音琶が会場を眺めて呟いた。


「まあ、雰囲気は出てるんじゃねえの」


 席を選びながら二人で話していると、端で日高が座っているのが見えた。

 隣の女子と話しているようだったが、俺と音琶に気づき、口を開く。


「滝上と上川さんじゃん? 二人も来てたのか」

「まあな」


 敢えて俺が誘ったことは伏せておく。

 それよりもだ、隣の奴が誰なのかが気になった。


「こいつは?」

「ああ、こいつは池田結羽歌(いけだゆうか)。同じクラスだぞ」


 ショートの明るい内巻き茶髪、アーチ上の眉に垂れ目という典型的なたぬき顔で表情は少し硬い、人見知りなのだろうか。


「えと、池田結羽歌です。よろしくお願いします」

「こいつ、初心者だって。因みにベース希望」


 日高から発せられたベースという言葉に、すかさず音琶が食いついてきた。


「ベース希望なんだ! じゃあ私と組もう!」


 本当にこいつは懲りないな、お前の辞書には遠慮という言葉が入ってないのだろうか。


「えっと......、その......、なんていうか私......」


 ほらすごい混乱してる。

 こういうおどおどしてる奴は音琶とは合わないだろうな、音琶はまず空気を読むということについてもっと学習した方がいいだろう。


「馬鹿野郎、お前はまたそうやって......」


 周りのことを考えようとしない音琶の頭を軽く小突いたが、そうしている内に開演の時間となり、演者がステージ上に現れた。

 あの時会ったギターの先輩、いきなりトップバッターを任せられてるのかよ...。


 ライトアップと共にギターの音が響く。

 それにドラムとベースが続く。イントロが終わるとボーカルが入るわけだが、そのボーカルが酷かった。

 原曲が何の曲なのかは分からなかったが、それでも酷い。

 ギタボだから、だとか男性ボーカルの割にキーが高いとか、そんな言い訳ができるようなレベルを軽く超えていた。


 まず音程が合ってない、特に高い部分のビブラートは壊滅的、低い部分は何とか保っているがそれでも聴いているだけでハラハラする。

 そう思っている間にサビに差し掛かるわけだが、率直な感想を述べると、まあ聴いてられない、それしか言えなかった。


 別に他のパートが悪いわけでは無く、むしろリードギターの先輩は普通に上手かった。

 大抵の曲は2番目のサビが終わるとリードギターにとって最も難易度の高い部分に差し掛かるが、そこも綺麗な音を奏でていた。


 ドラムも上手くはないが力強く、ベースも重低音の使い分けが上手く出来ていた。

 もっとも、ボーカルが酷すぎると他のパートが良くても台無しになってしまうのだが。


 1曲目が終わってMCに入り、バンド紹介、次の曲の説明、新入生の歓迎の言葉諸々が飛び出した。

 俺はさっきのボーカルのせいでMCなんて全然頭に入ってこなかったけどな。


 2曲目も最後の曲もまあ想像通りだったが、観客からは歓声が上がっていた。


「なあ滝上、ギターってあんなにレベル高いのか?」


 さっきのギターソロに感銘を受けたであろう日高が俺に尋ねてきた。


「あのバンドのギターは難しいのばっかりだったけど、簡単な奴だったらそうでもない」


 ギターの技術は高い、大抵の観客はそう感じるだろう。

 ここにいる観客は初心者がほとんどだろうから、上手さのレベルとか技術とかそこまで気にしていないかもしれないけどな。


 その後もいくつかのバンドが登場したが、どれもこれもバンド全体のまとまりがあるのかと聞かれたら、あると即答できる様なバンドは無かった。


「夏音、今日のアレどう思った?」


 帰り道、4人でそれぞれの家路に戻ってる途中、音琶が聞いてきた。


「ああ、アレはダメだ、まとまりが無さ過ぎる」

「やっぱり......」


 音琶にもわかっていたのだな、馬鹿だから『すごい』だとか『かっこよかった』みたいなことしか言えないものだと思っていたが、これは意外だった。


「あの......、あの演奏、そんなに酷かったんですか?」


 池田さんが怯えるような表情で俺に聞いてきた。


「初心者には分からないと思うけどな、はっきり言って酷い」


 俺は相手が初心者であることをそっちのけで思ったままのことを口にした。

 すると池田さんが俯いて少し悲しそうな表情をした。


「おいおい、流石にそれは無いんじゃねえの?」


 今度は日高が聞いてきた。


「お前はあの人たちの演奏が酷いって思ったかもしれないけどさ、見ている人が楽しめればそれで良いんじゃないの? 確かに俺も初心者だし詳しく感想を言え、なんて言われても答えられる自身無いけどさ、少なくとも楽しむことはできたぞ?」


 ......こいつはライブ中、ギターについて色々聞いてきたしな、あまり他のパートのことは気にしていなかったのかもしれない。

 日高の言ってることは一理あると判断し、これ以上何も言い返さないと決めた。


「そうかもしれないな」


 俺はそれだけ返し、日高の後に続いた。

 

 そういえば、音琶はどれくらいギターが出来るのだろうか、俺は音琶がギターを弾いてる姿を見たことがない。


 そう思うと不思議である、少なくとも今日のライブの質の低さについては何か思う所があったようだったが、果たしてどれほどの実力なのだろうか。

 謎は深まるばかりである。

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