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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第6章 だから俺はお前を支える
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復帰、そしていきなり...

 ***


 開演は18時からだったな、今回のライブはうちのサークルの人が出るものじゃないし、俺以外の部員が来ることはないと信じたい。


 少し早めの夕食を済ませ、外に出る準備をする。

 そう言えば、最近音琶が夕飯食べに部屋に来ることが多かったから一人で食べるとどうも落ち着かないな、今までだったら一人でいるのが当たり前だったというのにな。


 スタートの数十分ほど前にXYLO BOXに着き中に入る、何せ今日は音琶がここのバイトに復帰する日だからな。

 数年前あいつがここでどんなことしていたかはわからないが、来てくれなんて言われたら行かないわけにはいかなかった。

 あいつもあいつなりに悩んでいることとか多そうだし、何があったかは知らないけど、放っておけない感じがした。

 他人に無関心だった俺が何を言うのかって話だけど、音琶に至ってはもう他人で済まされるようなもんじゃないよな。


「おはようございます」


 カウンターに立つ洋美さんを見つけたから挨拶をする、音琶は今どこにいるのだろうか。


「あ、夏音君おはよう! 何々、音琶に会いに来たの?」

「来てくれって言われたから来たまでですよ」

「今日は軽音部のバンド出ないもんね~。だとしたらそれ以外に何の理由があるのかな?」

「はいはいそうですよ、俺は音琶に会いたくてここに来ました」

「へ~」


 本当にこの人苦手だ、少し黙っててもらいたい。

  

「あ、夏音! 来てくれたんだね!」


 横から制服姿の音琶と結羽歌が現れ、俺に声を掛ける。

 洋美さんに色々聞かれそうだったから、助かった。


「あの......、お疲れ様、夏音君」

「ああ、お疲れ」


 結羽歌、お前スタッフだろ、客の俺より先にそれを言ってどうする。


「結羽歌、お疲れ様はお客さんが先に言うものでしょ。学校では友達だとしても、今は働いてるんだからそこ意識して」

「はう......! すみません......」


 洋美さんが結羽歌に指摘したけど、この人結構厳しいんだな、いつもあんな感じだからそのギャップに少し驚いた。


「音琶も、ちゃんと意識しないとダメだよ」

「は、はい!」


 さっきまでの元気な表情から一変、音琶からは緊張感が伝わってきた。

 やはりライブハウスのバイトというのはそんな楽じゃないんだろうな。


「それで、音琶は今日は何するんだ?」

「あー、私?」


 俺が聞くと音琶は少し難しそうな表情をして答えた。


「照明だよ」

「は?」

「だから、照明だって!」


 照明だってことは1回でわかった。

 でもな、復帰して1回目の人に照明やらせるっていくらなんでも酷なんじゃないか?

 そもそも照明なんて事前に出演バンドのセットリストだとか時間だとか、使う色とか考えないといけないだろ、いきなり今日やれなんて言われたら、俺だったら絶対断る。


「大丈夫なのかよ」

「いや......、一応先輩もついてるんだけど......。私はあくまでサポートって役割なんだけどね」

「だとしてもな......」

「大丈夫大丈夫、音琶にはみんなより1時間早く来てもらって簡単なセトリ表渡しておいたし、それに昔の経験活かしてもらおうと思ってたから」

「......」


 洋美さん、やっぱあんた凄いよ、もう何が何だか。


「うん、だから私頑張るよ。実はさっきからプレッシャーでお腹痛いんだけどね」

「そうか......、まあ頑張れ」

「あ~、緊張するな~」


 そう言って腕を組む音琶、その反動で制服越しからでもはっきりわかる大きな胸が持ち上がって、非常に目のやり場に困る。


「結羽歌は、何するんだ?」


 慌てて視線を結羽歌に移し、音琶にしたのと同じ質問をする。


「私は、ドリンクの提供だよ。でもリハのときちょっとだけPAやったよ」


 入って1ヶ月も経てばPAくらいは触らせてもらえるか、結羽歌もサークルでPAやればいいのにさ、先輩達は一度もやったことない人限定とか言い出すけど、経験者にやらせた方が効率的だと思うんだが。


「PAは難しかったか?」

「うん、機械細かいから、覚えること多くて大変、かな」

「そうか、ゆっくり覚えていけよ」


 俺がそう言うと、結羽歌は少し恥ずかしそうにして、カウンターの中に入っていった。

 てか話し込んでたらもうすぐ18時になってしまうな、俺も前に行ってライブ見ることにしようと思ったけど、『目当てのバンドがあったから来たのか?』と問われたら、『そうです』と答えられる自信がない。

 バンドマンとしてあるまじき行為かもしれなかったけど、どんなバンドがあるのかを把握するのも悪いことじゃないか、もしかしたら今後の勉強にもなるかもしれないし。


 今回のライブは全部で5組、鳴成市で結成されたものがほとんどだったけど、中には隣町から呼ばれたものもあるらしい。

 一組目のバンドの用意ができたらしく、ライブハウス内は真っ暗になる。

 それから数秒後、響き渡るドラムの音、ギターとベースも続いてイントロに入る、イントロだけで充分に伝わる迫力、サビだとどれほどの音が奏でられるのだろうか、早いBPMに適格なサウンド、それぞれの大きさの音は決して偏ってなんかなく、しっかりと合っていて聴いてて心地が良い。


 そしてサビ、曲の最初の盛り上がり所だけど、プレッシャーなんて感じさせない。

 軽やかかつ強く響くギターサウンド、単音引きでも強弱がしっかりついて、身体の底から沸き上がってくるようなベースの音、そしてタムとクラッシュシンバルの絶妙な協和音。

 俺のバンドには何一つないものが、目の前のバンドにはあった。しかもこの人達はスリーピースで、ギター一本でここまでの音を響かせているからとても適うものではない、てかこの人達と俺らを比べたら失礼な気もしてきたんだが......。


 それはともかく、さっきからサビ前に入る照明が少し遅れてるような気がするんだが......、気のせいじゃないよな?

 2曲目が終わったところで後ろを振り返ると、音琶が隣のスタッフと焦った様子で何か話していた。

 まあそうだよな、いくら昔バイトしていたとはいえ、復帰していきなり照明なんて簡単にできるもんじゃないよな。

 特に大きなミスをしたわけではないけどやっぱり心配になるよな、こんな一番前でライブを見てるだけなのも音琶に申し訳なくなってきた。

 そもそも俺は演者からでなくて音琶に来て欲しいと言われたわけだ、だとしたら何かできることがあってもいいんじゃないか、側にいてあげるくらいのことしかできないだろうけどさ、それで音琶が落ち着くんだったらやってあげてもいい。


 2曲目が終わったところで観客の隙間をかき分けて照明の卓が置かれている場所の前に立つ、敢えて音琶には何も言わずに。

 そして音琶の方を見る、音琶はすぐに俺の視線に気づき、助けを求めるかのような表情で何かを訴えかけようとしている。

 でも俺は何も言わず、上手くアイコンタクトをとってステージの方を向く。


 これで音琶が照明をやりやすくなればいいんだけど、俺なんかがそこにいて大丈夫なのだろうか、でもいないよりはマシだよな、だとしたらライブが終わるまで側にいてあげたい。

 遠くからだってちゃんと曲は聞こえてくるし、それぞれのバンドの見せ場だってわかる。

 だから今はこうして、音琶の支えになれると思ったことを貫くことにした。

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