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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第6章 だから俺はお前を支える
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電話、相手は凄い人

「疲れた......」


 空は鮮やかなオレンジ色に染まりつつある。

 結局ポスターの原案についての意見やら喧嘩の鎮圧やらでこんな時間までかかってしまった。

 案については決まらないままで終わっちゃったし......。


 勿論練習なんてできてない、明日初出勤だってのに今から疲れてどうする私。初出勤という言い方はおかしいか。

 部室を出て、どこかで夜ご飯を食べに行こうと考えながらスマホを確認すると、不在着信が来ていることに気づいた。

 登録してない番号だったけど、通販とかではなさそうだし、大事な連絡かもしれないからかけ直すことにする。

 

「あ、音琶ー! ごめん手放せなかった?」

 

 出たのは女の人だったけど、声と話し方で洋美さんだとわかった。


「ちょっとサークルのことで色々あって......、すみません」

「それで明日の打ち合わせの話なんだけどね」


 てか通話口からライブしている音が聞こえるんだけど......、この人勤務中に電話してるってことだよね? それならかけ直すとかすればいいのに......。

 前までの電話番号からはかかってこなかったから機種変でもしたのかな? だとしてもせめて名乗る位はしてほしい、今の言い方だったら気づかない人だっていると思うのに......。

 本当に相変わらずなんだから......。


「今ライブ中みたいですけど、大丈夫なんですか?」

「大丈夫、結羽歌に代わってもらってるから。あとさ、オープンが18時だから、13時に集合でお願い! 他の人より1時間早いけど音琶久しぶりだし一応確認しときたいから!」


 洋美さんがさっきまで何をしていたかわかんないけど、電話に出てる間とは言えまだ始めて日が浅い結羽歌に仕事を全振りするのってどうなの?


「......わかりました」


 そう言った後、忙しいからか電話はすぐに切れた。

 何というか、洋美さんは色々ぶっ飛んでいる、この前のライブの打ち上げで覚悟を決めてバイトに復帰したいって言ったら、『音琶の復帰に乾杯!!』なんて言い出してみんなの前でジョッキ一杯のビールを一気飲みしたくらいだし。

 それなのに全然酔わないし、それ以前に近いうちに面接の場を設けなきゃいけないはずなのに、『過去にうちにいたから』って理由でその場で採用しちゃうし、もう何が何だか。

 でも、仕事は早いし、不真面目なところはあるけど、学生の悩みとか聞いてほとんど解決しちゃうし、私も何度助けられたことだか。

 だからどうも嫌いになれないのだ。


「でも、楽しみだな。明日」


 何せ約3年ぶりの出勤なんだから、期待に胸を膨らませている私がいた。


 ・・・・・・・・・


「お前な、せめて俺の部屋来るなら事前に連絡くらいしてからにしろよ」

「本当は嬉しいくせに、全く夏音はツンデレさんなんだから」

「いいから上がれ」


 文句を言いつつも私を部屋に入れてくれる夏音。

 部屋に入るのは5日前、一緒にボーカルの練習をしたとき以来だ、一応今もギターは持ってるから、これから練習を見てもらうのもアリだったりして......。


「まだご飯食べてない?」

「まだだよ」

「食べてもいい?」

「別にいい。給料入ったし、弁償代も余る位だったから、お前に飯を作ってやる分の食費なんてどうってことない」

「良かったー! それじゃこれから毎日夏音のご飯食べに行くからね!」

「それはやめてくれ、いくら何でも限度あるし」

「冗談だよ。でも、本当に毎日食べれたら幸せだな......」

「......」


 私の本音に夏音は複雑そうな表情をした。流石に言い過ぎたな......。

 ご飯が出来たらすかさず明日の話題を持ってくる。


「へえ、じゃあお前明日からなのか」

「うん!」


 夏音の作った豚肉の生姜焼きを口に運び、飲み込んだら私は返事をする。


「夏音も行く?」


 無意識のうちにそう言ってしまった。

 勿論ライブの観客として来てもらうって体だけど。


「ああ......、そんなに遅くならないならいいけど」

「あ、確か夜勤あるんだっけ?」

「あと交通費とライブ代支給してくれるなら尚良し」

「むうー、それはちょっと図々しいよ?」

「お前だけには言われたくない」


 言い返せなくて目を泳がせる私、呆れ顔で箸を進める夏音、それでもその表情はどこか嬉しそうに見えた。


「でも、来てくれるんだよね?」

「だから言ったろ、遅くならなければ行くって。バス代もライブ代も自分で払うからよ。それに給料余ってるって言ったよな、まさか数十分前の会話も忘れたのか?」

「......もう、バカ」

「あ? 何だって? 聞こえねえな」

「......何でもない!!」


 豚肉を頬張り、胸焼けしそうだったけど我慢してその場を凌いだ。

 ご飯の美味しさと、夏音のさりげない優しさのせいで、私の胸はもういっぱいだった。




「まあ、よくなってるんじゃねえの?」

「ほんと!?」


 ご飯を食べ終わり、そのまま帰るのも物足りなかったから、夏音にギターボーカルの出来を見てもらうことになった。

 でもまさか、こんな短期間でよくなってるなんて言われるなんて思ってなかったな。


「何だよ、俺が嘘ついてるとでも言いたいのか」

「そんなんじゃなくて! 夏音に認められて嬉しいんだよ?」

「別に認めたわけじゃねえよ、こんな所で満足されても困る」

「......」


 そうだよね......、私はこんな所で終わる様な人にはなりたくないし、まだまだ上を目指すこと位できるはず。


「音琶、悪いけど俺はこれから夜勤行かないといけないんだよ。練習ならまた今度いくらでも見てやるからさ」

「うん、わかった。ありがとね」

「わかったなら帰れ」


 そうして、夏音の言われるがままに部屋を後にした。

 また今度、練習見てもらうの楽しみだな。

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