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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第6章 だから俺はお前を支える
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依頼、時間も欲しい

 6月7日


「夏音、あなたね......」


 大学からすぐ近くにある喫茶店にて、テーブルの正面に座る鈴乃先輩が顔をしかめて言った。


「別に謝る気はないですけど、取りあえず報告くらいはしといた方がいいと思ったんですけど」

「......まあいいわ、もう過ぎたことだし」


 丁度3日前の出来事を鈴乃先輩に話したらこれである。

 俺があいつらに言ったことは鈴乃先輩とは真逆のことだしな、黙ってるのも良くないし今後のサークル活動に大きく関わる可能性だってあるから、最低限の近況報告くらいは必要だろう。


「結局その4人はどうなりそうなの?」

「それは俺が首を突っ込む話じゃないですよ、辞めたい奴は辞めれば良いし、続けたければ続ければいいんじゃないですか」

「......そうかもしれないけど、もう少し言葉は気をつけるべきじゃない?」

「そんなことより、やっぱり新入生ライブが終わった後って一気にいなくなるんですかね?」

「そんなことって......」


 ますます鈴乃先輩が呆れ果てた表情をしたけど、そんなのどうだっていい、聞きたいことが分かればそれでいいのだ。


「それに、俺いくらでも先輩に頼るって言いましたよね?」

「うん。まあ、言ったね」

「なら俺の意見くらい聞いてくれてもいいんじゃないですか?」

「......仕方ないわね。いいよ、聞いてあげる」

「よっぽど嫌なことなら嫌だって言うべきだとは思いますよ。耐えるのも大事かもしれないですけど、限界だってあるわけですし。俺も今は耐えてますけど、それがいつまで続くかわかりませんし」

「......」

「不満があったとしても、それを誰にも言わないで自分で抱えるだけとか、悩んでどうしようもなかったりしてたら別にいいですよ。でも誰かに愚痴って共感を求めてるだけなら直接言えやって思っただけです」

「それで、あの子達は愚痴しか言ってなかったと」

「鉄弥が率先として言ってましたね。他の奴らは黙って頷くだけでした」

「うーん、なんていうかね......」


 終いには困り果ててしまった鈴乃先輩。

 この人も大変だよな、副部長として部員の状況把握とかもしないもいけやあし、ギタリストとしての後輩への指導だって任されている。


「私の同期の人達も大体この時期から不満を口に出すようになったんだよね、それでもう辞めるって決めてる人も居た。結局今年も繰り返すのかな」

「まだ決まったわけじゃないですけど、確率は高いですね」

「そっか......」


 どこか遠い目で窓の外を見る鈴乃先輩は去年のことを思い出しているのだろうか。

 俺は勿論、このサークルが今まで何をしてきたのかは知らない、でも一つだけわかる事と言えば、ここは色んな意味で異常ということだ。


「先輩達を上手く説得できれば辞める子は減ると思うんだけどな......」

「後輩のサポートは上手くいってるんですか?」

「上手くいってればいいんだけどね」

「何だそれ」


 会計を済ませ、外に出て歩き出す。

 結局俺も別の意味で鈴乃先輩に相談する形になったけど、俺には俺なりの意見があるわけだし、特に間違ったことをしたとは思わない。


「今日はありがとうございました、コーヒー代まで奢って貰ってしまって」

「いいんだよ、それよりも夏音は自分のこと少しは大事にした方がいいかもね」


 自分のこと......か、俺は自分の正しいと思ったことを貫き通しているだけで、その分の代償があっても構わないと思っている。

 周りが何を言おうと、常識的に間違っていないのなら尚更だ、あんな忠告をしてくるあたり、やっぱり鈴乃先輩はあの状況に流されてるんだろうな。


「大丈夫です、もう充分に大事にしてますから」


 それだけ言って俺は部屋に戻った。

 鈴乃先輩と話してから部屋に戻るまでの間、誰かに見られてるような感じがしたが、あれは何だったのだろう。


 ***


 部室って別に部会と楽器を演奏する以外にも使って良かったんだ、なんて思い始めたけど、決して遊んでいるわけではない。

 何をしているのかというと......。


「ねえほら! 私の方がいい色合いになってるじゃない!」

「そんな出来で学校中の掲示板に貼れると思ってるのかい? ここはもっと控えめにするべきだよ?」


 高島さんと湯川が、それぞれのノートパソコンの画面を見せ合いながら、ライブのポスターの原案で揉めていた。

 練習しようとして部室に行ったらこの状況に居合わせてしまったせいで、ただそこに立ち尽くすことしかできていないでいる。

 ポスター作成係がこの二人に決まった瞬間、何か一波乱が起こりそうな予感はしていたけど、それが本当に的中するなんて......。


「琴実さ、部長から意見もらったとき色が派手すぎるって言われてなかった? それなのに全然変わってないよね?」

「そういうあんただって! モノクロのイラストじゃ全然目立たないって言われてたじゃない! ちょっと色付けたところで意味ないと思う!」


 あのー、私練習したいんだけど......、いいですかね?

 

「音琶はどう思うの!?」

「音琶はどう思うんだい?」


 楽器の準備をしようとしたら二人に呼び止められた。


「え!? 私!?」

「だから! 私のイラストと武流のイラスト、どっちがポスターに使うの相応しいか聞いてるのよ!」


 それはわかってるけど、私関係ないはずなんだよな......、それはあなたたちで解決して下さいって言いたい所なんだけど......。


 それじゃあイラストだけでも見ることにしようかな、何かとても練習できるような雰囲気じゃないし。

 それにしてもこれ、図書館でしようと思わなかったのかな、あそこならグループワークの部屋あるし、わざわざ関係ない部員を巻き込むことなんてないと思うのに。

 パソコンもコピー機もあるんだから絶対そっちの方が効率いいよね......?

 

「じゃあまず私のイラストから見るのよ!」


 先に高島さんが自信ありげにパソコンの画面を私に向けてきた。

 真ん中に「FRESHMAN LIVE」とそれぞれ違う色でつけられた文字が並んでいて、その周りにはギターやドラム、マイクといった楽器類が描かれていた。


「どうかしら!」


 ドヤ顔で感想を求めてくる高島さん、その自信はどこからくるのか......。


「何か色が統一できてないよね......。例えば赤を使いたいなら近い色を使ってみるとかさ。それができれば少しは良くなると思うよ?」

「あら、音琶にしてはまともな意見」

「うるさいな......。あとさ、楽器はギターだけにしたら? 確かに色んな楽器入れたいかもしれないけどさ、あんまり入れすぎたら見栄え悪いかなって感じた」

「へ、へえ。そんなに自分の楽器が大事なのかしら」

「そんなんじゃないって......」


 高島さんがいかにもな表情を浮かべている、そして何かを言おうとしたとき......、


「それじゃあ次は俺のイラスト見て」


 湯川が割り込んでパソコンを見せてきた。

 そして私は言葉を失う。


「えっとこれ......何?」

「音楽を絵に現してみただけだけど?」

「......これはない」

「は?」

「これなら、琴実のやつちょっと修正していった方が早いと思う。ごめんだけど武流のは却下」


 簡単に言うと、湯川のイラストはモノクロ状態から少し色を加えただけの、ただの線引きのようなものだった。

 これでデッサンが加えれてたら話は別だったけど。


 どうして湯川はポスター作成係に立候補したんだろう、って位の出来だったのは言うまでもなかった。

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