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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第6章 だから俺はお前を支える
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歌う、例えどんな方法でも

 毎日ずっと練習をしてきて、要点や出来てないところをまとめたり動画を撮ってどこを修正すればいいとか探ってきたけど、夏音はどんな感想を持ちかけてくるのか。


「どうかな?」


 不安だけどわざわざ声を掛けたんだから、意見はしっかり聞いて活かさないといけない。


「そうだな......」


 間を置いて考え込むように言葉を発する夏音、表情からしてまだ納得してないみたいだけど......。


「相変わらずサビの高音が弱い。他の所は腹から声は出せてるけど、そこだけどうしても喉から出てるし、結局はラスサビで裏声になってる」

「うん......」


 決して悪い状態が続いてるわけではないと思うけど、夏音のことだからダメだと思うところが一つでもあったら見逃さないだろうし、良いところがあっても褒めたりしない。

 わかってるけど、やっぱり夏音に認められてないのは辛かった。


「高音の部分何回もやればいいとは思うんだけど、お前はどう思うよ」

「できてる部分とも組み合わせていきたいんだけど、それじゃダメなのかな......」

「まずはできてない所徹底的にやれよ。別にギター持ってなくてもいいから裏声の部分と同じ高さの声を何秒か出し続けたり、腹式呼吸上手く活用してみたり、色々あるだろ」


 強い口調で言われたけど、これも私の事を思って言ってくれてると思いたい。

 やっぱり本番でも、その前の練習でも、夏音の期待を裏切る様なことはしたくない。


「そう、だね。そしたら手伝って!」


 私はギターを肩から外して夏音に協力を促す。


「は? 何を手伝えって?」

「光から教わった歌い方なんだけど、あの方法だったら裏声じゃなくて歌えたんだ。ギター持ってないからやりやすいし」

「はあ、どんなやり方なんだよ」 

「力一杯拳でお腹抑えて!」

「......」

 

 私の希望に夏音は黙り込んだ。

 こっちは至って真剣に言ってるのに、どうしてすぐに返事しないんだろう。


「無理」


 数秒置いて夏音が一言、こう言った。


「え、なんで!?」

「なんでも何も、なんで俺がそんなことしなきゃいけないんだよ!? そんなの大津とか、結羽歌でもいいだろ!」

「光の頼み受けたのは夏音じゃん! だから最後まで付き合ってよ!」

「だから、それは流石にまずいって言いたいんだよ!」


 言い合っている内に夏音がどうしてこうも焦ってるのかようやく分かった気がする。

 勿論異性に身体を触られるのは抵抗あるけど、夏音なら大丈夫だって信じてるし、実際1回触られたことあるし、あの時は恥ずかしかったけど、今は真面目に練習してるつもりだし......。

 だから変なことだとは思わないで欲しいんだけど......。


「とにかく、それはダメだ。そういうのは他の奴に頼んでくれよ」


 やっぱり夏音はむっつりだな......。

 あくまで練習の一貫なんだし、夏音にやってもらった方が光よりも強い力で抑えれるはずだから大きな声出せると思うんだけどな。

 それに、これ位のことしてもらえる異性は夏音以外に考えられないし。


 そう、これはあくまで練習の一貫なのだ。


「夏音は私がこのままでいいと思ってるの? 私は嫌だよ。きっと感覚掴めれば歌いやすくなるはずだよ」

「っ......!」

「誰かに手伝って貰わないと、自分だけの手の力じゃ限界あるもん」

「......どうしてもか」

「どうしてもだよ」


 私の言葉に裏はない、確かに端から見たらとんでもないことかもしれないけど、手応えのあった練習ならどんな方法でも試していきたい。


「仕方ねえな......」


 私から目を逸らしつつ、夏音は渋々だけも了承してくれた。


「ありがと、それじゃお願いね」

「ああ。それで、どれくらいの強さでやればいいんだよ」

「とにかく、自分の出せる限りの力でお願い」


 そう言われると夏音は右手を握りしめ、恐る恐る拳を私のお腹に近づけた。


「なあ、本当にいいんだよな?」

「いいから早くやれ」

「はい」


 どこまで躊躇うの? このむっつりめ。

 何回も言うけどこれはあくまで練習の一貫なんだから、いちいち気にされるとこっちも恥ずかしくなるんだよ!


 数秒待って、やっと夏音の拳は私のお腹に辿り着いた。

 流石男の子と言った所か、光よりもずっと強い力が伝わってくる。


「これでいいか」

「いいよ」

「それじゃ1回曲かけるから、サビの部分歌ってみろ」

「うん」


 スマホから流れる曲に合わせて、サビの部分に差し掛かると私は腹筋に力を入れて歌い出す。

 お腹に伝わる強い力のおかげで光と練習したときよりも強弱を付けやすいし、何より歌いやすい。

 もしかしたら光は、そのことを見込んでの上で夏音に練習を頼んだのかな。

 

「どう?」


 まだサビの前半部分だけだったけど、さっきよりはずっと歌えた自信があった。

 夏音からはどんなコメントが返ってくるのか気になるところだけど......。


「......こんなことしなくても歌えるようになれよ」


 えっと、つまりこれはどういう......。


「声、出てんだから俺が手伝わなくても出来るようになれ」

「そっか、でもよかった」

「何がだよ」

「てっきりまだ歌えてないって言われるのかと思った。大丈夫、本番まで絶対歌えるようになってみせるから」

「......早くしろよ」


 ふて腐れてる......。

 やっぱり悪いことしちゃったかな、でも自信ついたし効率の良い練習方法だから、今後も完璧になるまで続けたい所なんだけど、ダメかな。


「夏音ってさ......」


 何かを言おうとして、止める。

 そしてもう一度考え直して言葉を選ぶ。


「やっぱり優しいね。私、夏音とバンド組めて良かったと思ってるよ!」


 勢いで変なこと言っちゃった......。

 優しいのはずっと前から分かってたけど、何度でも言いたいくらいだった。

 何度言っても、足りないくらいだよ......。


「......まだ組んだばっかりなのに何言ってんだよ、それよりもまずはギターボーカルをマスターしろ」

「うん! だからこれからも練習付き合ってほしいな」

「......勝手にしろ」


 俯きながら答える夏音だったけど、大丈夫、きっと夏音はまだ素直になれてないだけだよ。

 だって、本当に嫌だったら、わざわざ私と練習する時間を設けたりしないはずだし、言い方きつくても優しい言葉を掛けてくれるんだから。


「それじゃあ、勝手にさせてもらうからね!」


 私はそう言って、もう一度同じ練習をすることにした。

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