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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第6章 だから俺はお前を支える
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やらかし、これは擁護できない

 6月2日


「それで......、なんでこうなったんだっけ?」


 時刻は20時になろうとしている。

 普段なら夕飯を食べ終わり、授業の復習をするはずの時間......、いや、もうそれを普段の行いとして認識しない方がいいかもしれない。

 ここ最近、というよりあのサークルに入ってから非日常というものに巻き込まれていると言っても過言ではいのは明らかだ。


「部室が使える状況じゃなかったんだから、仕方ないでしょ?」


 昨日の昼、音琶に昼飯を作ってあげて、『また機会があったら行きたい』なんて言われたばっかりだってのに、こんなすぐにまた俺の部屋に入れることになるなんてな。

 なぜこうなったのかは、昼間の授業中に遡る。


 ・・・・・・・・・


 三限の授業、夜勤のせいで一限でなくても眠い、遅刻しなかっただけ偉いと思うけど、板書もちゃんと取れてたらもっと偉いな。


「滝上、お前本当に大丈夫か?」


 隣に座る日高が呆れ顔になってたけど、そんなこと気にしてる余裕なんてなかった。


「大丈夫に見えるかよ」

「俺には見えないな」

「色々ありすぎると疲れも溜まるもんなんだよ」

「あーわかる。俺も高校の部活大変だったし、浪人してた時も色々あったもんだよ」

「へ?」


 今浪人してたって言ったか? 確かに体育系の大変な部活に入っておいて、よくこんな難関大学に入学できたなと思ってたけど、そういうことだったのか。


「あー、浪人してたってこと言ってなかったよな?」

「言ってなかったよ、日高先輩」


 驚きを隠しながら少しだけ日高を冷やかした。


「いやいや、先輩って付けれてもな......。いつも通りでいいから」

「それならそうさせてもらうよ、日高君」

「あのなあ......」


 呆れを通り越したように日高は言ってきたが、俺は気にせず教材を机に並べた。


 これから暫く退屈な授業が続く、授業の時間は1時間半で一限は9時から、そして五限は18時に終わる。

 つまり今日、俺は18時までずっと授業漬けということになる、やっぱりシフトもう一度見直した方がいいかもな、授業に響いてしまっては意味がない。


 睡魔に負けないよう板書をノートに写すのに集中しながらペンを動かす。

 計算式も公式も全て受験の時にやったことのある内容だけど、人間は忘れる生き物だから知っている内容でもノートを取るのは怠らないようにしている。


 集中すること1時間、授業が終わるまであと30分、もう一息のところでポケットの中のスマホが振動したのがわかった。

 正直授業中にスマホを触る奴には、高い授業料を払ってくれているお父さんお母さんに申し訳ないと思わないのか、と言いたい。

 でも、もし今の振動がLINEの通知で、差出人が音琶だったら、なんて考えるとどうしてか居ても立ってもいられない、昨日のことがあってから今まで以上に音琶のことを考えてしまっていた。


 自分のことを棚に上げる形とはなったけど、スマホを確認せずにはいられずとうとう取り出してしまった。

 画面を見ると案の定音琶からのLINE通知だった、一気に鼓動が早くなり身体も熱くなる。

 日高は俺の様子がおかしいのに気づいたのか、怪訝な表情を浮かべながらこっちを見ている。

 そもそもLINEなんて、サークルのグループとバンドのグループと音琶の個人チャット以外これといった通知が来たことなんてなかったな。

 確かに日高や立川とは連絡を取り合うことあるけど、音琶ほどではない、友人とは一体......。


 上川音琶:今授業中?


 LINE送ってくるってことは、音琶は今暇なのだろうけど、一体何をしようとしていたのか。


 滝上夏音:悪いな、授業中だ

 上川音琶:そっかー

 滝上夏音:どうしたんだよ

 上川音琶:この前言ってたボーカルの練習、付き合って欲しかったんだよねー

 

 ああそうだよな、大津の頼みを引き受けた以上、あくまでバンドメンバーとして音琶をサポートしないといけないよな。

 そんな当たり前のことに俺は何を期待していたのか。


 滝上夏音:五限まであるからそれまで待っててほしい

 上川音琶:わかったよー

 

 そのあと追加で何か返信しようと思ったけど、返す言葉が見つからなかったからそのままスマホを元の場所に戻した。


「滝上」


 日高が小声で俺を呼ぶ。


「お前が授業中にスマホ使うなんて珍しいな、大事な連絡でもあったのか?」

「......まあな、大事ではある」

「そうか、大切にするんだぞ」

「はあ!? 何をだよ!」


 思わず立ち上がって大きな声を出してしまった。 

 

「「「......!?!?!?」」」


 授業中であるのにも関わらず、突然大声を出した俺に周囲の視線が集まる。

 教授も唖然としていて開いた口が塞がらない状態だ、やってしまったな。


「ちょ、滝上落ち着けって」

「.........」


 日高と、隣に並ぶ結羽歌と立川も突然どうしたとばかりに唖然としていた。

 これはもう誤魔化しようがないので、


「すみません......」


 取りあえず凍り付いた空気をどうにかするべく、最低限謝っておくことにした。

 その後、教授は何事もなかったように授業を再開したけど、周りからひそひそと声が聞こえてきて、自業自得とはいえもう逃げ出したかった。

 次からの授業出辛くなっただろうが畜生。


 ・・・・・・・・・


「滝上ー、あんたさっき何やってたのよ~。自分の世界に入り浸ってたの~?」

「うるさい」


 三限から四限までの移動時間、立川に散々からかわれ、状況説明を要求された。


「こいつ、誰かとLINEしてたみたいだよ。それで俺が適当に声かけたらあんなことに」


 俺が答える代わりに日高が説明をしていた。

 上手いこと誤魔化してくれればいいものを、本当のことを言われたらややこしくなるだろうが。


「え、もしかして彼女とか?」

「なわけないだろ!」

「あれ~、どうしてそんなにムキになってるの~? ますます怪しい」

「だから違うって」


 立川ってこういうとこあるよな、友人とは認めなくもないけど、誰かの噂話とか結構好きみたいだし。


「千弦ちゃん、夏音君は真剣なんだから、そっとしてあげようよ?」


 結羽歌、お前もか。お前ならわかってくれると思ってたのに、失望したぞ。


「女に真剣なのね、よくわかった」

「女には縁ねえから」

「え? そうなの? そしたら何で私や結羽歌はあんたと授業受けてるのかな〜?」


 俺の返答に立川が目を丸くして尋ねてくる。

 これからこの女の前で怪しまれるような行動取らないように気をつけていこ、マジで面倒くさい。


 四限の教室に着いたところで上手いこと話を逸らし、なるべく今日は立川に話しかけられないようにしよう、ちょっとでも関わるとまた変なこと聞かれそうだし。

 別に俺は音琶のことを女として見ていないわけではない、でも縁だとかいう、そんなのとはまた何か違う......、言葉に現せない「何か」があるのは確かだった。

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