信頼、できるようになりたい
6月1日
悪い夢から覚め、昼食を作って腹を満たす。
学校が休みの日は、一日の最初に食べる食事が昼食になってるのが当たり前の様になっていた。
「いつ食べても美味しいよ!」
向かい合いながら箸を進める音琶が料理の感想を述べている。
こいつと飯を食うのももう何回目だろうか、これも当たり前になればいいけど、音琶の事情を考えたら簡単には行かないだろう。
「そうか、良かったな」
「良かったって......、夏音が作ったんでしょ?」
「音琶が言いたいのって、つまりはそういうことなんだろ?」
「えっと、夏音が私に対して冷たい気がするってことだよね?」
「それしかねえだろ」
「だからそう言うところ!」
そう言うところ、ね。
今までずっと冷たい感じで接してたから、意識してなくても素っ気ない言動になってしまうのは仕方ない気もする。
長い間誰も俺を必要としてくれる人がいなかったから、例え話し相手が音琶でも警戒してるのかもしれない。
「もう、昔夏音に何があったのかなんて私は知らないって前にも言ったよね? まだ私のこと信じれてないのかな?」
「別に......」
「どっちなのかはっきりするの!」
「どうやら元気になったみたいだな、俺の飯食ったからか」
「だから! そうやって話逸らそうとしないの! 確かに元気にはなったかもしれないけど......」
「信じたいとは思ってるよ」
「!!」
その瞬間、面食らったような表情をした音琶は数秒ほど黙り込み、平静を保ち出して続けた。
「それなら、すぐに言ってよ......。私は信じてるんだから......」
「でもやっぱり、信じ切れる自信はまだない。何ていうか......、人の感情って一瞬で変わるもんじゃないだろ?」
自分でも何をどうしたいのかがよく分かってない、音琶に対しては何か特別な感情を抱いているのかもしれないけど、確信に辿り着けないでいる。
「......そっか、でも夏音は、私のこと信じたいとは思ってるんだね」
「まあ、そうだな」
「でも、このまま現状維持はダメだからね! いつかは絶対に私のこと信じて欲しいし頼りにもして欲しい! そうじゃないと、一緒にバンド組んだ意味ないもん!」
「それなら、お前の隠していることも絶対にいつか話してくれるんだな」
「うん、話さなかったら私が夏音を信じている意味がなくなっちゃうからね」
きっと音琶も俺と似たような過去をもっているんだろうな、だからお互いに信じ合えていないと自分のことを語れないのかもしれない。
音琶のことを知るためには、まずは相手を完全に信用しないと意味がない、無論信じたいという願望だけでは足りないのだ。
「ごちそうさま、また機会あったら食べに行きたいんだけど、いいかな?」
飯を食い終わった音琶の問いかけに、いつもだったら冷たく返していたのかもしれないけど、俺は......、
「いつでも待ってるからな」
紛れもない本心を音琶に言い放った。
この言葉に嘘偽りはない、本音を吐かれた音琶は何を思うだろうか。
「うん!!」
振り返って、満面の屈託のない笑顔で、まるで自分がこの世の誰よりも幸せ者だとでも言うように、返事をした。
そして俺は気づく、部屋のドアを閉めて、姿が見えなくなろうとしている少女のことを大切にしていきたいと思っていることを。
今まで誰のことも信じられなかった俺だからこそ、音琶のことを一層信じたいと思っていたんだろうな。
友人とは違う、また別の感情が芽生え始めていることは明確だったが、それが何なのかはまだわからなかったけどな。




