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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第5章 only my guitar
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擦違い、相手の心意

 練習で得られたことと言ったら何だろうか、失敗から得られるという捉え方もできるかもしれないけど、今の状態だとその考えは甘い。

 多分だけどうちは経験者が多いから、一応現時点で他のバンドよりは出来てるかもしれない、だからと言って安心していいわけでないし、経験者なら経験者なりのプライドだってある。

 第一初心者達の前で恥をかくわけにはいかないしな。


「どうしたらいいんだかな......」


 練習を一通り終えた俺は無意識に呟いていた。

 それを聞いてた結羽歌が申し訳なさそうな顔でこっち見てるけど、何も言わなきゃ伝わらないからな。


「夏音君」

「あ?」


 名前を呼ばれたから顔を上げると、大津が目の前に立っていた。

 指摘することなら溢れんばかりにあるだろうからお好きにどうぞ、何も言われないよりはマシだからな。


「もう少し、音琶のこと見てあげて」

「どういうことだよ」

「4日前から音琶はずっと私とボーカルの練習をしてきた。でも私は教えるべきことは教えたつもりだし、あとはバンドメンバーが個人で見てあげないといけない」

「あれか、基礎は教えたからバンド間で意見を出し合えってか」

「そう、そんなところ。私ばかりが教えても、バンドメンバーがどんな風に歌って欲しいのかによって演奏も変わっていくと思うから」


 当の音琶は部室の隅でイヤホンをつけながら目を閉じて何かを口ずさんでいる。

 多分、じゃなくて絶対バンドの曲聴いてるな。


「そうだよな、お前は別に音琶とバンド組んでるわけじゃないんだし、メンバーがサポートしてあげないと意味ないかもな」

「それなら、今すぐにでも声をかけるべき」


 大津は音琶のいる方向を指さして言った。

 この女、何考えてるのかいまいちよくわかんないんだよな......、言ってることは間違ってる気はしないけど、どこまで信用していいのか見当つかない。


「......」

「ほら、早く」

「......しゃーねえな」


 言われるがままだったけど、言われた通りにしないといけない気がしたから音琶の元まで行くことにした。


「音琶」

「......」

「おい」

「......」


 どうやら曲に集中していて俺が目の前にいることに気づいていない様だった。

 このままじゃどうにもならないから音琶の耳からイヤホンを外す。


「!!」


 突然のことに音琶は驚いていたけど、これ位しか手段はなかったんだから悪いことをしたとは思わない。


「ちょ! 何すんの!?」

「いくら呼んでも返事がないから耳が聞こえなくなったんじゃないかと思ってな」

「そんなことないよ!!」

「じゃあなんで俺のこと無視したんだよ」

「そんなの、曲聴いてたからだよ。目だって瞑ってたし!」

「悪かったよ」

「......せめて肩叩く位してよ」

「あ? 何か言ったか?」

「っ! 何でもない!!」

「言いたいことあったらもっとでかい声で言えよな」

「......」


 何でそんなに焦ってるんだよ、そんなことはどうでもいいんだけど。


「......まあいいや。それでさ、今からとは言わないけどこれからは音琶のボーカル練習は俺が見てやることになった」

「ふぇ!?」


 やばい、言い方間違った気がする、あまりにも唐突すぎて音琶も思考回路が追いついてないよな、もう少し前置きが必要だったのは言うまでもねえ。

 ダメだやっぱり音琶の前だと言葉遣いが下手になる。


「......えっと、今まで光に教えてもらってたけど......」


 ああもうこれは断られるやつだ、そもそも頼まれてすらいないことをいきなりやってやるなんて、どう考えても変だし混乱だってする。

 ならここはもう少し具体的に説明を......、


「大津から頼まれたんだよ、あいつはもう教えることは教えたってな」

「もう、そういうことなら先に言って欲しいな」

「ああ、今回ばかりは順序が逆だった」

「ふーん、でも嬉しいな。夏音が教えてくれるなんて」

「教えるって言ってもボーカルの基礎とかはわからないから、バンドの時にどんな風に歌って欲しいとかのアドバイスする位だぞ」

「ううん、それでも全然いいよ!」


 何とか上手く言い回したからよかったけど、なんでこいつこんなに嬉しそうなんだか、たかが練習見てあげるだけのことだってのに。

 

 ・・・・・・・・・


 結局あの後は音琶のボーカルを見てあげることもなく、大津の話を聞くわけでもなく、集合時間になるまでドラムを叩くなり、スマホを触るなり自由にしていた。

 どうせ他に誰も部室に入ってきたりしないし、結羽歌や湯川だって一応は楽器に触れてるし。


 今回は部長、じゃなくて榴次先輩が部室に入ってきてライブに行く奴らを誘導していった。

 車を持っている人は今回全員演者だったから行きはバスを使うことになった。バス代だって馬鹿にならないけど、だからといってライブに行かないわけにもいかないから仕方ない。


「ねえ夏音」

「何だよ」


 バスの中で、隣に座ってる音琶が思い詰めたように口を開いた。


「今日のライブって3年と4年で組んでるって言うけどさ、どれくらいなんだろうね」

「まだ見たことないからわかんないけど、期待したほどじゃなかったらガッカリってレベルじゃねえよな」

「もう、またそんなこと言うんだから」 

「お前が言わせたんだろ」

「えー! 私が悪いの!?」

「ああお前が悪い」

「もう!!」


 音琶に足を踏まれたけど全然痛くなかった。


「夏音はさ......」

「さっきからどうしたんだよ」


 ここ最近の音琶は割と明るかった気がするけど久しぶりに思い詰めてるな、また何か抱えてるんだろうけど鈴乃先輩から警告受けた時とは別のことを考えてるように感じられた。

 

「私のことどう思ってるの?」


 .........は?

 今なんて言ったこいつ、私のことどう思ってるだって? それってどんな意味で捉えればいいんだよ、バンドメンバーとしてってことか?


「どう思ってるとは」


 動揺を何とか隠しながら聞き返した。


「夏音ってさ、私に対してちょっと冷たいような気がするってか......、いやでも本当は優しいのはわかってるけど......」


 冷たい、ね。

 あと優しいってなんだ、そんな感情は俺には必要ないからとっくの昔に捨てたはずだが。


「結羽歌とかと喋ってるときはわりかし楽しそうにしてる気がするし......、もしかして夏音は私のこと嫌いなのかなって......」

「別に嫌いじゃねえよ」

「え?」

「嫌いじゃねえって言ったんだよ聞こえなかったのか?」


 そう言い終わらない内にバスは目的地に着いたから俺は小銭を片手に立ち上がった。

 よくわからない話をしているタイミングでバスが到着したのは助かったが、後は上手く誤魔化して話題を変えれば何とかなるだろう。

 バスを降りてからも音琶はまだ何か言いたげにしていたけど、俺は気づいてない振りをしてライブハウスの入り口へと向かった。

 多分、こうやって音琶に無関心な振りをしているから冷たい奴だと思われてるんだろうな、それにしても「本当は優しい」ってどういうことなんだよ、俺は音琶に優しくしたことなんてないはずなのに。


 いや、もしかしたら気づけてないだけで、実は優しいと思われるような事をしていたのかもしれないな、何はともあれ音琶のことが嫌いじゃないのは事実だ、それを上手く表現することができないから、どうしても冷たい態度を取ってしまってるのかもしれない。


 本当はもっと音琶のことを知りたいとは思っているけど、この感情が一体何なのかわかっていないからどうしようもなかったんだよな。

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