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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第5章 only my guitar
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苦戦、増えてく課題

 ***


 5月31日


 夕方からライブがあるけど、その前にバンド練習の予約を入れてたから集合時間よりも早めに部室に向かった。


 それにしても昨日は今までで一番酷い飲み会だった、これからどんどん酷さは更新されてくわけだけど、それでもこの時の俺は充分に酷いと感じていた。

 まず何が酷いかというと、兼斗先輩のリバース野郎のせいで昨日の居酒屋にはサークル内で入ることが禁止になり、勿論兼斗先輩は完全に出禁、しかもゲロの処理は何故か俺がやらされ、先輩は立ち上がることすらできない状態だったから残されたドラマー達で部屋まで送ったのだった。

 まだトイレで吐いとけばよかったものを......、面倒ごと増やすんじゃねえよ、ノロウイルスにでもかかったらどうするつもりなんだよ。


 そんなことがあったせいで、俺は朝から気分が悪い。

 あの後部屋で寝間着に着替えるときにわかったんだが、僅かながらシャツにゲロがついてたからクリーニングに出したのは言うまでもない。

 LINEでクリーニング代請求するように言ったけど、あの野郎まさか「記憶ないから払わない」みたいなこと言ったりしないよな。既読ついてねえけど。


 部室に着くと、俺より先に音琶とライブで弾き語りをやるとか言ってた大津光の二人が、ギターを持ちながら個人練習をしていた。

 主に大津が音琶にボーカルの指導をしているような感じだった、音琶はライブでやる曲のサビの部分繰り返してるし。


「あ! 夏音来た!」


 俺に気づくと音琶は大津の指導もそっちのけでギターを首に掛けたまま駆け寄ってきた。


「わざわざギター掛けたままにすることないだろ」

「私さ、この前の練習からずっと光にボーカルの練習手伝ってもらってたんだけど、練習前にちょっとだけ見て貰えるかな?」

「人の話聞けよ......」


 でもまあ、あれから練習頑張ってたみたいだし、経験のある大津に練習頼んである程度は出来るようにはなったんだな。

 まだ見てないから何とも言えないけど。


「とにかく! 見てよ!」

「はいはい」


 こいつと話してると昨日のイライラが少しは緩和されたような気がした。そんなこと直接言えるわけないけど。

 元の場所に戻った音琶は指の位置を調整し、弦を軽く鳴らしてから歌い出した。

 サビの部分だけだったけどこの前よりはだいぶ良くなっている、大津がどんな指導をしたのかはわからないけど、少なくともやり方に間違いはなさそうだ。

 裏声にはなってないし、所々途切れそうになったり遅れ気味な所があっても、形にはなってるから本番までに息づかいや入りのタイミングを考えてけば大丈夫だろう。

 良くなってるとはいっても最低限のことができてるだけで、まだまだ根本的な所が不安定なのは事実だけどな。


「どう?」

「前よりはいいけど、俺はそれでいいとは思えない」

「ふーん、夏音にしてはあんまり厳しい感想じゃないね」

「俺そんなに厳しいこと言ってたか?」

「うん! いつもそうだよ。まさか自分で気づいてないとか?」

「うるせえな......」


 笑顔で即答しやがったよこいつ、まあ俺が音琶に対して冷たく当たってるような気がしなくもないけど、素直に「お前といると退屈しない」だとか、「お前のこと信じてやりたい」みたいなことを思ってる以上、内面を隠しながら接するために自然ときつく当たってるのは仕方ないことなのかもしれない。


 その後も結羽歌と湯川が来るまで繰り返し、音琶のボーカル練習を見ていった。

 それにしても結羽歌はどれくらい練習進んでるのだろう、実を言うとこの前の練習では結羽歌も割と苦戦していたのだ。

 ボーカルが悪い意味で目立ってたからベースの方は忘れられがちだったけど、今の結羽歌の実力じゃ高島には到底追いつけない。

 湯川は湯川で曲は弾けてるし、技術面では問題ないけど独りよがりな演奏をしていることは明白だった。

 これに関しては予想通りだったし、性格上の問題でもあるから簡単に直せるとは思えないけど、せめてメンバーのこと位は考えて欲しいといったところだ。


 全員揃ってそれぞれ楽器の準備をする。

 経験者なら問題ないとは思うけど、結羽歌は機材の扱い方に慣れただろうか、ちょっとした不注意が大ごとに成りかねないから心配だけど......。

 でもまあ、多少の時間はかかれどアンプのつまみの調整とか、実際に音を聞いて音量上げたり下げたりはできてるわけだし、あとは素早くできれば問題ないか。

 エフェクターはまだ買ってないみたいだが、早いとこ先輩達に相談した方がいいとも思う。

 今回のライブは体育館ですることになってるけど、ライブハウスでやる機会もあるだろうから、準備が遅すぎると時間が押されて延長料金払う、なんてことにも成りかねない。

 そこは意識してほしいよな。


「ごめんね、準備終わったよ」


 結羽歌以外の3人は準備万端の状態だったから待たせたことに謝ったんだろう、練習の段階だからまだいいけど、やっぱりもう少し早くして欲しいという気持ちはあった。


「始めるぞ」


 結羽歌の合図を聞き終わったらスティックを叩いて演奏を始める。

 どんな曲でも出だしは大切なのに、いきなり遅れたのは見逃せないな。


 イントロからAメロに入るタイミングでベースが遅れたのは今回だけのことじゃない、結羽歌のベースは曲と曲の境目の部分が弱かった。それ故に全体のタイミングもズレているように聞こえるし、俺自身もタイミングを見失いそうになっている。

 音琶のボーカルはAメロ部分はあまり変わってないように思えたけど、別にそこまで悪いとは思ってなかったから今は目を瞑ってやろう、Bメロも然り問題はサビだ。


 結羽歌の表情は真剣そのものだけど、弾けてないところが自分でも分かってるらしく、そのたびに顔に出ていた。

 初心者ってミスするとすぐ顔に出すよな、それあんまり良くないと思うんだけど、気にしすぎると切り替えられなくなって、普段はできてる所までミスし兼ねないと思うし、本当はダメだけど演奏中はミスしてもいい位の気持ちで挑まないと楽にはやれないと思う。

 ミスしたら終わった後に精一杯反省して次に活かせばいいだろうし。


 そして肝心のサビ、入りが絶妙に合ってないのは今は置いといて、音琶のボーカルを注意して聞くことにした。

 ついさっきまでの歌い方が出来てれば良しとしよう、裏声にさえなってなければいいんだから今は。

 と思ったけど結局裏声になってるじゃねえか、さっきの歌い方はどうした。

 ダメだこれは。結羽歌もミスを引きずってるし、湯川は走ってるし、俺も俺で調子が悪い方に狂ってちゃんとした演奏ができてるのか分からなくなってるしで、もうズタズタだった。

 大津が哀れむような目でこっち見てるし、もう帰りたい。


 曲を一通り終わらせるまでには昨日のこともあってか精神的にも疲れが限界に近づきつつあって、思わず立ち上がって演奏を見ていた大津に意見を求めた。


「みんなそれぞれ一人だけで演奏してるよね、4人で演奏することの意味とかちゃんと考えた方がいいよ」


 大津はまず最初にそう言って、次は音琶に視線を向けた。


「音琶は、個人での練習でならできてたのに、バンド間で合わせると練習でしたことを忘れてるみたいになってたね」


 結局この後、大津は俺らが練習中であるのにも関わらず音琶にボーカルのサポートをしていた。

 どうやら、乗り越えるべき壁はまだまだ高そうだった。

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