表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第5章 only my guitar
64/572

飲み方、色々あるけど限度は大事

 5月30日


 前からライブのポスターを作るって話は聞いてたけど、それも今日突然決めることになったみたいで、予告はしていたとしてもせめてLINEでこまめに通知くらいしてほしかったかな。

 先週からPAや照明の説明会はやってたみたいだし、ライブまであと1ヶ月を切ってる状態だとこの時期から準備をするのは丁度いいことだと思う。

 でもやっぱり、何もかも大事なことを決めるタイミングが遅すぎると思った。


「誰かやりたい人いるか? 2人ほしいんだけど」


 ポスター作成は兼斗先輩が仕切ってるみたいで、隣で榴次先輩もそれに続いていた。

 ドラマーの先輩二人が並んでいるけど、同じパートの人達って先輩後輩の関係でもやっぱり仲良いんだろうな、兼斗先輩のような酔っ払いと仲良くしている榴次先輩の心意がよくわかんないけど。


「私やります」


 一番最初に言葉を発したのは高島さんだった。

 噂だとPAやりたかったけど通らなかったみたいで、今回はポスター作成の希望を出してる感じかな、PAは桂木君がすることになったけど、指導係が浩矢先輩だから色々きついこと言われてそうで少し心配だったりする。


「他にやりたい奴はいるか?」


 兼斗先輩は一度高島さんを見て、そのまま次の人の返事を待ち始めた。

 確かに高島さんは性格上問題がある人かもしれないけど、何か支えになることくらい言ってあげてもいいと思う。

 本人も不満げな表情浮かべてるし......。


「ポスターはPAと照明より楽に見えるかもしれないけど時間は一番取られるからな、そこらへんはしっかり考えとけよ」

「わかりましたじゃあ俺やります」


 兼斗先輩が忠告を出して1秒もかからない内に手を挙げたのは湯川だった。

 何でか知らないけど返事が早かった、それなら最初からやるって言っとけばいいのに......、高島さんも少し驚いている感じで、それと同時に少しだけ安堵している風にも見えた。

 彼女がそうなら別にいいんだけど、私には関係ないし。


「それじゃあ武流と琴実に任せるからな。最初の内は俺と榴次でサポートするけど、ポスターのデザインは2人の発想を優先する」


 メンバーが決まったところで全体では解散になったけど、湯川と高島さんはドラマーの先輩2人に呼ばれ、少しだけ話をしていた。


 そしてまた、飲み会が始まろうとしてるんだけど......。

 今日はこの前みたいに誰かの部屋に行って飲むなんてことはせずに、広めの居酒屋に行くとのことだった。

 結局居酒屋なんだね、大学生だから酒を飲むのは当たり前みたいに思い込んでるのかは知らないけど、別に居酒屋なんかじゃなくても楽しめる場所はあるんじゃないかな、とは思う。


「今回はパートごとに部屋分けしてます、キーボードの人は人数少ないドラムのとこに適当に入って、あとギターボーカルはボーカルとして計算するから」


 部長の人数合わせがあまりにも適当すぎて自然と呆れ顔になる私、てか私ボーカルでもあるから今はギターのグループに入ってないよね、だとしたらボーカリストが集まってるとこに行かないと。


 飲み部屋に入ると私を含めてボーカリストは8人いた。

 中には勿論、ギターもやってる人が居たし、ボーカルだけの人も居た。

 私ギター歴の方が長いんだけどね、ギターのメンバーが多いからって理由でこっちに回された感しかない、でもこっちだと湯川いないしいいや。

 よくよく考えるとボーカルのメンバーで集めるのって初めてだな、この中でまともに喋ったことあるのも大津さんだけだし。

 もしかしたらまた何か聞き出せるかもしれない、これはチャンスかも。


「音琶、あれからどう?」

「練習のこと?」


 全員がドリンクの注文を終えたタイミングで大津さんが尋ねてきた。


「うん」


 大津さん、あれからって言われても昨日のことばっかなんだからそこまで進歩はないよ......、授業の合間とかに練習したけどね。腹筋痛いけど頑張ったのも嘘じゃないよ。


「まだまだだよ、でもありがとね、気にかけてくれて」

「また今度練習に付き合ってあげる、だから今日は飲んで忘ることを奨める」

「忘れちゃダメだよ!」


 彼女は別に悪い人だとは思わないけど、ちょっと変わっててよく分からないところがあるってことは否定できなかった。

 

「あれ、もしかして音琶ってボーカルは初心者?」


 テーブルの上にドリンクが運ばれて来るのと同時に、右斜め前の席から4年生のボーカルの小沢聖奈(おざわせな)先輩が話しかけてきた。

 この人が明日のライブに出るギターボーカル、就職活動中だからあまり部会には来れてないみたいで、話したこともほとんどない。


「初心者です、今ひたすら練習してるんですけど、なかなか難しいです......」

「大丈夫だよ、私なんて1週間でできたし。だから音琶もすぐに出来るようになるよ」


 え、1週間でできたの? とても私には信じられない数字なんだけど、本当にそんな短期間でできるものなの?


「まあ他のことに時間使わないで練習しまくったからなんだけどね、始めたばっかの頃はギターばっか弾いてたなぁ......」


 どこか懐かしそうな目で語り出す聖奈先輩、この人も長年サークルにいるってこと考えると、色々きついことを乗り越えてきたんだろうな。


「いつからギターボーカルやり始めたんですか?」


 サワーを飲みつつ、私は聖奈先輩に質問をした。


「んー、大学入ってからだよ」

「そうなんですか! ボーカルに関しては私と同じだったんですね」

「音琶のギターが上手いって話は聞いてたから、実は本番結構期待してるんだよね。その前にもちょっとあるんだけどね」 

「何があるんですか?」

「あっ!!」


 右手で口元を押さえた聖奈先輩は警戒するように周りをキョロキョロ見渡し出した。

 何かまずいことでも言ったような顔をしてるけど、どうしたんだろう。


「何でもない、忘れて」


 そう言って先輩はジョッキ一杯のビールを半分くらいまで飲み干して、話題を変えてきた。


「私就活中あんまりサークルに顔出せなかったんだけどさ、なんか今年の1年面白いこいっぱいいるみたいじゃん? 何があったのか教えてよ」


 この人の今の飲み方が悪いものだったのかは知らないけど、一気にテンションが上がったように見えた。


「何って、大したことじゃないですよ」

「なんか音琶さ、琴実に勝負挑まれてるんでしょ」


 その話か......、LINEでスタ爆来たときは軽く衝撃受けたけど、何か知らないうちに先輩達の間でも噂になってるんだな......。

 先輩達だけのLINEのグループとか作られてるんだろうけど、あの人達のことだから1年生一人一人のやることなすことについて調べてそうで怖い。


「ライバル視ってやつですかね? バンド全体で勝負しろみたいなこと言われました」


 私がそう言うと、聖奈先輩が吹き出した。何がそんなに可笑しいんだろう。


「いや~、そんなことあったんだー。今年の新入生ライブは一波乱ありそうだね~」

「あの......、あんまりからかわないでほしいです、あの人私の練習ずっと見てきてちょっと困ってるんですよ......」

「それもそれで可愛いじゃない」

「いやちょっと......、わかんないです」


 話せば話すほど酒が進む聖奈先輩、結局この人も酔っ払いの一員だったのだ。


 23時を廻る頃には解散になって、この後は自由参加で二次会するみたいだったけど、私はまた結羽歌を部屋に送ることになったから帰ることにした。


 追記、軽音部がこの居酒屋に行くことは二度となかった。

 なぜなら私達と別の飲み部屋では、盛大に酔っ払った兼斗先輩がトイレに行こうとしたけど間に合わず、廊下にゲロをぶちまけた結果、清掃代を支払うことになり、以後出禁になったからである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ