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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第5章 only my guitar
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感覚、やっぱり難しい

 5月29日


 今日も私は、一昨日と同じ時間に大津さんとボーカルの練習をしていた。

 なぜか高島さんも練習を見ていた。


「ここはもっと腹筋に力を入れて、そうしないとまた裏声になるから」


 流石何年も歌ってきた大津さんだ、教え方がわかりやすいのもあってか少しは上手くなってるような手応えがある。

 その分練習メニューがきつくて疲労がたまることもしばしばだけど......。


「そうそう、あとはもうちょっと声の大きさを意識して」


 少しずつだから一気に上手くなれるとは思わないし、ギターだって長い時間をかけてここまで出来るようになった。

 ボーカルだって同じ、これから何時間もかけて練習をして本番に臨まなければならない。

 大変だけどやると決めた以上頑張らないと。

 

「うん、一昨日よりはよくなってきたかな」

「そう? ありがと」


 小一時間練習したから、床に座り込んで休憩を取ることになった。


「あとはギターを持ってるときと持ってないときでどれくらいの違いが出るか、明日また全体練習するならそこも今日中に練習しとかないと」

「間に合うかな......」

「最低でもサビ以外は安定してきているから課題はサビかな、多分AメロBメロはギター持ってても問題ないはず」

「そっか、裏声にならないようにしないとね」

「ギター持ってたら自分でどれくらい腹筋使えてるか、感覚で計らないといけないから」

「ギターでお腹抑えたらある程度はわかるかも」

「弾き方に支障が出なければ試してみるといいよ」


 大津さんのアドバイスは的確だと思うし、言う通りにやれば感覚も掴めた。

 これからボーカルでわからないことがあったら大津さんに見てもらうことにしよう。


「練習再開しよう」

「うん!」


 二人その場から立ち上がって、今度はギターを手に取ってみた。

 果たしてピンで練習したときとどこまで変わっていくのだろうか、険しい道だけど完成するまで何度でも練習しないと。


 ・・・・・・・・・


「お疲れ様、頑張ったね」


 そしてまた、警備員が来る時間まで練習が続き、再びギターボーカルの難しさに打ちのめされた。


「うーん、流石の私も不安になってきた」

「音琶なら大丈夫」


 その確信は一体どこから出てくるのか、私にはまだ練習時間が必要とされているってことを充分に感じられたっていうのに......。


「へえ、本当に大丈夫なのかしらね。今日の練習見た感じだと私たちのバンドの勝利が確実のものになったわよ!」


 この前からこの女は何なのだろう、いくらライバル視してるとは言え練習風景を何時間もかけて見学しては終わった後に勝利宣言ってどうなの?


「だから、まだわからないって」


 うるさいから黙ってもらおうと思って適当に流したけど......、


「随分と余裕なのね、私だったら危機感で夜も眠れないというのに」


 意味なかった、この人いちいち話盛ってる気がするけどそこまでして私達のこと煽って何が楽しいんだろう、理解できない。

 ギタボはまだまだだけど流石に夜は眠れるし。夜しか眠れないくらいだし。


「余裕なんてないよ? 無くても努力すればやり方によってはどうなるかわからないって言ったの。もう少し考えて人に物言ったら?」

「くっ......!」


 上手く論破できたとは思えないけど高島さんには響いたらしく、また何も言えなくなっていた。

 煽りたいだけ煽って返されたら何も言えなくなるなんて、だいぶおつむが足りてないのがわかった、あんまりいじめすぎて泣かれたらどうしよう。


「今日の所はここまでにしてあげる! でも最後に勝つのは私たちなんだから!!」

「はいはい」


 もうすぐ部屋に着こうとしたとき、高島さんなりの精一杯の論破(?)が披露された。

 やっぱり私には何も響かなかったし、精神的ダメージもゼロだった。


「あの子、一体何が言いたかったのかしら」


 隣で大津さんが呟いてきたけど、まさに私と同じ事考えてたみたいで安心した。


「さあね」


 私にも高島さんが何をしたくてあんな事言ってくるのかよくわからなかったから、ただ受け流して黙らせる位のことしか出来なかったけど、特に間違ったことはしてないはずだ。


「まあ、今日練習したこと忘れないで、明後日の練習頑張って」

「そうだね、少しでも良くなるようにするよ!」

「応援してる」


 そうして大津さんは帰って行った。

 私も早く帰んないと、その前に小腹が空いたからコンビニ行って軽い夜食でも買いに行こっと。


 駅前のコンビニに向かってる途中、突き当たりの信号で4人組の集団が群がっているのが見えた。

 それが私の知らない人達だったら、特に気にもせず通り過ぎていたけど、そこに夏音が居たから思わず見入ってしまった。

 夏音だけじゃない、結羽歌と日高君ともう一人、2週間ほど前にたまたま見かけた女の子がいる、4人とも楽しそうに話してるのが遠くからでもわかった。


 私のバンドには夏音がいて、結羽歌もいる。

 向こうの集団と同じ4人で構成されてるけど、バンド仲はそんなに良くない。

 勿論結羽歌とは仲は良いし、夏音とも、決して仲が悪いというわけではないと思いたい。

 でも、今私から見える夏音や結羽歌の表情は、バンド練習の時よりも楽しそうだった。

 思い過ごしでは無いと思う、バンド練習では何一つ夏音にとって楽しいと思える事がないはずだし、結羽歌だってずっと不安げな表情をしているんだから。

 あの二人は今居るメンバーと時間を共にする方が楽しいんだと思う、私と一緒にいるよりもずっと......。そんなことまで考え込んでしまう。


 ふと、信号が青になって夏音達がこっちに向かってきたから、慌ててその場を離れた。バレてないよね?



 結局コンビニに行く気力も無くなっていて、何も買わないまま部屋に戻っていた。

 それでもお腹はすくもので、物置にお菓子がないか探してみたけど何も無かった。疲労感の方が勝っているし、シャワー浴びたら寝よう。

 そうとなると私の行動は早いもので、明日着ける下着を用意して、脱いだ服を全て洗濯機に入れ、そのまま電源を付けずに浴室に向かった。そろそろ洗濯物が溜ってきたから早いとこ洗っとこう。

 練習後のシャワーほど気持ちいいものはない、全身に暖かいお湯が染み渡り、1日の疲れが取れていくはずなんだけど、今日は違った。

 あのままコンビニに行こうとせずに部屋に帰ってたらいつも通りだったはずなんだけど、あの情景を見てしまった以上不安になるのは仕方なかった。

 この気持ちが落ち着くまでは時間が掛かりそうだけど、辛い気持ちは上手く抑えないといけないよね。


 私は夏音が好きだ、だから夏音が私といる時より他の誰かと楽しそうにしていると胸が締め付けられるような感触に襲われた。

 こんな気持ちになるなんて、私はまだまだ子供だな......、それでも抑えられなかった、どうしたらいいんだろう、わからない。



 次の日、起きたら腹筋が筋肉痛になっていた。

 起き上がるだけで痛いけど、練習しないわけにはいかないんだけどね。

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