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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第5章 only my guitar
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初合せ、上手くいくわけがない

 5月26日


 19時、部室には4人組のバンドメンバーが揃っていた。

 それは俺が最近組んだバンドのことで、話し合った結果今日のこの時間に集まることになっていた。


 バンドの方向性について話し合って1週間以上経つけど、俺以外の3人はどれくらい練習の質を維持してきたのだろうか、一通りやったという連絡はあったが初合わせだからさほど期待はしてないがな。

 全員楽器の用意が終わったら準備完了の合図を出す。


「お前ら曲は一通り練習してきたよな?」


 始める前に一応の確認を取る。

 正直言って全体で合わせる当日にもなって練習してきませんでした、は普通有り得ない。

 それでも確認を取ったのはメンバーのことを俺自身が信じ切れてないだけなんだよな。


「大丈夫!」


 音琶が自信ありげに答え、後の2人は無言で頷いた。

 でもまあ、音琶のボーカルと結羽歌のベースがどんな感じに仕上がっているのかが気がかりなわけで、湯川は湯川でまた独りよがりなリードギターになりそうだから、まともな演奏になるとは思えない。


 今回コピーするのはRefLect(リフレクト)という4人組ガールズバンドで、結羽歌が好きなものらしい。

 デビューしてからまだあまり経ってなく、音楽番組の出演もほとんどないが、ボーカルの特徴的で力強い歌声が注目されていて、ネットではあと数年もしないうちに大きくヒットするのではないかと囁かれている。

 映画の主題歌とかCMのイメージソングとかに抜擢されたら割と有名になるとは思うけどな。

 そんなバンドの曲をこれから演奏するのだが、コピーすると決まってからにはRefLectなるバンドの曲をいくつか聴いてみたりした。

 そこで気がかりなのが、ボーカルの経験がない音琶はしっかり歌えるのだろうか、ということだ、相当な肺活量が必要になると思うけど。


 スティックで合図を出しイントロ開始、ギターの部分は難しくないしベースのフレーズも初心者に易しいからそこは大丈夫だろう。

 結羽歌が少し戸惑い気味になってたけど、初合わせということだから今回は多めに見るとしよう、むしろ問題はここからなわけで......。

 Aメロから当たり前だけどボーカルが入る、まだ音程が低い部分だから心配はいらなかった、俺の予想では相当やばいことになってると思ったけど、それは思い過ごしだったようだ。

 Bメロも同様、ベースにぎこちなさがあれどある程度形になっていて、ボーカルの声もまだ低いままだから何とか繋いでいる。


 そして問題のサビ、ここから音程が高くなる。

 この部分を裏声を使わずに歌えれば上出来だろう、期待はしてないけど。

 案の定、サビで音琶の喉が限界を感じたのか原曲通りのキーに達していなかった。

 やっぱりか、とは思ったけど、もう少し頑張って欲しいな、多分というより確実に音琶はボーカルの練習よりギターの練習の方に時間を費やしていたから、例え低い部分は歌えてもサビで崩れていた。

 こんな状態だとこっちも調子が狂うわけで、2番目のAメロから既に音琶のボーカルはついていけなくなっていた。

 2サビやラスサビはもうほとんど裏声でしかなくなっていて、聴くのも叩くのも心苦しくなっていた。


 取りあえず一通り演奏をしたところで音琶が申し訳なさそうに言った。


「ごめん、ギターはできたけどボーカル出来てなかったね......」


 確かに音琶のギターの技術は凄いものだし、その音色を聴くと一気に引き込まれる感覚に陥る。

 でも、ボーカルもすることになったからにはそれらを上手く融合させないと意味が無い、複数のことに取り組む時に何か一つが欠けていては完成させたとは言えないのだ。


「音琶ちゃん......」

「ほら言っただろ、やっぱり俺がボーカルやった方が良かったって」


 湯川も湯川で相変わらずだよな。

 でもな、音琶が自分からボーカルをやると言った以上、今は形にできてなくても奴を信じることくらいは出来るはずだ。

 それをたった1回合わせただけで決めつけるのはあまり良いことだとは思えない、何だかんだで一通り合わせることは出来たわけだし、キーは合ってなくとも歌詞は一つも間違ってなかった。


「ごめん......」

「これ本番まで間に合うの? 今からなら曲とかもう一度話し合って構成変えるのもできるんじゃない?」


 お前はそこまでしてボーカルがやりたいのかよ、本当にこいつは自分のことしか考えてないんだな。

 バンドってのは自分一人で成り立ってる物じゃないことくらい言われなくても分かるはずなんだけどな。


「待って! もう一度合わせてほしいな......」

「どうせもう一回やってもさっきと同じだと思うけど」

「それでも!」

「まあいいや、それじゃ夏音合図お願い」


 湯川に指図されるのは癪に障ったが、音琶のことも心配だったからもう一度合わせることにした。


 ・・・・・・・・・


「夏音、ごめん。練習のやり方良くなかったかも......」


 練習が終わった後、落ち込み気味の音琶が心配になったので部屋に入れることにした。

 今回は音琶が自分から行きたいと言ってきたわけではなくて、俺が声を掛けた結果である。


「そうだな、お前はギターよりもボーカルの方に時間を使うべきだったな」


 本当は慰めてやりたかったけど、敢えて厳しい言葉を掛けておかないと音琶も気持ちが落ち着かないだろうな。


「てか音琶は今日までどんな練習してきたんだよ」

「えっと、まずは歌詞を覚えて、それから発声練習も兼ねて曲聞きながら練習したよ」

「ちゃんとギターは持って練習したか?」

「ううん、持ってない」


 それ1番重要な部分だと思うんだがな、普通ならギター弾きながら歌って練習するだろ、いくら初めての試みだからといってギターの演奏とボーカルをそれぞれ分けて練習したところで上手くやれるわけがない。


「お前もっと練習の仕方考えてやれよ」

「そう、だね......」

「てか最初からやるとか言っときながら本当は自信がないだけなんじゃねえの?」

「自信はないよ、でもギターが上手くできれば大丈夫かなって、思っただけ」

「それなら、その考えは今この瞬間に捨てるべきだな。確かに音琶のギターは才能に満ち溢れてるけど、ボーカルがしっかりできてなければ宝の持ち腐れだ。次の練習までには今日みたいなことにならないように仕上げてくるんだな」 

「うん、頑張る」


 本当に頑張ってくれるよな、音琶のことだから言われたことはしっかりやってくれると思うけどさ。


「まあ、今日の練習でお前のボーカルには何の期待もしてなかったんだけどな」


 ここで本心を音琶にぶちまけることにした。

 曲を決めて個人で練習したところで元々やったことのない役職をすることになって、1ヶ月も経たない内にまともに出来るようになるのは余程の才能が無い限り無理だ。

 音琶のボーカルは結羽歌のベースとは似て非なるものなのかもしれない。


「期待してなかったってひどくない!?」

「おおやっといつもの音琶に戻った、やっぱりこうでないとな」

「何? まさかわざと言ったの!? それもそれでひどいよ!? 二重にひどいよ!?」


 さっきまで落ち込んでた音琶の調子も少しは戻ってきたみたいで安心した。

 大体失敗なんて誰にでもあるんだよ、何もかも完璧を求めたところで成功するとは思えないしな。


「まあとにかく、今度の練習の時までには今日より歌えるようになってくれればそれでいい」


 次の練習日が5月31日の土曜日で、あと5日もあるから練習のやり方次第では今日よりは良くなっているかもしれない。

 今度は音琶に期待することにしようか。

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