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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第5章 only my guitar
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買物、勿論こいつと

 ***

 

 特に理由もないのに音琶に呼ばれ、街をうろつくことになった。

 どいつもこいつも前もって連絡入れるくらいの簡単なこともできないのかよ、別に今日は暇だったし午前中にドラムの練習は済ませてたし、この後の用といったら夜勤くらいだから良かったんだけどさ。


「結局ここかよ」


 暫く目的地がなくとも歩き回って、音琶の行く先を着いていくと例の楽器屋に辿り着いた。


「だってここしか思い浮かばなかったんだもん」


 拗ねた子供のように唇を尖らせて返す音琶、こういった仕草も可愛らしかったりするんだけど、見つめすぎると怪しまれそうだからわざと目を逸らす。

 どういう意図があってか知らねえけどやたらと胸が強調された服着てるしさ。


「まあ俺もどこか出かけるって言ったらここしかないかもな」


 それだけ言って店の中に入っていき、後ろから音琶も続く。


「お前が見たいのは新しいギターか?」

「私新しいギター買ってからまだあんまり経ってないよ」

「何で新しいの買ったんだっけ?」

「なっ!!」


 わざと知らない振りをしたけど、どんな反応してくるんだろうな、からかうつもりで言ったけど流石にまずかったか。


「い、言ったでしょ!? 忘れたの!?」

「さあ、どうだったかな」

「何回も言わせないでよ! 恥ずかしいから......」

「あー、恥ずかしいって自覚あったんだ」

「......ってことは本当は覚えてるんでしょ!? バカ!!」


 顔を真っ赤にして涙目で訴えかけられたから、申し訳ないこと言ったかななんて気持ちは失せていた。

 むしろこの反応こそが音琶らしくて新鮮だ。


「ああ知ってたよ、そんなこともあって俺は今こうしてドラム続けてんだからな」

「もう......、そういうところなんだから......」

「そういうところって何だよ」

「何でもない!!」


 その言葉の意味が俺にはわからなかったけど、今日の音琶は初めて会ったときの音琶とあまり変わりなくて安心した。

 また思い詰められてはこっちも悪い意味で調子が狂う。


「何か買う予定は無いのかよ」

「特にないけど、ここにいたら落ち着くし、もし何か良さそうなのがあったら買おうとは思ってる」

「見つかるといいな」

「うん......」


 一瞬取り乱したみたいだけど落ち着いたようだ、音琶はギターが並んでいる場所に行ってしまったから、俺はドラムの機材が置いてある所にでも行くとするか。


 何気に部室での練習量は多い方だと思ってるから、スティックの消耗も激しかった。

 金の都合でギリギリまで粘ろうとはしていたけど、ボロボロになってしまってはタムのヘッドの消耗まで早くなってしまうし、破れたらまた部費がどうので面倒なことになるだろう。

 折れてなくても替え時くらいは自分で感じて新しいスティックを用意なくてはならないから、実のところ音琶に誘われたのはタイミングが良かったんだよな。


 スティックにも様々な種類があるけど、俺がいつも使ってるスティックの材質はヒッコリーだったからそれを探す。

 スティックが置いてある棚の方に目をやると、ヒッコリー材質のスティックの所に''初心者オススメ!''と書かれたポップが貼られていた。

 確かにヒッコリーは初心者にオススメなのかもしれないけど、初心者から経験者にグレードアップしたところで自分のスティックの材質を変えようとは思わない。

 だから初めてスティックを買ったときからずっと同じものを使い続けていた。


 2セット取り出し、レジに持って行く。

 1600円、比較的安めだと思う、通販サイトで買うと2000円は軽く超えるから貧乏人は直接店に行って買った方がいいと数字で思い知らされる。

 新しいスティックを袋に詰めてもらい、他に買う物はないから音琶の元へ向かう。

 どうせあいつのことだから、特に買う物はないとか言っときながら様々な種類のギターに釘付けになっていて、その場から一歩も離れられてない姿が想像できる。


 並べられているギターの場所に向かい、音琶を探す。

 やっぱり思った通りだった、新しいギターを買ったばかりとは言え色も形も十人十色なギターに釘付けになってそこらへんをうろうろしている。


「音琶」

「!!」

「俺はもう終わったけど、結局何か買うのか?」

「まだわかんない」


 わかんないって......、音琶としてはギターを見るだけで満足なのかもしれないけど、ギターに使うアンプとかシールドとか、エフェクターだってここにはあるんだからそっちにも目を向けてもいいのでは。


「まあいいや、まだ時間あるんだし飽きるまで付き合ってやるよ」

「本当? ありがと」

「まだギターは買わないことを奨めるけどな」

「わかってる、でもギター見てると落ち着くんだ」

「へえ、お前らしいな」

「そう......、かな」


 少し頬を赤らめながら音琶は返し、再びギターに視線を向ける。

 そう言えばこいつ、鳴香とはどうなったんだろうか、昨日の飲み会では同じ場所で飲むことになってたはずだから何かしら話し込んだとは思うけど、大丈夫だったのか? 

 本来なら他人の人間関係なんて俺には関係なくてどうでも良かったことだったのに、どうして音琶のことになると放っておけなくなるんだろうな。

 まだ出会って2ヶ月しか経ってないのに、その短い期間で充分と言っていいほど一緒にいる時間があったからなのだろうか、それとも俺のことを必要としてくれてるからなのだろうか。

 色々自分の中で仮説を立ててるけど、絶対と言えるような解答は見つけられてなかった。

 それから数十分経って、


「夏音、お腹すいたから夜ご飯食べに行こうよ!」


 満足したのか、音琶はギターを見るのをやめて俺の元に戻ってきた。

 夜ご飯って言ってもまだ16時半なんだが、少し早い気がする。


「......そうだな」


 まあいいか、また外食で金が飛ぶけど、6月になったら給料入るしアンプの弁償代を払うことになっても余りは出るし、仕送りだけの生活よりはある程度楽になるだろう。


「それじゃ行こっか!」


 食べることになると音琶はやたら元気になるけどそっちの方がやりやすかったし、無理矢理な気もしなかったけど退屈という概念を忘れさせてくれて有難いという気持ちのほうが強かった。

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