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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第37章
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引張、貫くべき使命

 2曲目が終わった後、演者は下がった素振りを見せ、アンコールに備える予定となっている。

 元々3曲用意はしているが、最後の曲こそが見せ場だから、アンコールに相応しいとメンバーで考えた。

 問題は、2曲目終了後に観客がアンコールを促してくれるかどうかだ。


「そしたら~、次が最後の曲だよー!」


 立川がMCで見せ場を作り、観客の反応を楽しもうとしていた。だが、正面からは理想通りの結果が返ってきたようで、『次で最後』という事実を嘆いているかのような声が響き渡っていた。

 まさか自分の演奏が関わっているバンドで、最後を惜しむ声を聞けるとは思ってなかったから、喜びの感情が沸き上がりつつあった。


 まあ、いずれライブハウスでの企画に参加することになったら、最低でも5曲は仕上げておきたい所だが、今回はサークルだけでのライブだし、ましてや新入生メインだから、3曲で収めておくのが無難だろう。

 初心者だっているわけだし、ましてや初心者混みで3曲は優秀な方だろう。


 ......そんな考え事は余所目に、最後の曲(仮)は始まる。

 さっきの曲と同じように、俺が合図を出してスタートを切る。そこから始まるサウンドは、アルバムの中で後半に収録されてそうな程儚げなもので、音琶のエフェクターの使いこなしが充分に表現されていた。


 そのギターに合わせて俺もドラムを叩いているわけだが、さっきの激しさとはまた違った、優しさの中に含まれる力強さがそこにはあった。


 遅めのBPMだからそう感じるのかもしれないが、それでも音琶は天才と言って良いほどの演奏を披露していた。

 曲の雰囲気が全然違うというのに、どんなサウンドの縛りにも囚われない、自分自身の演奏を手にしながら弦を弾くことが出来ている。

 本来なら俺がメンバーを引っ張っていかなければならないはずだというのに、今は俺が音琶に引っ張られているような、そんな感覚が全身に染み渡っていた。

 音琶の可能性がどこまでも広がっていくような、そんな演奏を目の前にしてしまっては、遠くない将来に音琶を失うことが怖くて仕方が無い。

 運命には抗えないことは重々承知だが、最高のバンドの探し方なんて、今回に限った話ではないのではないか、そう思ってしまう。


 俺は、本当に音琶にとって相応しい演奏が出来ているのだろうか。

 俺ばかりが魅了されていて、音琶自身は俺の演奏を好意的な目で見ているのだろうか。


 演奏中に感じる疑問が、またしても俺の集中力を削ぎつつあった。

 悪い癖は、そう簡単には抜けないのだろうか。でも、音琶が信じてくれている以上、その期待には絶対に応えたい。

 迷っている余裕なんてどこにもないのだから、いち早く自分の演奏に......、


「......!?」


 ふと目線を上に上げたら、そこには音琶が目の前でギターを掻き鳴らしていた。観客側からしたら正反対の方向、つまり俺に視線を向けながら、器用な手捌きで俺に視線を送っていた。


「......」


 演奏中だから、声で通じ合うことは出来ない。だが、音琶の表情は、まるで俺に何かを訴えかけるかのように真剣だった。

 笑っているわけでも、怒っているわけでもない。ただ、何かを察したかのように視線を合わせ続け、俺の演奏に向けての合図を出しているように感じられた。


 ああそうだよな、お前はいつだって俺のドラムを気に掛けてくれたよな。

 こういう場面でも、ちょっとした不安要素が見つかれば、すぐに指摘して正しさを追求してくれていた。


 言葉で伝えられなくても、音琶が求めていたことはアイコンタクトで通じ合えるはずだ。

 今音琶が俺に求めていることが何なのか、さっきまでの自分の行動を顧みればわかるはずだ。


 例え誰がどんな演奏をしようとも、俺は俺の演奏を貫いて、メンバーを引っ張って行くこと。

 それが、俺の今の使命だ。

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