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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第37章
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高揚感、響き渡るサウンド

 静寂と暗闇は、ライブ開幕の合図。

 気持ちが整ったらまずはスティックを鳴らし、次に音琶のリードを響かせる。爽快な音が鳴り響いたら、日高のバッキングと結羽歌の低音が1つの曲を形成し、8小節目が終わったら立川の歌声が場内を包み込む。

 そんな最初の曲、初心者向けではあるが、日高の実力を考慮すれば仕方の無いことだ。


 だが、難しい曲じゃなくても、見せ場を活かせばライブを盛り上げることは出来る。

 何も馬鹿正直に原曲通りの演奏をしなくたっていいのだから。それこそ、バッキングさえ難しい曲を簡約化して演奏したって構わない。

 1つの曲を通して、ライブが成立するのであれば、臆することなど何もない。なぜなら、これは俺達のライブであって、カバー元をリスペクトするためのライブではないのだから。


 そんな矢先、さっきよりも力強く、且つ軽快なサウンドが場内に響き渡った。


「こっから行っくよー!」


 まだ1サビが終わったばかりだというのに、僅かな間で大きなアレンジを加えてギターを掻き鳴らす音琶の後ろ姿がそこにはあった。

 コーラスもあるからマイクがONになっていたとは言え、ボーカルでもない奴が間奏を使って叫ぶだなんてな。

 インスタで宣伝した効果もあってか、音琶の掛け声と共に観客側からも歓声が聞こえてきた。音琶の奴、可愛いからってSNSでファンを増やすだなんてな。ここに居る客共は、曲ではなく音琶目当てで来たのでは? 音琶のファンなんて俺一人で充分だってのに。

 まあ、これも客集めの一貫だから、大目に見てやるとして......、曲はまだまだ続くから、油断しないように自分の演奏を押し出していかないとだな......。


 1サビが終わった後のAメロは、最初のAメロよりも演奏が静かになる傾向が強い。リードギターの出番はまず無いし、バッキングも無い場合がほとんどだったりする。

 勿論、先程良いだけ盛り上げた音琶も、今回は静かになっている。一方の日高は......。


「......」


 8ビートを刻みながら、俺は日高の方を見てしまった。やや呆れ顔になりながら。

 あいつ、1番と同じフレーズ弾いてやがんな。2番目は一切弾かなくていいんだぞこの曲は。結羽歌も指を動かしながら日高にアイコンタクトを送っているが、気づく様子もない。

 これは集中しすぎて自分が間違っていることにも気づいていない感じだな。まあ、ここで間違いに気づいて演奏を止められるくらいなら、Bメロに入るまで今の音を続けてもらえればどうにかなるだろう。

 俺だって演奏中に譜面を間違えたことくらいある。ここで大事なのは、間違えても決して演奏を止めないことだ。

 確かにバッキングなら演奏が止まっても、ベースが続いてくれているから、曲全体が止まることはまずない。だが、ドラムの場合だと全てが止まり、曲は中断されてしまうだろう。

 この場合、咄嗟に思いついたフレーズを身体全体に染みこませ、どうにかして首の皮を繋げていくのが妥当だ。コンマ何秒もない世界だが、それくらいの技量を持っていないとバンドなんてやってられない。


「......大丈夫そうか」


 結局日高は自分のミスに気づくことなくBメロに突入し、元から構成していた通りの演奏に切り替わった。

 それでいい、ミスに気づいている客もいるかもしれないが、ライブの楽しみ方なんて一人一人の勝手だ。ミスした所で強制的に終わらされるわけでもないのだし、あとは自分とメンバーのペースを上手く合わせて、盛大に弾けてしまえばいいのだから。


「よし......!」


 続いて2サビに突入した。1つの曲のラストスパートまで、気力を貯める大事な場面でもある。2サビ直後にはギターソロだってあるわけだし、音琶の見せ場がどれほど活かされるかが鍵にもなる。

 想像するだけで気持ちが高ぶってどうにかなってしまいそうだ。だが、この高揚感は実に心地が良い。


「......」


 ただタムとシンバルを叩くのではない。周りの音を聴いて、周りの雰囲気を感じ取って、ライブと自分の空気を一体化させる。

 ソレが出来れば、本心でライブを楽しめてると捉えてもいいだろう。


 俺が今まで見失っていた感情は、考えたって見つかるものではない。

 自分の気持ちと向き合って、それを形にすること。

 それが何よりも大切なことだったのだ。

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