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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第5章 only my guitar
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聞取、繋がる会話

 まだ酔いは廻ってない、兼斗先輩は相変わらずでもうコップ5杯以上は飲んでると思うけど。


 この場に居る全員が飲んでいた、何度かしたことのある飲み会で誰がどこまで飲めるのか分かってきた自分が恐ろしい。

 私も飲めることには飲めるけど、兼斗先輩みたいな飲み方をしたら間違いなく潰れるし、この前のドラマーの飲み会に飛び入りで参加したとき、兼斗先輩のノリに流されてしまったから今回はそうならないように気をつけないと。

 それはさておき......、


「それじゃあ榴次先輩は初心者で入ったんですね」

「そうだよ」

「練習どれくらいの頻度でしてました?」

「空いてる時間とかあればほとんど毎日部室に行ってたかな」


 さっきから鳴香は榴次先輩と会話を弾ませていて、私はすっかり話しかけるタイミングを失ってしまった。

 飲み会中に謝るつもりはないけど、せめて何か話題を振らないと気まずいままだ、お酒飲めば酔った勢いで誰にでも何の迷いもなく話しかけられるかもしれないけど、それだと気分悪くなりそうだし何かに頼るよりは自分でどうにかしないといけない。


「なあ音琶、お前さっきから元気ないけどどうした」


 迷いながらチューハイの缶を口につけてると、酔って顔の赤くなった兼斗先輩が絡んできた。

 確かにさっきから全然喋れてないけど、鳴香の前で元気ないとか言われるのは余計気まずくなるだけだと思うから、何か話題を振っておかないと。

 どうしよう、そもそも私が思う兼斗先輩の印象ってとにかく飲む人で酒癖が悪い、なんだけど、こういう時はお酒の話をしたらいいのかな。

 ううん、何か違う気がする、だとしたらドラムの話したらいいのかな? お酒の話よりはずっとマシな内容だけど。


「あの、兼斗先輩って対バンってしたことあるんですか?」


 思いつきで言ったことだけど、大丈夫かな。

 対バンに関しては私もいつかはしてみたい、勿論夏音と。


「あるけど、どうしたんだよ。そんなに誰かと対バンしたいのか?」

「いえ、ちょっと気になって......」

「そうか......、去年3回くらいだったかな、秋にサークルでライブハウス借りてライブしたとき、何か受けがよかったみたいで声掛けられたな」

「そのバンドって今もやってるんですか?」

「やってるぞ、てか今日部会で部長が言ってた来週のライブまさにそれだし」


 兼斗先輩がただの酔っ払いじゃないってことはわかったけど、ライブハウスから声を掛けられるっていうのはそれなりに認められないと出来ないことだ。

 私がバイトしていた時に見たバンドは全部そう捉えてもおかしくないものだった、声を掛けられなくても希望を取れば出演の許可が降りる場合もあるけど。

 兼斗先輩がコップ一杯の焼酎(ストレート)を飲み干した後続けて言った。


「バンドの方は新歓のとき、ギタボの人が就活中だったから出れなかったけど、多分このサークル内で一番活動してる」


 新歓に出てたバンドはどれもいいとは思えなかったから、一番活動している兼斗先輩のバンドがあの時出てなかったってのは納得がいった。

 就活中だったってことは、ギタボの奴は4年生以上だろうけど、他のメンバーは誰なんだろう。


「確か兼斗先輩は3年生でしたよね?」

「サークルは4年目な、あとは自分で考えろ」

「うちのサークル多くないですか? 学年とサークルの年数同じじゃない人」

「3年生以上は一人しかストレートじゃないぞ」

「ってことは......」

「あいつとは同じ年に入ったのに学年は抜かされたよ」


 3年生以上は全部で5人、つまりその中の4人が留年しているんだ......。

 部長と、兼斗先輩と、浩矢先輩と、あともう1人ってことだよね。


「でもサークル楽しいからそれはそれで悪くねえや、就職したらバンド活動なんてそう簡単にできなくなるし」


 そう言ってもう一杯飲み干す兼斗先輩。

 酔った勢いで何でも喋ってるけど、サークル楽しいから留年してもいいって......、これってつまりは感覚が麻痺してるってことだよね、勉強ができないんじゃなくてただやってないだけだとは思うけど、こんな名門大学に入学したんだからGPAが低くても最低限単位くらいちゃんと取ろうよ......。


「なんか、凄いですね......」


 色んな意味で凄いからそれしか言えてないけど、仕方ないと思う。

 私とは住んでる世界が違うっていうのかなこういう時は、そして一つのことに気づく。

 今3年生で留年していて、実質この大学にいるのは四年目、つまり兼斗先輩や部長があの人のことを知ってるのは確実だし、あの時何が起きたのかを知っているかもしれない。

 部長が留年しているって話を聞いたときは部長から聞き出そうと思ってたけど、手段が思い浮かばなかった。

 でも兼斗先輩が留年しているってわかった以上、これはチャンスだよね。酔っているからもしかしたら話してくれるかもしれない。

 鳴香と榴次先輩は相変わらず話し込んでるし、多分こっちの話なんて聞いてないはず。


「そういえば兼斗先輩、1年のとき......」


 思い切って言い出そうとしたとき、インターホンが鳴った。


「ああ!? 誰だよこんな時間に」


 私の努力......。

 勇気を振り絞ったからか一気に力が抜けていく、兼斗先輩が怒り気味にドアの方までややふらつきながら歩いて行く。

 ドアを開けた瞬間、

 

「上がらせてもらうぞー!!!」

 

 威勢のいい叫び声と共に部長を含めた一行が上がり込んできた。


 ・・・・・・・・・


 もうすぐ太陽が昇ってしまう。

 真っ暗だった外は一日の始まりを告げようとばかりどんどん明るくなっている。

 なんだかんだでみんな酔い、変なゲームが始まり、負けた人は飲み、そして潰れていく、私は運良く勝ち続けたから潰れなかったけど、どんどんみんなの絡みが鬱陶しくなっていくのはバイトしていた時とあんまり変わんないかな。

 部屋の周りには酔いつぶれて寝ている人もいればスマホを触りながら眠気を必死に抑えようとしている人もいる。

 というか起きてるのは私と鳴香だけなんだけど。


「ねえ鳴香」


 自然な感じで思いきって鳴香に話しかけてみる。

 鳴香も運良く勝ち続けてたから潰れずにいられたけど、体内にアルコールが巡っているという事実は変わらない。


「何?」


 スマホから私の眼に視線を移し、返事をする鳴香。


「あの時は、ごめん」

「......」


 鳴香としては突然だったかもしれないけど、私は今この瞬間まで謝ることに必死だった。


「別に、もういいわよ」


 間を置いて鳴香が呟いた。

 これが紛れもない本心だってことはわかったけど、どこか後ろめたいように感じられてる気がした。


「私がまだまだだってことはわかってる。音琶の足下にも及ばないってこともわかってる。音琶が私の演奏に不満があるのは最初からわかってた。でもね」

「......」


 一呼吸置いて、鳴香が自分の思ってることを吐き出した。

 

「満足のできる演奏っていうのは、自分自身で決めるものだと思ったんだ」


 誰かに言われるよりも、自分で自分のことを決める。

 鳴香にはそんな想いがあって今に至っている、そうやって私は誰かの音楽に対する考え方を聞いては自分と比べてしまう。


「本番で鳴香がどんな風にギター弾くのか、楽しみだな......」


 私には、それくらいの言葉でしか誰かをフォローできない。

 それでも、鳴香に嫌われたくないって想いは間違いなくあった。


「期待される程の演奏ができるとは思えないけど、やるだけのことはやるつもり」


 鳴香は再びスマホに視線を移してしまった。

 これでよかったのかな、願わくばあんなことを言ってしまう前に戻りたい。


 でも、鳴香が一生懸命なのは痛いほどに伝わっていた。

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