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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第37章
569/572

万端、忘れられないライブへ

 ***


 琴実と響先輩の出番が終わった。

 もう準備の時間になっている。早くしないと時間が押してしまう。

 響先輩の歌声に圧倒されそうになったが、自分の演奏中は響先輩のことを綺麗さっぱり忘れないといけないとなると、圧が強すぎるようにも感じられる。

 だが、響先輩は響先輩、俺は俺だ。誰かの演奏を気にして自分の演奏を中途半端にすることは出来るわけがない。


「夏音、早く行くよ」

「......ああ」


 少女と奏でてきた時間も音楽も、終わりの寸前を迎え始めているのかもしれない。残酷にも迫り来る時間は、2人のアコギ演奏の終了と共に訪れる。

 今日を迎える前から覚悟は決めていたし、逃れられない運命を変えることは出来ない、ということも知っていた。

 少女は先にステージへと向かってしまった。自身の終焉すら感じさせず、ただライブそのものを追いかけるかのように、だ。


「行くか」


 小さく呟き、必要最低限の機材を揃えたら俺もステージへと向かった。

 前のバンドにドラマーが居なかったお陰で、割と準備にかかる手間は少ない。音琶や日高、結羽歌は響先輩や琴実と共に音量調整をしている所だが、奴らが苦戦している間にも俺のチューニングは終了してしまった。


「ちょっと結羽歌、あんまり上げすぎるとハウるわよ?」

「そ、そうだけど......。琴実ちゃんの時、ベースの音小さめだったから......」

「だとしても今のはでかすぎよ」

「うぅ......」


 好敵手同士......いや、お友達同士仲がよろしいことで。俺らの出番では琴実が写真や動画とやらを撮ってくれるみたいだけど、あいつのことだがら他のメンバーそっちのけで結羽歌ばかり撮ってそうだな。


「あ、丁度良くなったわね! 夏音ー! あんたから聴いて結羽歌のベースどう?」

「どうも何も、リハの時と音違うのか? あとはPAに託したらどうだ?」

「そうなんだけど、私の時とで音量全然違うから、結羽歌ちょっと戸惑ってるみたいなのよ」

「いや、突然音量変えろって言われても無理だからな」


 全く、直前にもなって手間かかせやがって......。リハの時に合わせた音で充分だと思ってるし、どのパートも満遍なく聞こえてるから何の問題もないっての。


「ハウらなければいいはずだ。響先輩にも音量のこと言ってるから、心配するな」

「わかったわよ」


 PA担当である俺と音琶が演奏する時は、響先輩に代役を任せている。予めリハ前に理想となる音量を響先輩と話していたから、多少のズレはあってもずらすツマミは僅かな差だろう。

 もう音琶と日高、そして立川は準備万端らしい。あとはベースだけだぞ。


「あ、琴実ちゃん、良い感じになったよ」

「本当? 大丈夫ならいいんだけど......」

「うん、この音なら、琴実ちゃんと向き合えそう」

「......」


 やや神妙な顔つきになりながらも、琴実は納得したようで観客側へと下がっていった。


「全員準備は出来てるか?」


 俺の問いかけに、4人がほぼ同時に頷く。


「......行くか」


 右手を上げ、PAに演奏開始の合図を促す。

 次の瞬間、BGMの音量がゼロに近づき、照明もどんどん暗くなっていく。


 俺にとって忘れられないライブが今、幕を開けた。

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