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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第37章
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心底、音楽への気持ち

 アコギの音が始まる。

 BPMは遅く、そこまで重くはならない弦の音が響き渡る。

 だけどどこか力強さが感じられて、音が薄くなることはない。


 バラード調の曲だというのに、音の強弱がしっかりしていて、付いていかなければならない私もペースの確保が求められる。


「......よし」


 息を入れるタイミングを見計らって、私もフレーズ一つ一つを意識しながらベースを奏でていく。


 原曲はイントロ部分はギターとシンセ......というよりはピアノの音に近いわね。この2つの音が混ざり合って出来ているから、どちらの音も殺さないように弾く必要がある。

 そんな難問を、響先輩は意図も容易く打ち砕いている、1本のアコギで。


「......」


 練習の時は、響先輩の演奏技術に感銘を受けて、自分のベースを見失いそうになる場面もあった。そんな私に響先輩はこう言った。


『誰の演奏であっても共に組んでいる以上、音を合わせることに集中しなよ』


 言われなくても分かることだった。でも、私はそれが出来ていなかった。

 常に周りの目や行動に気を取られて、自分本来の見せ場を作れていなかった。


 そんな私の欠点を響先輩は一瞬で見抜き、私が出来ていないことを次々とあぶり出していった。


『琴実はまず、自分自身を信じること。言葉じゃなくて、信念でね』


『どんなに魅力的な演奏を目の当たりにしても、演者と観客で同じ捉え方をしちゃダメだよ』


『演奏中は、好敵手のことを忘れるんだ。そうしないと、いつまで経っても相手には勝てないよ』


 結羽歌と私、どっちのベースの方がバンドメンバーとして相応しいか。

 音同に入って間もない頃、音琶達のバンドメンバーを決める時もそうだった。

 自分では上手くやれたつもり。多分、結羽歌にとっては魅力的だったのかもしれない。でも、他の奴らから見たら、勝負事のために用意されただけの自分勝手な演奏......に見えたに違いない。


 あの時の私は、結羽歌に魅せるための演奏を極めていただけだったのだから。


 だけど、今は違う。

 響先輩から教わったことも大事だし、まずは何より、私がどれだけライブと向き合えているかが重要だったのよ。


 私の相手は誰? 結羽歌? それとも響先輩?


 いや違うわよ。

 私の相手は、今ここにいる全ての人達と、自分自身よ。


 合わせる、合わせていく。

 アコギとベースで合わせて、共に口ずさむようにボーカルの声を頭の中に入れていく。


 5分弱の曲だけど、ラスサビで大きく盛り上がるとか、大きな転調が入って曲の雰囲気が変わる、なんてことは起こらない。

 ただ真っ直ぐに、奏でるべき音を見つめながら、2人で息を整えて弦を弾く。2人だけの世界をこの場の奴ら全員に見せつけて、虜にする。

 思わず歌ってしまいそうになるくらい心地が良い。決して明るい曲ではないのに、切なげなメロディが私の身体の中へと浸透しては止まらない。


 どこまでも続けば良い、音楽の旅路は終わらなくて良い。ずっとこのまま、このままずっとベースを弾き続けていきたい。


 私も、心の底から音楽を楽しむことが、出来るようになっていたのね......。


 ・・・・・・・・・


「......ありがとうございました」


 最後に響先輩が小さく、マイクに顔を近づけながらそう言った。

 直後に沸き上がる拍手。さっきより人が増えたから、拍手の音は想像以上に大きく聞こえた。


 次はついに大トリのお出ましってことになるけど、あいつら私の演奏に魅了されて気を失ってたりしないでしょうね? 拍手の勢いが演奏の技術の高さを物語っていると言ってもいいくらいだけれど!


「琴実ちゃん......、お疲れ様」


 真っ先に私の元にやってきたのは結羽歌だった。ベースからシールドを抜いて、床に並べられたエフェクターを片付けていたら、結羽歌も自分の機材を持ちながら準備を始めようとしていた。


「楽しかったわよ。久しぶりのライブ」


 今の結羽歌には『お疲れ様』という言葉は似合わない。だから、私はライブの感想を伝えていた。


「うん。だって琴実ちゃん、楽しそうにベース弾いていたから......」

「......そう。私はただ真剣に弾いていただけなのだけれどね」

「......知ってる。あんなに真剣で楽しそうな琴実ちゃん、初めて見たもん......」

「......」


 結羽歌から見た私は、そんな感じだったのね......。

 思わず頬が緩みそうになるけど、必死に我慢して結羽歌に返す。


「あんたもそれくらいの演奏、してくれるんでしょ?」


 嬉しい気持ちは打ち上げの時間まで我慢すると決めた。これもある意味宣戦布告の1つなのかもしれないから、結羽歌も私と同じ気持ちでライブに臨んで欲しいわね。


「......勿論だよ! 琴実ちゃん以上の演奏、してくるからね」


 闘志に燃える結羽歌の眼は、見るだけで汗が噴き出そうになるくらい滾るモノがあった。

 こんな凄い奴に挑んでいる私は、高望みしすぎているのかもしれないわね。


 でも、こんな凄い奴だからこそ、負けたくないのよ。


「やれるもんならやってみなさい」


 届くか届かないかを考えるより、届くために何をするべきかを考える。

 今回の私はそれが出来ていた。


 結羽歌の演奏、果たしてどこまで行けるようになったのかしらね。

 ハケ終えた私は観客側の席に移動しながら、そんなことを考えていた。

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