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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第37章
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弱者、強者によって変えられる

「琴実ちゃん、元気無い......?」

「えっ......?」


 私のリハが終わって、今は響先輩達4年生組のリハの時間になっていた。今も夏音はPAを、音琶は照明をしている。

 一応、私は宣伝係としてSNSを駆使しながらサークルの活動を世に拡げてはいたけれど......、正直あの2人を見ていたら私のやっていることなんて、他の誰にだって出来ることで......、


 それに、リハが終わった時の響先輩の言葉が気になって仕方無かった。


 今回のライブが終わったら、もう二度と組むことはないってことなの......?

 別に疚しい気持ちなんてないわよ。でも、折角勇気を出して組んで欲しいって言って、練習だって一生懸命やった。自分の言葉に恥じないくらい努力もした。負けたくない相手と向き合うためにも、精一杯弦を弾き続けた......。

 なのに、たった1回のライブで全てが終わってしまうの......? そんなの、あまりにも残酷じゃない......。


「もしかして、先輩達の演奏が凄くて、腰抜かしちゃった......?」

「な、何言ってるのよ!? 私がその程度のことで怯むわけないじゃない!」

「......」


 浮かない表情をしていた私を心配したのか、結羽歌が優しい声で話しかけてくれた。あんただって余裕ないはずなのに、私のこと心配するだなんて......。1人の友人としてもっともっと大事にしていかないと、その前に私が壊れちゃう......。


「ホントに大丈夫?」

「う......」


 たまに見せる、結羽歌の真面目な表情。普段の内気な結羽歌からは想像もつかないほどの、真っ直ぐで鋭い眼。それを見てしまっては、私はもう誤魔化せない。

 今までとは違う音楽の舞台に怯むのは、この場に居る奴ら全員に当てはまることかもしれない。だけど、たった2人だけのバンドに起こりかねない未来を危惧しているのは、この場で私だけ。

 明らかに他のバンドとは構成も曲も違うんだし、些細な出来事も見抜かれやすいってことね。


「大丈夫じゃないみたいだから、ちょっと外の空気吸いにいこう......?」

「う、うん......」


 あまり結羽歌の前で弱った姿は見せたくなかったんだけど、1人で抱えてしまったらライブに響きそうだし、今回も従うことにした。


 ・・・・・・・・・


「もう、本番始まっちゃうし、心の準備はしっかりしないと、上手く演奏出来ないかもしれないよ......?」

「......わかってるわよ。わかってるけど、どうしても不安になることがあって......」

「そっか......。今朝の琴実ちゃんは、張り切ってたのにね......」

「全く、どこがよ......」


 体育館の入り口前の長椅子で結羽歌と肩を並べて話し出す。


「起きた時には集合時間過ぎてて、電話が鳴って慌てて飛び起きたもんね」

「張り切る余裕なんてなかったわよ」

「張り切ってたから、あんなに急いで部室に行けたんじゃない?」

「少なくとも、私は部室に行くことしか頭になかったわよ」


 冷房の効いた空間に、私の身体は少しずつ癒やされていく。体育館の中はもう既に暑苦しくて、本番になったら秒でサウナになってるわね。

 それもまた、ライブを味わう大事な要素になったりするんだろうけど。


「それで、琴実ちゃん」

「何よ」

「どうしてそんなに、泣きそうな顔になっているの?」

「......」


 ......そっか。私、泣きそうになっていたのね......。

 いつだったか、私が沢山の人を敵に回して、結羽歌までもが離れて行った。ううん、結羽歌は何が何でも離してはいけなかった。

 私の一番の理解者だって、自分でもしっかり受け止められていた。それなのに、私は、自分のことばかりで......、


 そうよ、私は、自分の元から誰かが離れるのが嫌なのよ。

 誰かが離れるだけで酷い孤独に襲われて、周りが見えなくなってしまう、そんな悪い癖。


「私のバンド、今日が最後になるかもしれないから、それで......」

「......うん」

「いっぱい練習してきたし、あんたに勝つための努力もした。でも、もしこれが最後だったらって思うと......」

「最後なんかじゃないよ」

「......」


 結羽歌は優しく、両手を私の頬に添えてきた。柔らかな感触と共に、頭の奥が暖かくなっていって、胸の重みまでもがどんどん消え去っていく。


「琴実ちゃんのライブは、まだまだ始まったばかりだよ」

「でも、もし今のバンドが終わっちゃったら、次はいつ組めるかも分からないし......。あんたに置いていかれるかもって思うと余計怖くなるのよっ......!」

「私は、絶対に琴実ちゃんを置いていったりなんかしないよ。だって、琴実ちゃんは私の大切な人だから......」

「結羽歌......」


 どうしてなのかしらね。随分と私は、このこに酷いことを言ったと思うし、強く当たったこともあった。それなのに、結羽歌はずっと私の隣を歩いてくれた。どんなに辛いことがあっても、結羽歌となら乗り越えていけた。

 私の面倒な性格だって、受け入れてくれた。


「それに琴実ちゃん、始まる前から終わるかもなんて、なんからしくない」

「......!」

「私の知ってる琴実ちゃんは、始まる前は大きく見えてるはずだよ?」


 大きく見えてる......ね。その意味をどう捉えるかは私次第なのだろうけど、少なくとも結羽歌からしたら、私には倒せるはずのない威圧が立ちこめている......ってことでいいのかしら?


「だから、早く元気出して! 私、今の琴実ちゃんに勝っても、嬉しくない、かな......」


 突き刺さる結羽歌の言葉。ステージに立って、全てが終わるまで浮かれた気持ちがなくなる保証なんてないけど、私にも結羽歌に勝つ権利が与えられているってことが、より強く実感された。


「......そう。だったら、その余裕も感じられないほどに、魅せてやるわよ」


 こんな感情を抱えたままじゃ、一生結羽歌には追いつけない。そんな気がした。


 もう時間はそんなに残されていない。目と鼻の先まで迫った覚悟の時間が幕を開けるまでは、気持ちの整理は終わらせておかないといけない。


 ううん、もういいのよ。だって、さっきまでの弱かった私はここにいない。

 今はまだ、結羽歌によって強くさせられたばかりだけど、いつか必ず、自分の力で強くなってみせるわよ。

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