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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第5章 only my guitar
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気持ち、抑えないといけない

 5月23日


 音琶はあの後鳴香と上手いことやれただろうか、特に事後報告のようなものはなかったけど、今日の部会でどうなったかはわかるだろう。


 部会ではバンド練習のことでうるさく言われるだろう、と察した俺は、昨日グループLINEで個人の練習がどれくらい進んでいるか聞き出した所、全員一通り曲を完成させたみたいだったから一度合わせることにして、空いている時間をそれぞれ調整したら26日の月曜日が丁度よかったのでその日にバンド練習を入れることになった。


 そして残る課題はもう一つ、鈴乃先輩からの警告を決して無駄にしないことだ。

 今日また先輩達の理不尽な命令に従わされることになるかもしれない、そうなったとしても対抗せず自分を守る為に、そして今何が一番大切なのかをよく考えて行動しなければならない。

 先輩達に刃向かってしまっては、俺を必要としてくれる人に心配を掛けることになるかもしれないし、俺自身も何かを失ってしまうかもしれない。

 俺が今まで見てきた景色は何もかも全てが真っ黒に塗りつぶされていたけど、そこに僅かな光が差し掛かってるような感覚がないわけではないのだから。


「ライブまで1ヶ月とあと少しなので、そろそろ練習もしていると思います。カレンダー見る限りどのバンドも最低でも一つは入れてるみたいだな、決して手を抜かないようにして下さい」


 練習の話については特に言及してこなくて安心した。

 あとは練習中に何か問題が生じなければいいのだが。


「それと本番でやる照明とPAを1年生の中から最低でも一人ずつ今日中に決めようと思います。あとで1年生は集まってくれ。ライブのポスターも作るので、それについては後日LINEで連絡します」


 はい出た、今日中に決めるとかいうやつ。

 もっと早くから言えや。


「最後に、またXYLO BOXでうちのバンドがライブやります。みんな予定開けといて下さい、5月31日の土曜日にやります」


 こっちの告知は前もって言うのかよ、普通優先順位逆だろ。

 今度は誰が出るのか気にはなるけどさ。


「以上です、この後の飲み会は六つに分かれてくじで決めます。解散」


 部長の合図と共に1年生が集まり出す。

 流石に部会を重ねていくごとに先輩達からの圧力も伝わってきたのか、1年生の結合力なるものが強くなっているように感じられた。

 照明とPAに関しては初心者がいきなりするのは相当大変なことだから、ある程度経験のある奴がやった方がいいとは思うけど、先輩達はどう采配するのか。


「1年生全員居るな、それじゃあ手短に」


 その場で浩矢先輩と部長が合図を出す。


「俺らとしては照明とPAは一度も経験がない人を選出したいと思っている。この中でどっちもやったことない人は手挙げろ」


 浩矢先輩がそう言うと1年生の半分以上が手を挙げた。

 俺は何度か触ったことのある程度でそこまで細かい操作はしたことがなかったけど、一度も経験がないわけではなかったから挙げなかった。

 音琶もバイトでやったことがあるだろうし、結羽歌は現在進行形でバイトの時に触れたことくらいあるだろうから挙げてない。

 全くの初心者にいきなりやらせるなんてことないよな、こいつらのことだからやり兼ねなさそうで恐ろしいんだけど。


「挙げてない奴は戻っていいぞ」


 一通り誰が残っているか把握した後、浩矢先輩は挙げた人だけ残した。

 後は飲み会の準備ってことになるのか。

 

「お疲れ様、一人一本引いてね」


 鈴乃先輩が俺に割り箸で作ったくじを差し出してきた。

 手で隠されてる部分に先輩の名前が書いてあるんだな、この中に当たりくじは鈴乃先輩以外入ってないだろうけど。


「うわ......」

「夏音、声に出さないように気をつけて」

「あ、はい......」


 俺が引いたのは今議論中の浩矢先輩だった。

 これからあの人の部屋に行って飲み会すんのかよ、地獄でしかねえ。


「次は結羽歌だね」

「はい......」


 緊張した面構えでくじを引く結羽歌。

 そして書いてある文字を見て、安堵の表情を浮かべる。


「結羽歌は私の部屋だね、結羽歌と飲むのは久しぶりだから楽しみだな」


 マジか、もし良ければそのくじ俺のと交換しても良いんだからな。

 でも結羽歌に浩矢先輩のくじと交換するのは、いくらなんでも申し訳なさすぎて気が引けた。


 次の瞬間、密集していた1年生が次々と解散していって、くじのある所へ集まっていく。

 結局照明とPAは誰がすることになったのか、そっちの方を見ていなかったからわからなかった。


 それにしても心配だ、先輩のフォローが最低限つくとして、先輩が先輩だから辛いという理由で誰かが辞めたりとか充分にあり得そう。

 そんなことを考えたりしたけど他人の心配をし過ぎるのも良くないから浩矢先輩の元へ行く。


「夏音か、お前俺の部屋なのか」

「そうですけど」

「お前と飲むのは初めてだな、全員集まったら買い出し行くからちゃんとついて来いよ」


 相変わらず人を見下すような話し方は変わらないけど、この人とも最低限の関係を築いていかなければならないのか......。

 自分の為に、ってことはわかってるけどこれはこれで至難の業だな全く。


「あら、夏音もここなのね」

「夏音以外みんなベーシストになっちゃったね~」


 隣で声がしたと思ったら高島琴実だった。面倒くさい奴が増えた、今からでも帰りたいんだけど、駄目ですかね......。

 そしてもう一人、2年生のベース、戸井茉弓(といまゆみ)先輩が同じ飲み会のメンバーとなった。

 この人と話すのは今日が初めてになるけど、鈴乃先輩と同じバンドを組んでいることもあって比較的平和な人であることを願う。

 俺、浩矢先輩、高島、茉弓先輩というメンバーで飲み会をするに当たって不安100%期待0%という心境なのだが、果たして無事に帰ることはできるのだろうか。

 頼むから早く終わってくれよ。


 ***

 

 夏音とは昨日までに鳴香に謝るって約束したのに、まだ果たせてなかった。

 何もしてなかったわけではない、話しかけても鳴香は相槌を打つだけで私の言葉を聞き入れているのかわからなくて、完璧にタイミングを失ってしまった。

 でも今日の飲み会のグループを見る感じだとチャンスかもしれない、メンバーは兼斗先輩、榴次先輩、そして鳴香になった。

 兼斗先輩の部屋に当たってしまった以上飲まされることは覚悟の上だけど、そうなってしまう前にもう一度鳴香に謝んないと。

 とても飲み会中に謝るなんてことは出来ないけど、折角仲良くなったんだから、このままでいるのは嫌だった。

 頑張らないと、そう思いながら私は買い出しに向かう兼斗先輩の後をついていった。

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