創音、意見のぶつけ合い
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本番前なのに汗まみれになって、大人っぽい下着まで見せつけることになった私のプライドはズタズタになりつつあった。
寝坊した私が悪いんだけど、罰にしては重すぎると思わなくもないわよ?
それはともかく......、
「もう一回同じとこやるんで、PAお願いします!」
あいつら、リハの段階でどんだけ飛ばすのよ......。
リハは本番と違って音を合わせるだけでいいのよ? それなのにあんな真剣になって掻き鳴らすだなんて......、らしくないわね。
「すいませーん! ベースもっと下さい!」
「リードの音まだでかいんで、もう少し下げてもらえますか?」
「あ、ちょっと! 私の意見の方が先だからね!」
「お前の音がでかいからベース聞こえづらいんだよ」
「そんなことないもん!」
......音琶と夏音は相変わらずのバカップル振りね。よくもまあ、あんなステージの上で堂々と見せつけられるものよ......。恥ずかしいって自覚はないのかしらね?
でも、音琶が言っていることも夏音が言っていることも間違いではない。音琶からしたらベースの音は小さいし、夏音からしたらリードの音は凄まじく大きい。
こういった意見をぶつけ合って、音のバランスを整えることがリハの本来の姿なのよ?
「まあまあ、俺だって結羽歌の音聞こえづらい時あるから、上川の言ってることは間違ってねえよ」
「そうだよ夏音! 日高君の言ってること、ちゃんと受け入れてよね!」
「はいはい」
「真面目に答えてる!?」
「俺は至って真面目だが」
「言ってることと言い方が合ってないよ!」
......とまあ、バンド隊を止める度に夫婦漫才が公開されているわけなんだけど......、ちゃんと時間気にしてるの?
「残り5分でーす」
「はっ......!」
響先輩の合図で2人は我に返り、音琶は急いでエフェクターを踏み直す。夏音に関しては......、特に何もしていない。
「......もっかい、同じとこやって、終わろっか」
「......俺もそのつもりだ」
突然恥ずかしくなったのかしらね、音琶も夏音も目線を下に向けながらやり取りをしていた。後の3人も苦笑しながら頷いて、リハは再開された。
・・・・・・・・・
「あのバンド、本当に仲良いよね」
音琶達のリハが終わり、今度は私と響先輩のユニット、Not equallの時間になった。
ベースの準備をしていたら、椅子に座りながらアコギのマイク位置を調整していた響先輩に話しかけられたけど、この人は一体何を言って......?
さっきの音琶と夏音のやり取り、ちゃんと見てなかったのかしらね? どう見ても仲が良いようには見えなかったんだけど......。
「......そう見えますか? 喧嘩ばっかしてましたけど......」
「仲が悪かったらあんな風に言いたいことはっきり言い合わないんじゃないかな? 喧嘩になること承知で意見を出し合うなんてこと、お互いを信頼しているから出来るんだよ」
「そんなもんなんですかね......?」
「第一に、あいつらは残り5分っていう短い時間で、ほぼ完璧に音を整えていた。俺らだったら、あんな短時間であそこまでは出来ないよ」
「......」
確かに、最後の5分であいつらは全会一致の音を創り上げていた。どんな裏技を使ったのか私も気になるところなのだけど、喧嘩するためにわざわざ半分以上の時間を費やしていたのなら、ちょっと許せないわね......。
「私達のバンドは2人だけなので、さっきよりも早く終わらないとまずいですよね?」
どうしてか、私は同期のあいつらと自分を比べてしまう。最初は結羽歌だけを意識していたけど、段々視野が広がっていって......、
「早くやれれば良いわけじゃないってこと、忘れちゃだめだよ?」
そう言った後、響先輩は右手を上げて、PAに準備完了の合図を出した。
全く、何ニヤニヤしてんのよ。私だって、あんたらより綺麗な音創れるってとこ、見せてやるんだから。




