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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第37章
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熱意、見せるべき姿

 体育館に戻ると、入り口前の長椅子に座りながら結羽歌と琴実が談笑しているのが見えた。


「暑っつ~い......。汗で服の中グショグショなんだけど......」

「今年の夏も暑いよね......。ライブ中熱中症にならないか心配かな......?」

「体育館冷房効いているから、今のうちに水分補給しっかりしないとよね......」

「スポーツドリンク2本は必要かな......?」

「うーん、もっとあった方が心強いかしらね......」


 2人とも気持ちに余裕があるのか、会話の声からは緊張感がない。迫り来る猛暑にすっかりやられてしまっているみたいだった。


「あ、音琶戻ってきたわね。お昼ご飯は済ませたの?」

「うん、菓子パン食べたよ」

「いいわね、こういう日には糖分が大事だものね」

「そういう2人は何食べたの?」


 この2人と居れば、さっきまで起こっていた事件を忘れてしまうんじゃないかってくらい気持ちが落ち着く。琴実との出会いは最悪の二文字だったけど、今は違う。私の心の拠り所の1人であって、お互いに苦難も乗り越えてきた。

 もし、今ここで鳴香の話をしたら、琴実は何て言うんだろう......?


「私は学食でカツ丼食べたわよ? ライブに勝つって意味でね」

「私は、冷たい蕎麦食べたよ」

「いいね! ところで琴実、勝負する相手はいるの?」

「勿論いるわよ。私の隣にね」


 そう言いながら、琴実は隣に座る結羽歌を見る。そう言われて結羽歌は恥ずかしそうに下を向きながら、小さく頷く。


「うん......。去年のライブでは、琴実ちゃんの方が上手く出来てたけど、今回こそは私が......!」


 前髪で目が隠れているから、どんな表情をしているかは分からなかったけど、言葉の重みでライブへの思念が、今まで以上の強い心で宿っているようだった。


「そういう音琶は、勝ちたい相手とかいるの?」

「え、私!?」

「うん。だって、さっきから......」

「さっきから?」


 琴実はそう言って私の足下に視線を落とした。

 あれ、おかしいな......。寒くないのに、どうして足が震えているんだろう。まだ身体は保っているはずなのに......。


「武者震いってやつかしらね?」

「えっと、これは......」

「まさか自分でも気づいてなかったの?」

「うん......」

「全く、相変わらずね。今日のあんた、いつもよりもずっと変よ?」

「私、いつも変に見えているの!?」

「変じゃなかったことが今までにあったかしらね......」


 琴実から見た私って一体......。

 それは置いといて! ここに来るまでに私が何を考えていたかなんて、それは一つしかない。でも、今回のライブで私は''ソレ''と直接ぶつかるわけじゃないし、勝ち負けとかは関係ないはずじゃ......。


「まあいいわよ。音琶の身に何かがあった、ということは間違いなさそうだし。なんなら話してくれたっていいのよ?」

「むぅ、女の子の悩みは少々複雑なんだよ?」

「いいじゃない、悩むことも楽しみの一つだったりするのよ?」

「琴実がそこまで言うなら、話してもいいけど......」


 渋々ながらも私は鳴香との言い合いについて話していった。正直、私と鳴香の演奏技術では勝負するまでもないくらいに差が開いていると思うけど、あそこまで言うんだったら相当自分の演奏に自信があるんだと思う。

 それか、勝てっこない相手に強気な態度を見せることで、自分を優位に立たせているだけとか......。


 どちらにせよ、私には関係無い話なんだよね。鳴香がどんなやり方でサークルを繋げていようとも、私とは無縁の世界なんだから、文句を言われる筋合いなんてどこにもない。


「へぇ......。あの頑固娘、随分と偉くなったのね」

「鳴香ちゃん、音琶ちゃんにそんなこと言ったんだ......」


 一通り話し終え、琴実も結羽歌もどこか呆然としていた。


「うん、まあね」


 でもこれで、音同と軽音部の対立がより明確な形となって現れた気がする。自分の価値観を押しつけたところで何も得られるものは無いし、始めから分かり合えない人と仲間同士になることも出来ない。

 どうにもならないことを偉そうに語っても、私達音同部員の心には何も響かない。


「でもまあ、これで私の目的が見えてきたわよ」


 琴実は頭の中で鳴香の姿を浮かべているのかな? 視線は斜め上を向いていて、睨みつけるような顔になっていた。


「あの分からず屋に私の演奏を見せて、私が軽音部を離れたこと、心の底から後悔させてやるわよ! 私の方が努力している、才能がある、演奏が優れているってことを知らしめて、半べそになりながら帰ってもらわないと気が済まない!」


 怒りに溢れているわけではない。別に鳴香を蹴落とすわけでもない。

 音同の本気が如何なるものなのかを知ってもらう。それが私達のライブで見せるべき姿なんだ......。


「なんか私も、一気にやる気出てきたよ......! 琴実ちゃんにも負けないし、鳴香ちゃんにだって......、私の全て、見せるんだから......!」


 同じタイミングで入部して、お互いを支え合いながらここまでやってきた。

 音楽に向ける情熱は去年から、誰一人変わってなんかいない。


 私達の演奏で、見ている人がどんな感情になるか、どんな気持ちを抱くのか、まだ誰も知らない物語の幕が開こうとしていた。

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