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俺のドラムは少女のギターに救われた  作者: べるりーふ
第37章
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勘違い、産まれたやらかし

 マイクのコードを抜く手を止めようと、慌てて静司先輩の元へと右手を伸ばしたけど時既に遅し。静司先輩の手に掴まれているコードは端子が剥き出しになっていた。


「あ......」

「上川ちゃん......? 何してんの?」

「いや、そのマイク......よりによってコンデンサー......」

「え......?」


 静司先輩を止めようとした時、私は勢い余って転んでしまったのだ。それを見た静司先輩は目を丸くしながら私に問いかけてきたけど、まさか自分がやったこと気づいてないのかな......?


『ちょっと何してんですか? 早く作業戻って欲しいんですけど?』


 まさかの展開に驚いた......わけではなさそうだけど、夏音がマイク越しに合図を出していた。作業が中断されちゃったから、早く戻らないと開演が遅くなっちゃう......じゃなくて!

 マイク! あとスピーカー! PAに確認取らないまま外したんだから、壊れちゃったかもしれないじゃん! 夏音も静司先輩も、何呑気な顔してんのさ!


「いやだって! 夏音に確認取らないまま外しちゃったら......って、あれ......?」


 そう言えば、スピーカーから端子を外したときに出る大きい音は鳴らなかったような......? ってことは、私は何か勘違いをしていた......?


「上川ちゃん、もしかして焦ってる?」

「いや、あの......、もしかして最初から音量ゼロでした......?」

「そうだったけど......、ゼロじゃなかったら何も言わずに抜いたりしないって」

「......」

「夏音からはテストする時に音入れてもらうように頼んであったから、今はいくら差しても抜いても大丈夫だよ。てか上川ちゃんもそうだったんじゃないの?」

「えっと......」


 私、一体何を考えていたんだろう......。自分の作業に没頭しているあまり、他の人のことを勝手に心配して勝手に勘違いしていたなんて......。

 うん、確かに爪で引っ掻くまでの間は、こっちのマイクも音量がゼロだったんだと思う。夏音はそれぞれのパートが合図を出すまでは、全部ゼロにした上で指示出してたんだ......。

 ライブハウスでバイトしている身なのに、どうしてこんな変なとこでミスしちゃったんだろう、恥ずかしい......。


『音琶......。ドラムのマイクは最初から切ってたからいくら端子抜いたところで壊れたりしねえぞ。今はギターのしかONにしてないから安心しろ』


 夏音からもマイク越しで突っ込みを入れられた。そのせいで部員全員に私の恥ずかしい姿と説教が公開されちゃってるんだけど......。


「ご、ごめんなさい......」


 うう、穴があったら入りたい......。慌てても良いことなんて何もないのに、どうでも良い所でミスしちゃうなんて、私らしくないな......。


「あははっ! 上川ちゃんってほんとに面白いよね!」

「せ、静司先輩......?」

「あんなに大きい声出して心配するなんて、そんなに俺が頼りなかった? にしてもあんな盛大に転ぶだなんて......あはははっ!」

「そういうわけでは......。ただちょっと、壊れた時のことも考えていたから......」


 静司先輩に笑われて、恥ずかしさが更に増大してしまった。もう、このまま消えてしまいたい......。


「ほんとに上川ちゃんは機材を大事に思ってるんだね、あそこまで必死に思う気持ちは大事だよ」

「は、はいぃ......」

「だいぶ時間経っちゃったから、作業再開するよ」

「了解しました......」


 まだ笑われたから良かったかな......? でももうあんな失敗しないように、気をつけよ......。


 ・・・・・・・・・


 多少のアクシデントはあったけど、なんとか結線が終わり、全てのマイクが動くことも確認されたし、もう1本追加、みたいなことにもならなかった。

 うん、みんなちゃんと連携取れてたし、あとはチューニングとリハやれば本番......。


「大丈夫かよ音琶」

「夏音......、私今最高に恥ずかしいよ......」

「そりゃあな、あんな盛大にやらかしたんだからさ」

「うぅ......」


 PAの席で夏音の隣に座り、肩を落とす私。夏音はそれを見て心配の言葉をかけてくれた。

 過去に結羽歌が誤ってベースのアンプ壊しちゃったことあったし、あれ以来機材の扱い方を改めたのは事実だけど、今回は誤解で私が出しゃばっただけ......。


「まあそう落ち込むな、静司先輩も全然気にしてないし、俺だってもうどうとも思ってない」

「うん、それなら......良いんだけどさ」

「緊張してるから込み入ってるのはわかる。でもな、あまり悪い方向に考えるな」


 そう言いながら夏音は、自販機で買ったペットボトルのお茶を渡してきた。夏音も同じの横のテーブルに置いてるし、最初から2本用意してくれてたんだ......。

 こんな時でも......ううん、こんな時だからこそ私のこと思ってくれてて、最高のライブを創り上げたいって思ってるんだもんね。

 みんなの前で落ち込んだ姿なんて見せられないよ。


「わかったよ、ありがとね」


 単純な言葉しか返せなかったけど、それでも夏音への感謝の気持ちは満タンだよ。お茶を受け取って軽く喉に流し込むと、これまで疲れて熱くなっていた身体が一気に涼しくなっていった。


「甘いものも食っとけよ」

「うん!」


 夏音はまだマイクのテストをしなきゃいけないみたいだから、私は一足先にお昼ご飯にでも行こうかな。夏音が言ってた通り、近くのコンビニで甘い菓子パンでも食べて、気分落ち着かせよっと。

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